「声の裏ワザ」Vol.2
○声のことでくよくよせず、体のキープを怠らない
どんなことがあっても、ベターな状態に心を切り替えられる能力が問われます。
うまく声が出ないことが心労、過労のせいなら、そこですぐにぐっすり眠れる能力が必要です。眠ることは食べること以上に大切なことです。体、喉という楽器は、疲れていてはうまく働かないのです。
私はレッスンのときに「一日レッスンして一晩寝て一回」これを重ねるように教えられました。つまり、眠ることもトレーニングなのです。まして、迷ったり、くよくよしてばかりでは、喉の疲れもとれません。
「考えても仕方のないことは考えない」これを「莫妄想」といいます。これには何事も二分して考えることの戒めも含まれています。覚えておいて損はないでしょう。
息を吐き、吐く息を手にあてましょう。
息を何回か吐いてから、声にしていきます。体と感覚が起きて、より働きやすくなるからです。
「ハアー」から、「アー」にします。息はすべて、確実に声にします。声にも、すべて声、息まじり声、息声と、あります。
□心の持ちようから、トレーニングしていく
○これまでの自分の声歴を参考に、大きな器をつくる
確実な成果としてみえるのは、声としての楽器づくりです。人間の使える可能性の平均レベルにまで、多くの日本人は耳・発声とも訓練していないので、達していません。
そのために声づくりというフォームづくりから行うのです。日常的にいい加減に低いテンションでしか出していなかった声を、しっかりとトレーニングでリフレッシュさせるのです。
演劇、ミュージカルやオペラでは、いろんな姿勢で声を使います。フォームができてきたら、何でも対応できます。
基本が身につくということは、状況が変わってもそれに対応できる応用力がつくということです。
たとえば、寝ころがって、両足を動かしながらとか、腹筋で両足を少しもちあげて試してください。いろんなところへ共鳴するのを感じてみてください。動きをつけながら練習するのは、かまいません。
次に力を抜いて、「あー」と弱い声で出してみてください。高さや音を変えてみてください。
大切なのは呼気(呼気量)をどれだけ効率よく声に変えられるかです。息がいくら多く吸えても、声として活かせないのであれば、意味がありません。
充分に自分の体を使い切ること、全身で歌えるところまでトレーニングすることが大切です。いかに少ない呼気で無駄なく共鳴させられるかで、声も決まります。
第一にほとんどの人は、息を充分に吐けるだけの体になっていません。日本では、プロの活動をしている人でも、呼吸力の不足で歌がうまくまわらない人が少なくないのです。呼気を声に変える効率が悪く、息のロスが多いとさらにそうなります。根本的には、声と息が深くなり、結びつくのを待つしかありません。
息をあまりに吸いすぎないことも大切です。必要以上に吸うと、胸部までいっぱいになって、キープして使えなくなります。
□発声の基本は、フォームと器づくり!
○腹式呼吸は、走って寝ころんだり、腹から笑ってみる
腹式呼吸についても、トレーナーは、寝ころばせて呼吸させ、あなたのお腹を触らせたり、トレーナー自身のお腹を触らせて、動きなどを示します。
前腹よりも、腰のまわり全体がふくらむ方が大切です。といっても、よく動く人も動かない人もいます。体型、体質にもよります。
気になるのは肩や首まわりの固さです。上半身や胸に力が入っているなら、抜きましょう。
誰かに習ってきた人には、とても不自然なブレスも目立ちます。すごくお腹に力を入れている人、鼻から吸って、歌に間に合わない人など、“呼吸ができていない人”がほとんどなのです。
求められる腹式呼吸というのは、お腹から声を出しているように感じられるものです。声の支えが体の中心になっています。胸式呼吸でも肩や胸の動きが目立っていなければよいのです。
軽く走ってみてください。お腹(横隔膜)が動きます。次に胸が波打ちます(胸式)。さらに肩が上下します(肩式)。体が酸素を急激に補おうとするためです。息がぜいぜいでは、喉も安定せず、とてもていねいにコントールする歌には向きませんね。
でも、プロは走りながらロックも歌えるし、せりふもいえます。
せりふを全身で使えるトレーニングをしましょう。それで喉にひっかかるとか、肩から上しか使われていないなら、低い声(太く)で「Hai」と腹から(喉にかけずに)言ってみてください。
前屈姿勢がわかりやすいです。イスに座ったり、寝ころんだ方が行いやすいなら、そのようにしてください。声が出せないところなら、息読みでよいです。首筋はたて、あごはひいてください。
息のトレーニングから<S><Z>の発声にしていきましょう。
□呼吸が身につくには時間がかかる。地道にやろう!
