「物語」(3) Vol.60
○物語と日本の歴史
『伊勢物語』中央の貴族のなかに、地方を題材とした物語が生まれた。
『大鏡』物語風物史のなかでも、比較的自由な批評精神。従者が重要な地位。
六歌仙の時代、漢詩・漢文への対抗意識で、和歌は、日常的なものとなった代わりに、詩情の豊かさに欠ける。物語がこの時代を代表する文学として登場。
(摂政政治)物語の時代『かぐやひめ』伝奇的要素、異国文化への憧憬、唐の影響。
『源氏物語』宮廷貴族の不安と憂鬱、宗教的感情、淫蕩と退廃、冷静な批評心と反省。
(十一世紀末の院政)説話集『今昔物語』、いろいろな階層の人々の生活や気質や東国の住民の生活や戦争など。
『平家物語』戦記文学の最高作品、平家一族の没落を物語った叙事詩、歴史と人間の運命の転変を物語る。
[「物語による日本の歴史」武者小路穣、石母田正(講談社学術文庫)による]
○『平家物語』にみる伝承
「中世の文化は、漢字漢文に親しむ貴族や、経論を学び梵字まで知っている僧侶だけが生み出したわけではない。宮廷の文化は、仮名文字しか読めない女性にとって支えられていたし、祭礼や歌や舞を担い、地方の歌謡を都に持ち込んで流行の旋風を起こした人々も無文字の人々であったに違いない。無文化の社会に豊かな文化があり、活発な知的活動もあった。
文字のない社会では、ことばは声で伝えられ、記憶された」
内乱のさまざまな出来事を日記に記した貴族は多かったし、戦闘に加わった武士が、自分の戦功を述べた軍忠状を書くようになるのは、鎌倉時代後期以降。
「人々に書写されて広まっていく間に、書き誤ったり、書き換えられたりすることが起こって、異本ができていく」何人もの作者がいて、いくつもの『平家物語』が書かれた、琵琶法師の語りによって親しまれ、語りの台本が作られた。
「琵琶の前奏、間奏に導かれる語りは、節のない素声(しらごえ)、口説(くどき)、合戦の場を語る早い拍子の拾イ、最も旋律的なフシなどさまざまな語り方の組み合わせ」
約二百の『平家物語』の章段が「平物」「伝授物」「灌頂巻」「小秘事」「大秘事」に分類、内容、節回し、発声などがさまざまに分けられて、稽古の階梯(かいてい)が定められる。
「灌頂巻」は高貴な女性が語る段で平曲の秘伝を伝授する巻
「一字一字が意味と由来を持つ漢字を学んでしまった日本人は、声から文字へという自然な流れと逆に、文字を声に移すために文字に合うことばを選ぶ、という努力を続ける」
「声を文字(仮名)に書き留めることと、文字(漢字)を声に移すためにことば(和語)を選ぶ、という二つの営み」
[「中世の声と文学」大隅和雄(集英社新書)による]
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