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「歌の裏ワザ」Vol.4

〇すごいか、おもしろいか、心地いいかをめざそう

 

 うまく歌おうと思ってうまく歌っても、「うまいなぁ」それだけです。私はこの仕事を始めて、全国いたるところにとても歌のうまい人がたくさんいることを知りました。歌がうまいのでプロになりたいという人とも多く会いました。

でも、「うまいけど、それだけ」と思わせる人が大多数でした。歌い慣れたうまさは、素直さ、自然さ、新鮮さを失わせ、型破りの何かが出てくる余地をなくしているのです。マイナス点をなくした予定調和という感じでは、心を打たれないのです。

一方で、多くのプロとも接してきました。一流のプロほど、うまいというのを抜きで、「もっとステージを見たい」「そのCDが欲しい」と思わせるのです。

 

いったい何が違うのでしょう。そういうところを徹底して考えることです。とどのつまり、プロフェッショナルな考えをもって実践できているかどうかなのです。

アマチュアもプロも、歌からみたら、区別はありません。歌は、人前で人様の時間をいただいて表現するものだから、それはお金をいただくことと変わりません。(そこが絵画や写真の表現とは大きく違います。)

もちろん、自分一人で歌って楽しむというのもありますが、うまいというのは、他人の評価ですから、ここでは自己満足のための歌は省きます。

うまくてもつまらない、飽きる、いやらしい、不快だというよりは、下手でも魅力的だ、また聞きたい、見たいという方がずっとよいでしょう。

 

 それには、あなたの感じたこと、伝えたいことと、歌や曲、詞との距離がないこと、形だけになっていないこと、つまり、“(うまい)歌のように”なっていないことが大切です。

トレーナーは、歌を本当に魅力的にすることができるのでしょうか。いや、そんな魔法のようなことはできません。

トレーナーの大半は、へたをなくして正確に、かつ声を聞きやすく、つまり、うまくみえるようにしているだけです。トレーナーの歌う歌自体は、そういうサンプルだからです。

とはいえ、私のできることも、こういうことを気づかせて、そのために必要な材料を与えることです。

人が聞きたいもの、心地よいもの、おもしろいもの、できたらおどろくほどすごいもの、それを目指してください。おのずと魅力的なステージになっていくことでしょう。いつも、“どう歌うかでなく、どう聞かれるか”から、チェックしてみてください。

 

 

〇コンプレックスを感じるなら、イントロまでで成り切る

 

 ときに、歌や声の力を客観視するまえに、自分はへただというコンプレックスの塊の人とも接します。(なかには、すでにハイレベルで、もっとうまくなりたいという人もいます。)逆に、へたすぎて習ってもどうにもならないと思っている人もいることでしょう。

でも、自分を表現したいという欲求に目覚めたら、好きなようにすればよいのです。結果をすぐに問うから、続かないのです。

若くして器用でうまかったゆえに、さっさとあきらめた人も、すべてをこの道に捧げたために、遅くしてプロになって、ずっと続けている人もいます。人、それぞれです。

 アートや表現に携わるかぎり、常に絶望や壁と対峙するものですから、行きづまるのは悪いことではありません。必然です。やめる自由もあるし、あえて選んだというのなら、コツコツと積み重ねていけばよいのです。

へたな理由は、多くの場合、うまい人よりも経験不足なだけです。同じだけの量を行った上で、初めて学び方のセンスが問われます。私は大谷翔平選手よりも野球をやっていないから、彼とは比べられません。しかし、「同じだけやっていればもっとうまかったかも」、などといっても仕方ありません。彼は私がこういっている時間も野球の練習をしているのです。

今のあなた自身も、あなたが選び、行ってきたこと、つまり、過去の集大成なのです。性格も考え方も、声も歌も、同じです。

それをじっくりとみて、変える必要があれば、変わっていけばよいだけです。毎日の行動から変えていくのです。実のところ、声や歌よりも、性格や考え方の問題の方がずっと大きいのです。

 

 イントロは曲に入ってから歌い出しまでの間です。この間にその曲のイメージをつくり、スタンバイ体制を整えます。その歌を歌う心持ちになるのです。

 歌は、初めて聴く人にもその内容がわかるようでなくてはいけません。自分イコール歌の世界の代表者、語り部として登場するつもりになりましょう。心を落ち着け、歌い出しにそなえましょう。

 歌が始まっていきなり曲のなかに気持ちを入れ込むというのではありません。イントロで曲の情景を思い浮かべ、雰囲気、リズム、呼吸、言葉をしっかりと整えておくことです。ここは歌に大切な最大の“ため”の部分です。イントロの前から体でリズムのテンポなどをとっておきましょう。歌いだしまでに、プロの表情、しぐさになりきってみましょう。

