「歌の裏ワザ」Vol.3
○ハイトーンを出すには、自分のメソッドをつくる
ハイトーンは、高い声のトレーニングばかりしていたら、何となく出るところまで出るようになります。なぜなら、ギアがトップにシフトするからです。
よく特別なメソッドのように、生理的理屈なのに高音メニュを使えば、誰でもすぐにできるというトレーナーがいます。こんなことは当たり前です。高い声ばかり、続けて出していたら、誰でも高音へシフトして、出せるようになります。
注意することは、喉を固めず、ひびきの焦点と方向性を定め、集中することです。
ただし、ひ弱な声ですから、当たり前のように、すぐに限界がきます。
無限に高いところまでは、誰も出せませんし、出す必要もありません。こんなムダな挑戦のために、多くの人がとてつもない年月をムダにしています。
マライアキャリーのような笛声は、声帯にもよるのです。同様に、男性が女性以上に高い域を歌おうとすることも難しいことです。
その目標は、自己満足の他に、意味があるのでしょうか。女性に任せたらよいのです。
しぜんと高い声で歌える人が歌っているのは、もって生まれた喉と、それを妨げずに使う器用さを伴ったからです。
トレーニングには、できることとできないことがあります。できないことにセッティングして、喉に無理がきては、もっと大切なことがなおざりになります。ストライクゾーンは人によって違うということです。
現実的には、ヴォイトレでは声のていねいな扱い方を、中低音域で獲得していくことの延長上に、高音は取り組むことです。
特に高音でやるだけやってきた人(自己流やトレーナーなどによりくせのついた人)は、一度そこを忘れて、喉を休め、楽に声の出る感覚を取り戻すことです。
一方、まともに高いところを出したことのない人や、高いところの方が自他ともに出やすい人は、高いところでトレーニングしてかまいません。
そういうメニュは、たくさんあります。他人のを使うよりも、自分で考えた方が、自分にふさわしいものができます。できたら、ハイトーンで、自分の得意なフレーズをそこだけ繰り返しやってみてください。
大切なのは、力や勢いでぶつけるようにするのでなく(大声でなく)、焦点を絞り込み、ひびきを集めるようにしていくということです。
声楽でのアプローチもおすすめです。ただ、浅くうすっぺらい共鳴(キンキン声)を目的にしないことです。
日本人は比較的、鼻にかけやすいので、頭部共鳴ばかり中心にする人が多いようです。しかし、本来は、体壁振動としての胸(ペット)でのしっかりした共鳴が大切です。その上に頭部でまとめるのが理に適っているのです。このあたりは、自分に合った方向をとりましょう。
いろんなヴォーカルの高音を聞くのはとても参考になります。そこから考えてみれば、おのずとわかるのではないでしょうか。ただし、ハイトーンが魅力のヴォーカルよりは、声域全てをバランスよく使える人を見本にした方がよいです。
胸から頭のてっぺんまでの線上で、共鳴ポイントをとり、高低と関係なくある程度、自由に動かせるようにと伝えています。
教科書的に答えるなら、低い声は胸声、高い声は頭声で眉間や頬骨などを意識してくださいということです。
声域は、広がればよいというわけではありませんが、使いようです。厳密な再現性をもって、コントロールできるのが、歌に使える声域です。
本来、かなりの自由度(音色、強弱、ふくらまし、発音)をもっていなくてはいけないのです。
○ファルセットは、鼻腔の奥を意識して、身につける
地声(modal register)と裏声(falsetto register)。声帯はその開閉によって振動して、声を生じます。話しているところが、地声です。
高くなると、その開閉のスピードが高まります。その限度を超えたとき、完全に閉じずに部分的に開閉することで振動を速くするのが裏声です。つまり、ギアの切り替えだと思えばよいでしょう。
ここでは裏声に対しての地声(表声)として述べます。
それに対し、頭声は、高音域の正しい発声によってもたらされる声の出し方とその音質のことをいいます。その上にある男性の裏声を、ファルセットといいます。
ここはファルセットで歌わなければ、と決めつけはして欲しくないのです。声のひびかせ方の一つとして、練習してみるのはとてもよいことです。
裏声で出してみてください。
「ホーホー・・・」と、いろんなところ(特に頭に)にひびきます。
一番出しやすいものか、一番完成度のあるものの中で使えそうなものをストックしておきましょう。
