「歌の裏ワザ」Vol.7
〇歌がうまくいかないなら、方法を変える
歌が苦手、へたな人に共通するのは、第一に大して時間をかけていないことです。これまでの年月もそうですが、毎日についても、それが得意でうまい人の何分の一しか、音楽や歌に接していません。その違いや差がそれだけ見えていないことが要因です。
さらに加えると、その結果、うまい人が一回聞いてわかることを10回聞いてもわからない。それでは、量を10倍にしても、追いつけないということです。
歌は、10歳の天才児も、50年、習っているのに音痴に近い人もいます。それだけ自己判断が難しいのです。
そこを私は、「アンテナの立て方」といって、そこから伝えるようにしています。
聴覚と反射神経の世界であるだけに、たとえ学校の秀才であっても、この評価は別なのです。
声の限界を破ろうと器を大きくするのが、私の考えるヴォイトレです。しかし、器とは無限に大きくなるものではないし、その必要もないのです。
ピアノが人間の両手の幅しかないのも、人間の話声域中心に音が並べられているからです。人間の声の世界中心に音楽は奏でられるのです。
人には聞こえない超音波の出し方など学んでもどうなるのでしょう。(何事も学ぶのはよいことですが、私は役立つことに絞っています。)
ですから、自分の限界を早く知るためのヴォイトレであってよいのです。
むしろ、自分の器の限界からまとまってくるからこそ、表現というのは、一つの究極に練り込まれた、作品としての形をとっていくのです。そこで3分間くらいに切り取られた声の集約した表現形態が、歌と呼ばれるものなのです。
〇運は開ける
私は、運も自らが巻き込むものだと思っています。自分のしたことは、すべて自分にはねかえってきます。
どんなときも、レッスンをし、トレーニングをしてきました。話し続け、書き続け、問いかけ続けてきました。
多くの人は、最初はがんばっていたかもしれませんが、十年、二十年のうちに、続けなくなってしまったのです。
私はとても運がよいし、ずっと運のよい人たちと一緒にいます。ですから、人に対して、あまり負の感情をもちません。でも、関わった人には、いろいろと思われているでしょう。関わっていない人でさえ、いろいろと思っていることでしょう。よかれあしかれ、短い渡世を表現し、表現する人をサポートするなかで歩んでいるのですから。
他人のことより自分のことを語りましょう。その方が自分のためになります。
「世の中に歌で出て行けるのが、ヴォーカルの運」という人もいます。それならば、才能論と同じ、そんなことを誰が決めるのでしょう。自分自身でしかありません。
いろんなことを考えているよりも、一流といわれるものを何でもインプットしましょう。(歌以外にも、音楽以外にも、ずっと音の世界よりもわかりやすいものがたくさんあるのです。)
それには行動することです。何でも読み、何でも聞き、いろんなことをより大きく感じ、味わいましょう。
刺激的な毎日を送る努力をしましょう。そこからもっとも自分の心を動かしたものこそが、あなたの活動の源泉となるのです。モティベーションの維持が大事です。
〇最高のメンバーにアクセスしよう
音楽仲間と楽しむのは、アマチュアの特権です。ただ、仲間がいるから、皆で力を合わせたら大きなことができるということには、必ずしも通じません。
音楽では、いつも「平和、皆で一体で」と、ボランタリーにあふれているようにみえます。しかし、それは必ずしも、音楽の得意分野とはなりません。日本の現状でみれば、以前ほど、歌は歓迎されなくなりました。業界も安易なヒットしか考えず、歌の大きな可能性を充分に使い切れていません。
個の自立とすぐれた才能の開花の上にコラボレーションが可能なのは、他の世界と変わりません。自分の力をつけること、それを示すこと。それで初めてまわりもお客も、ハッピーになれるのです。
音楽や歌に現実逃避して、依存するのもかまいません。私も何度ともなくそうなり、その都度、多くのアーティストやその作品に助けられました。ただ、仲間と群れて、慰めあうのとは違うのです。孤として、作品に迫る機を逃してはならないのです。勇気をもって、大切な時期をムダにしないでください。
何がやりたいか、どうありたいかは、それをサポートしてくれるメンバーとの出会いにも左右されます。キーボード、坂本龍一、ドラム、高橋幸宏、ベース、細野晴臣と、それに代わる自分にとって次代の最高のメンバーを選びましょう。
会えない、協力してくれないって、いや、あなたに彼らが一緒にやりたいというものがあれば、いつでも協力してくれるでしょう。それが何か、それこそあなたがこれから求め示していくものではありませんか。
〇何事も遅いということはない
年齢不詳の世界です。性別も出身も肌の色も関係ない。ただ、ルーツとして、そこにオリジナリティを見出すことは、大切ですが。
トレーニングでは、ある程度、年齢を考慮します。精神年齢と考え方というのは、その人の表現の世界に関わってきます。何であれ、生きてきたキャリアは、プラスです。
私は、生涯通じて20年、30年やっているのがプロと思いますから(プロを超えるアマチュアもいますが)、デビューしたからプロとは思っていません。
プロということばを多用するのは、トレーニングとして考えるときに目安となるからです。
アマチュアは自己満足のために好きにする特権があります。プロは客を、アーティストは作品を満足させ、価値あるものにしなくてはなりません。スタンスの違いと思ってください。
年齢から考えるから、できなくなるのなら、考えなければよい。本当にやりたい人はいくつになっても始めるし、続けています。他人の思惑など気にしないこと、まずは、その自由な精神を持ち続けることです。
〇勢いとパワーで全開で突っ走ろう
若さだけでも勢いだけでも、それでいけたらGO!、そこはダメ元でよいでしょう。
場合によっては、学ぶ時期と出す時期を分けてもよいでしょう。やったことがないなら、やってしまいましょう。
何よりも、気づき続けられる環境をつくりましょう。
できるだけキャリアのある人や完成度の高いところなどで経験をつみましょう。すぐれた人といること、異なる体験をすることです。
秘訣は、居心地の悪い、厳しいところでいることです。そういう場を得ると、力になります。
私は、最初、そういうところを見つけられない人のために、みつかるまでレッスンする場をオープンにしたのです。ヴォイトレオンリーに浸りつつも、アウトプットに近いところに身をおくことです。
実際に活動することで、ヴォイトレを受けるときにも、より多くを学べ、気づくチャンスを得られます。
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