 

 

〇歌詞の忘れるパターンとリカバーをマスターする

 

 プロでもときどき歌詞を間違えて歌っています。すまして歌い切ってしまうことに慣れましょう。メジャーな曲以外なら、間違えたという顔をしなければ、ほとんどわかりません。

詞を歌うのではなく、詞に表れた思いを伝えるのです。ことばでなく、メロディやリズムや音色、呼吸で、あなたが再構築するのです。歌、音楽の流れをこわさなければよいのです。ステージでは即興で、よりよくことばを選び変えるくらいの気持ちでいることです。

 

 忘れるにもいくつかのパターンがあります。どんなことが起きても大したことではありません。

大切なのは、しっかりと反省して二度と同じレベルのミスをしないことです。100回覚えたけど忘れた、そしたら、次は200回覚えるとよいでしょう。

ステージというのは、どんなに備えたつもりでも、「もっとやっておけばよかった」と直前に思うものです。

短い時間に準備をできる力をつけるのも、大切なことです。ステージ前には、歌詞などかまっていられません。することはたくさんあるのですから。

間違えたり、うまくいかなかったことは、徹底してチェックしましょう。二番から入ったとか、サビのあと忘れたとか、いくつかのパターンが出てきたら、ノートに記録して、それに対応する練習を考えるのです。一曲ずつに作戦ノートを作りましょう。

それと忘れる練習もします。朝一とか、昼一とかに、ステージと思って、人前に立ったつもりでチェックします。

途中の歌詞から、パッと切り出してみるのもよい方法です。そのうち、新曲の歌詞を見ると、どこを間違えやすいのか、気をつけるのかをパターンとしてわかるようになるでしょう。

それとともに、リハまでに最悪のケースでの対処法を決めておきましょう。プレーヤーも巻き込んでおくとよいでしょう。

歌は、暗記したものを復唱するのではありません。いつもそこで歌をつくるつもりで行うことです。そういう即興力をつけてください。

客にとまどいを見せないようにしましょう。ミスしても応援してくれるでしょうから、恐れは不要です。

 

 インプロ(即興)のトレーニングを積んで、どんどんはずして歌って欲しいのです。知らない歌をカラオケでコードを頼りに歌ってみるとよいでしょう。メロディを音程として、正しく歌おうなどと考えることは、ステージではタブー、練習でもあまりよくありません。

身体にあなたのすべてに、そのメロディが呼吸し始めるまで、聞きこみ、歌いこみ、一体化してしまうことです。

バンドなら、キーボードはもちろん、ギター、ベース、ドラムがどうなっているのかも、身体に入れてしまいます。コードからも外れるなら、音楽の流れが入っていないからです。心地よく流れていかないという感覚に鋭くなってください。修正と創造で歌をリアルタイムに紡ぎだしてください。

 

 それにしても、日本人のフェイク、アドリブは、前もって練習したものばかりです。練習としてはよいのですが、聞いたアーティストのコピーの域を出ていないのは、どうなのでしょう。

それらは、いくつかに大別できます。それをよく知るパターンとして、覚えておきます。

次に、自分の曲に応用するところから始めてみましょう。○○風にくずすという歌い方でよいです。プレーヤーなら、フレーズナビ(パターン)は必修です。それをヴォーカルも学んでおくとよいでしょう。

3コーラス以上ある曲では、どこかに違うアレンジを入れ、客を飽きさせないようにしていますね。

 たとえば、サビを3度上げる、最後の音を上げる(下げる)、シンコペーション、ためる、ことばにする、装飾音、経過音などを入れる、スキャットを入れる、テンポアップ、フェルマータ、もしくはブレイクからインテンポなど、いろいろあります。それらを盗み、今のレパートリー曲で試してみましょう。

 日頃から、楽器プレーヤーやジャズのインプロに親しむとよいでしょう。作曲家、編曲家、アレンジャーの初歩的なことを学んでおきましょう。

 

(ちなみに、プロの一例で。2006年末の紅白では、細川たかしさんは「浪花節だよ人生は」で、「人の情けに」の次に「つかまりながら」を忘れて、瞬時に『あ、歌詞わすれてしまいましたー』折れた情けの、枝で死ぬ、『ごめんなさい』『ハイ』、浪花(あ)節だよ、女の、女の人生は」とアドリブで処理しました。森昌子さんは、「私は飛び立つ青い鳥になる」を「私は歌う」と、後の歌詞で出てしまったので、そのまま「青い鳥の歌」と戻さずに歌い切っていました。)

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