私としては、声は、再現性に尽きると思うゆえ、レコーディングでは加工できたが、ライブでは使えないファルセットはちょっと・・・ですが。
自分の表現の可能性を大きく広げる声として、ファルセットや裏声は研究してみる価値があります。
高くなるにつれて、イメージでは低くなるようにもつとよいでしょう。
お腹の支えがはなれ、喉がしまってきたらストップです。
このときには、いくつかの解決方法があります。
・声量をおさえて、顔面を捉えて喉を解放する。
・高くしてファルセットにする。
ここでうまくいく人は、高音から練習するのもよいでしょう。しかし、声の芯がなく、まとまりに欠ける人は、一度、中低音域で徹底したヴォイトレをした方が、結果としてよいでしょう。
「ネェ」「ニャー」「ホー」
ヨーデルの「ラリホー」
「フンンン」「ルルル」
見本:ヨーデル、ボビー・マクファーリン、スタイリスティックス、アースウインド&ファイアー
美空ひばりさんの、「哀愁波止場」などのファルセットを聞いてみてください。
○広い声域の歌は、自分に合わせてアレンジする
歌の音域が広すぎるからといって、歌えないということではありません。こういうときのテクニックをお教えしましょう。
歌はだいたい広くても1オクターブ半の音域です。このとき一番下の音から一番上の音まで、一気に上がったり下がったりはしません。また、すべての音域を曲の始めから最後まで使っているような曲はほとんどありません。
歌い出しの部分が低くて、少しずつ上がって、サビで最高音を使っているようなパターンが多いのです。
最高音に自分の一番上の声が出るようにキーを設定します。
たとえば、低い音からミソドレミファソラと上がっていくときに、最初のミソは低すぎて出ないでしょう。その時に、ミソドをソソドとかソドドとか、あるいはドドドにして歌詞をつけてみてください。コード音の中の音で処理すると、それほど違いはないでしょう。低いところの声は、もともと語るように歌うわけですから、語りとして処理してもよいわけです。ミソドをドドドにすると、音域が半オクターブ狭くなるのです。同じコードのなかで、ほとんど抵抗なく処理できます。
女性なら裏声を、男性ならファルセットを使って原曲通りに歌うこともできます。下げてだめなら、思い切って上げることで、うまくいくこともあります。
〇発音で口を大きくあけない
喉声にしないためにも、口をあまりあけないで発音できるようにすることです。
ことばを明瞭にすることと、側鳴り声(そばなり声)=骨振動は違います。
メッサ・ディ・ヴォーチェ 強弱を順につけて、変化させます。
あくびで弛緩します。赤ちゃんのように。
あごをひいても喉を圧迫しないように。
○日本人の発声トレーニング
鼻腔共鳴中心で、Na、Ma、ラを使うことが多いです。
小さい声、低い声は表現に耐える力でキープするのが難しいです。ひびきを上にあげるようにしましょう。マイクを近づけ、リヴァーブを弱めます。
低くしていくと、息声になったり、喉でつくるようになります。そのまえにストップです。
○発声のためのメソッドや曲を編集しておこう
「何をトレーニングすればよいのですか」と聞かれることが少なくありません。
レッスンを受けているなら、その録音を聞き、分析し、判断し、それに合わせるとよいでしょう。
できたら、編集して簡単なところ(ウォームアップや調子の悪いとき用)、何とかできるところ(本レッスン)、できないところ(調子のよいとき用)など分けておきます。多くの人はできないところばかりに挑戦して、さらに声の調子を悪くしています。
レッスンでは、あなたの見えないところでよりよく導いているのですから、家では一ランク下げたトレーニングをすると、ちょうどよいのです。
一人での自主トレーニングでは、できないところでなく、できるところをより確実にしていきましょう。その勢いで、調子のよいときに、できないところもクリアしてしまうというのが最良の裏技でしょう。
音源は、アレンジして使いましょう。自分のメニュとして、よいところだけ、つぎはぎして使うのです。そのくらいの手間は惜しまないように。
何もわからない時期は、30分流しっぱなしで声を出していれば、それでもよいのです。ハミングでもかまいません。
毎日、声は出しましょう。高音から低音まで。そこからリラックス、体、息、声づくり、発声、歌など、目的を細かく分けて、メニュをつくっていきましょう。
詞も曲も一日一曲、マスター(もしくは自作)していきましょう。
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