○歌の印象はエンディングの余韻
歌は終わりが決め手です。最後を失敗すると、その歌全体が失敗したような印象を残します。最後がしまるとなんとなくよく聞こえるものです。余韻というか、後に心に残るところです。ですから、細心の注意を払って終わらせましょう。
盛り上がって終わる場合、声を大きく伸ばしてエンディングというパターンでは、伸ばしている声そのものと、伸ばし方がきれいにはまっているかどうかをチェックしておきましょう。
原曲どおり、プロの歌い手が歌っているように歌わなくてはけないわけではありません。伸ばすところでは、力のないのがあらわになりやすいですから、うまくできないなら、短く言い切ったほうがよいでしょう。マイクの使い方も見せ方も注意です。
○曲をBGMにして、詞の朗読をする
曲のカラオケをバックに流して、詞の朗読をしてください。目一杯、情景・心情を伝えてみるのです。
そして、詞のイメージをふくらませていきます。
詞のイメージを具体的にいろいろと想像していくのです。そのイメージを抱いたまま何度も大げさに感情表現をして読みます。録音を聞いて直しましょう。
・詞のイメージを絵に書いてみましょう。
・詞のイメージでのストーリーを原稿用紙に五枚くらいで書いてみましょう。
・詞を毛筆で縦書きで描いてながめましょう。
・詞のイメージを絵や漫画で書いてみましょう。四コマにしてみてもよいでしょう。
こういう人生がこういう詞になったというようなものが出てくれば望ましいでしょう。
○一本調子にせずフレーズでの流れとメリハリを
歌のうまいへたの差が顕著に表れるのが、歌のなかでの流れとメリハリです。一気に流れるように歌えることと、一つひとつのことばをていねいに感情を込めて伝えることを両立させなくてはいけません。両方が伴っている人は、なかなかいないものです。
“流れ”と“ため”は、フレーズという句切りをしっかりと曲のなかに入れていくことで、うまくまとまります。
歌いにくいのは、言葉を短く切りすぎるからです。短く切ると、気持ちも持続できなくなり、常に次の流れをつくることを強いられます。
大きなメリハリをつけて、その流れにのせて言葉をおいていくほうが歌いやすいのです。
落語家の噺と素人の読みとの違いを考えてみるとよいでしょう。落語家がまくしたてられるのは、口が早く動くからではなく、言葉にメリハリがついているからです。話す言葉にフレーズがあり、そのフレーズが次の言葉を運んでくるからです。フレーズをきちんとさせると不思議なくらいにブレスも決まってきます。プロ歌手のフレーズとブレスをよく聞いてみましょう。
具体的には、フレーズを大きく捉えるために、簡単なアレンジをして、歌の流れをおおまかにつかみます。
1.小節の頭の音だけをつなげる
2.ベース音を(2、4拍あたり)歌う
3.できる限り、ノンブレスで歌う
4.12、34、56、78などの小節を4-5でつないだり、2-3、6-7をつないだりします。かなり感じが違ってきます。
5.ブロック別、Aメロ、Bメロ別に大きく捉える感じを、無理にでもキープしてみる。(日本人には欠けている点です)
○感情を抑え、イマジネーションを豊かにする
歌は過度の感情表現を必要としません。私は、歌を音楽的に捉えるなら、バイオリニストやピアニストのように生の感情移入は、すべきでないと思います。
声はただでさえ、感情的なものだからです。しかし、逆に発声技術や音楽性に乏しいヴォーカリストでも感情の伝わる声や感情移入でもたせることができるのは確かです。私としては、感情というより、魂(ソウル)や心(ハート)、気持ちと呼びたいものです。
まず、曲が盛り上がって、自分の心身に働きかけてくるという聞く体験を積んでおいてください。サビで狂喜する、エンディングで泣けるというような強い体験が欲しいものです。
感情をいれて歌うのは、音楽性の一部を犠牲にして人間味を加えることにもなります。歌の一部をシャウトしたり、ことばのまま(メロディをつけない)で入れるのは、その一端です。
日本では役者の歌が典型的です。これは、どちらかというと声自身の魅力とことばのメッセージ性に負います。声がよく、深く、音色が豊かな人が多いからです。この条件においては、ベテランの役者は外国人ヴォーカルに匹敵するのですが、多くはテンポ感、音楽性、構成展開力、技術、特に高音処理(音楽を奏でる楽器としての部分)に欠けるのです。
(坂本九さんの歌は、伝える心の深さ、あたたかさがこの2つを超えた、まれな例です。)
感情によって大きく声の出方は変わります。歌唱では、感情移入よりは、音楽的なイメージを優先します。感情を表現するのに過度に感情を移入すると、音楽としてくずれるからです。
○4つで区切って、展開と構成を捉える
歌の音楽的構成での見せ方の問題です。ここでは無駄な感情移入や雑な表現は整理しなくてはなりません。
テーマを表現し切るクライマックスは、その作品を決定していくピークにあたります。このピークに対し、どのようにフレーズを組み立てていくのかを考えることが、歌の構成、展開上でとても大切です。
ドラマの起承転結のように、多くの歌は、4つのシンメトリーに分けていくとわかりやすいでしょう。(4ブロック、4フレーズ×4)
ピークに対して、歌い手の感情を入れるのではなく、聞く方の感情に訴えるように展開し構成するのです。心をもっていきながらも、音楽の規則性(リピート、コード進行、グルーヴ)と展開を最大限、利用します。
最終的に、一曲を一本につなぎ、強い意志で一貫させます。といっても、1コーラス、あるいはAメロ、Bメロ、サビと、ブロックごとを一本に通すことができたら、充分です。
構成力 展開力をつけるには、
1.はじめて出てきた音やコードに印をつける
2.4つに分けてパターンや法則を探る
○自分のキィとテンポを徹底して知る
欧米人は、およそ1オクターブの声域で、一つのことを言い切るのに、一分間くらい腹から吐き切っています。そこから、そのリズムに節がついて、今のポップスのベースとなったとみるとよいでしょう。同じ質を目指すなら、そのプロセスを踏むことです。
しかし、私たち日本人の話声域はおよそ半オクターブくらい、一つの言い切りも10秒くらいです。
私が考えるに、短歌くらいが、同じレベルで日本人ができる一曲としてふさわしい長さとなります。ならば、そこで半オクターブ、4フレーズ、それを中心に、まずはキィを決めてください。
次にテンポを、ことばやメロディの流れがつながる(間をもって)ようにします。一曲を2~4分割すれば、それだけのメニュができます。
出だしはそのままか、やや上げて、サビは充分に表現できるように一時、下げます。
もちろん、一曲続けて歌うとなると、中音域にマッチさせていたサビもあがり、声質も流れも変わります。しかし、私はそれでも、声とことばで伝えることにこだわって欲しいのです。そこにリズム、メロディ処理して、さらに一曲になっても、その基本の表現を活かせる感覚を残した上で、行なうように考えます。
表現もトレーニングも、何をやるかどうやるかばかり考えていても(考えないよりはよいのですが)仕方ありません。どこまで成り立っているかをチェックすることです。