○お腹から声を出すのは、腹筋で出すのではない
「スポーツのように鍛えてはよくない」と心配する人もいますが、不自然なまでに、腹筋(前腹)を固めないことくらいです。ボディビルダーなどの目的とは違うというだけで、腹筋トレーニングが必要な人もいます。
腹式呼吸も喉の筋肉なども、ことばの知識だけで教わり、かえっておかしくしている人が少なくありません。下腹に力を入れるという丹田呼吸(法)というのも、混乱の元です。
腹式呼吸は、誰でも身についているのです。私たちはふだん、あるいは眠っているときに、無意識のうちに腹式呼吸中心で呼吸しています。
ですから、発声に伴って、腹式呼吸が 無意識的にできるようになる必要があるということで、意識的にトレーニングするのです。
つまり、腹式呼吸は、それ自体がマスターとか、完成という段階があるのではなく、使うことへ対応できる程度問題なのです。
役者や歌手でも 必要度はそれぞれに違うのです。あがってしまうなどということも、この腹式呼吸でかなり改善されます。
吸うことを意識し、吐くのと同じか、それ以上に時間をかけてがんばって息を吸っている人がいます。しかし、実際は、“吸う”というより“入る”といった感じがよいのです。
肺活量は、成人を過ぎると、少なくなっていきますが、あまり関係ありません。
○ブレスを聞き、ドッグブレスで鍛え、深い呼吸にする
お腹から発声するのと、お腹で力を入れて出すのとは全く違います。お腹をへこませて声を出すのも、お腹をふくらませて声を出すのも、固めるのはよくありません。
最初、お腹は前しか動きませんが、お腹の底まで入ると、横隔膜は平らになって横や後ろもふくらみます。満腹時はムリです。
息を吸うときは、まず吐いてしぜんに入るのを待ちましょう(呼吸動作を吸ったあと、吐いたあと止めさせるトレーナーもいます)。
あがると息が入りにくくなるのですが、入れるより吐けばよいのです。吐き切ったら、入ってきます。これを短時間に何回もやると、お腹がきついでしょう。だから、鍛えるのです。
歌うには、どんな一瞬でも、どんな体勢でも、息が瞬時に入っている(キープできている)体が望まれます。そのためのトレーニングです。
ステージでの活動中に息がどんどん浅くなったり、充分に吸えなくなっていく人が多いです。きちんとリセットしてリピートしないと、喉も安定せず、発声時に少しずつロスが生じていきます。それを支えるのが、息の支え(お腹の支え)です。
腹筋は、お腹から笑いすぎると痛くなりますね。それに耐えられるくらいには、強化しておきましょう。これも個人差があります。
ドッグブレス(走ってきた犬が「ハッハッハッ」と息するようなトレーニング)をしましょう。(やり過ぎないように注意。)
○表情やしぐさも加え、声量として感じさせる
声量はバランスの中での鋭さ(インパクト)であって、大声とは違います。つまり、構成や展開のなかでの見せ方、大声よりも密度の濃さ、ピークと捉えてください。
サビは強く、気持ちのフォルテッシモなのです。
ヴォイトレにおける声量トレーニングというのは、別に考えましょう。
現実には、声量よりも声のノリや輝き、インパクトとイメージして使ってみてください。表情、アクション、演出、音響、ハモリやコーラスなど、アカペラでは、声量勝負と思われるものも、今のステージではさまざまな見せ方でヴォリューム感を出せるのです。
声がバックの音にかき消されるなら、他の音を下げるべきです。客は騒音を聞きたいのではありません。そこで抜ける音や声の使い方の研究をしてみてください。
生の声を大きくするのは、声が届かなくて通じないことのないレベル以上にで、あとは耐久力(再現力)のある範囲内で扱います。
・モニターに左右されすぎない
・見せ場とバランスを考えない
・口とマイクとの距離をチェックする
声に芯があり、せりふや歌に線があり、線に変化があって、その線の動きの変化を捉えてはじめて、聞く人はヴォリュームを感じます。鋭く切り込んだり、徐々に大きくなっていくことで、感情が盛り上げられ、高揚します。せりふや歌というのは、だいたいそのようにつくられています。
声の大きさは、自分を相手に伝えるために、表現上で必要とされることの一つにすぎません。自分のメッセージが上手に伝えられるならば、それで充分です。
むしろ声量をもって、表現の効果を損ねるのをさけましょう。声のよい人、声量のある人が、音響技術の発展した現代では、サウンドと融合できず、あまりよい表現者にならないのは、声量や共鳴を聞かせたいと本人が思っているからです。どんな武器も、目立たせずに、繊細に使えなくては、無意味です。
声量については、体から声の出せる目安として、充分に動きに耐えられるように使えていないなら、使えるようにしていくことです。つまり、声を大きく出すのでなく、大きく出せないように邪魔をしている要素を取り除いていくのです。
ちなみに現場では、私は声量が必要なとき大きく出せるのでなく、大きく出しているように聞こえるようにさせます。本当に大きく出すと、音響を通すと一本調子になります。むしろ、鋭い切り出しや抑揚のつけ方で、声量を感じさせるのです。
○太い声にする
声楽も私の「ハイ」のトレーニングも、そのためのメニュです。「ライ」でも「マイ」「ネエ」「ナイ」、何でもストーンと一声でいえてしまうことばで、通る声として扱ってみてください。
「ハイ」は、ハ・イでなく、Hai(二重母音=一拍)の感じです。次に、より「大きく太く強く」を目指します。次は、三音(三重母音、人によってはこれを必要とせず、あるいは、向いていないためにストップをかけることもあります。)
これは、ベターか、あるいはベストの声づくりに、つまり、「プロの声は、プロの体から」というのを想定します。そこはできたら急ぎたくないところです。
急ぐと喉をこわします。体やバランス感覚が整わないのにやりすぎると、くせがついたり、思い込みのなかにとらわれます。それを避けるには、いつもこの先に何があるのか、これは何をどう使えるのかという、柔軟な問いをもつことです。
つまり、体の発声の原理に忠実に、余計な邪魔ものを削り落とし、それを最大限生かせるように心身を強化していくと、声域・声量もその人の生まれもって与えられた最大のところまで使えるようになるのです。結果として獲得する分は欲張ってもよいといっているのです。ただし、それは目的でなくプロセスとして得ていくものにすぎません。
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