〇音程が不安定なら、キーボードで音とその流れを叩き込む
音程の不安定なのは、音感がよくない場合と、発声が不安定な場合です。たとえば、高い声が出しにくいために、そこだけピッチが下がるなら(それが自覚できるなら)発声の問題です。
音感は、ピッチ(音の高さ)や音程(2音間の距離)の感覚です。これも小さな頃からの環境がものをいうのです。家庭環境、親、歌・楽器の経験といった総合力です。しかし、先天的な音痴はほとんどいません。大体は、慣れ不足ですから、足らないなら入れていくだけです。
まず、スケールでの1オクターブの世界を理解しましょう。そこでは、全音(長二度)と半音(短二度)の組み合わせて、そのなかで使う音はほぼ決まっています。キーボードがわかりやすいので、一台、手に入れましょう。どこへも運べる鍵盤ピアノもあります。
ドレミファソラシド(Cメジャースケール)
ラシドレミファソラ(Aマイナースケール)
声の調子がよくないときは、よくフラットします。(ここでは音が下がる意「♭は、半音下げること」)元気がない、ハリがない、テンションがない、ひびかない、のりが悪いなんていうときも、下がっているとみられがちなので、あまり気にしなくてよいこともあります。
集中力やテンションが下がると、フラットしやすくなります。呼吸の保持も大切です。こういうときは、気構えだけでもある程度、正せるものです。
発声が影響するのは、高い音から中低音に下がったときです。高音の発声の状態が悪いために、そこでギアチェンジがうまく行われないのです。チェンジよりも、同じ線上での移行と捉えた方が、ピッチや音程に左右されずに、スムーズに処理できます。
体の前面に、腹の真ん中から、胸を経て頭のてっぺんまで、一本の像が通っているとイメージしてください。その線上で調整します。低い声が下で高い声が上というのでなく、二つにわけないということです。
喉に負担をかけず、頭部から胸部での共鳴のバランスを、低いところでも上でキープでき、高いところで下にもキープできるイメージです。(ハイトーンでは、胸声をひびかせようとしなくてもかまいません)その比率を自由に変えることで、メロディやことばを高低で妨げられるに処理していくのです。
歌は1オクターブ以上で、構成上、高いところと低いところを、異なる(感覚での)音色で出しわける方が映えるケースがあります。ファルセットもあります。極端にいうと、一つの声、二つの声、三つの声で歌うヴォーカルがいるのです。
教材 ピッチ・・・「ソルフェージュ」 音程・・・「コールユーブンゲン」など
〇ピッチをはずさないためには、チューナーで確認して、やや高めを意識
音程をはずす、リズムののりが悪いなどは、それをどう直すかでなく、そんなことが起こっていることがもっと大きな問題なのです。つまり、本来、問題に上がってこないために、一流のヴォーカリストがしてもいないトレーニングを、そこに設定することの意味を考えて欲しいのです。
それだけ音楽の世界に親しんでいない、よく聞いていない、ていねいに音を扱っていないことの表れなのです。正誤問題のように、あたった、はずれたというのは、楽器の初心者ならともかく、芸事には余計なことです。
それをトレーニングするなら、その課題ができるように、でなく、無意識に歌のメロディでおかしな流れにならないように、よい結果が出てくるように修正されるようにするのです。つまり、心地よく快感に相手に伝えようとし、その声の起こしていることを繊細に把握していく能力がつけば、正されていくと考えてください。
音楽そのものを聞き、感じ、体や息を動かすことから学ぶのが本義です。
○音程が狂う場合は、息を吐くことを考える
多くの人はブレス(息継ぎ)の前で音が狂います。これは、息の吸い方が充分でないために音がうまくコントロールできなかったり、次の息継ぎの方に頭がいってしまうためです。
長く音を伸ばすときに音程が狂うのは、息継ぎの時に十分に息が入っていないときが多いようです。また、変にビブラートをかけても狂いやすくなります。
音程のなかでは、ドーミ、ミーソなどの三度音程、ドーソなどの五度音程は、だいたい狂わないようです。隣り合った音(ドーレ、レーミなど)もだいじょうぶでしょう。
ですから、トレーニングをするならば四度音程(ドーファなど)と半音階(ドード♯、レーレ♯・・・・)のところを中心にチェックすればよいでしょう。七度音程も慣れておきましょう。
高い音は、低いイメージに支えて、低い音はひびきを高めのイメージにします。上昇(高音へいくとき)は、階段を降りるように、下降(低音へいくとき)するときは、昇るように、逆にイメージするとよいといわれます。
〇楽譜が読めなくとも楽譜の音符を線で結んで展開を読もう
次のようなことも効果的です。
1.一番の歌詞でフルコース歌う →歌詞を同じにして、音の構成アレンジを細かく感じる
2.Aメロの歌詞でワンコーラス歌う
〇メロディがしっくりこないなら、音が曲になる瞬間をとらえよう
他の人に聞いてもらうか、録音して、確かめましょう。うまくできないときは、BGMにその曲のメロディをかけてみると気持ちを込めやすくなります。なるだけ、自然にメロディを処理していくことです。音程にあてて歌っているだけのように聞こえるのはさけたいものです。
次の要素に注意して、曲を聞いたり歌ったりしましょう。
1.テンポ、リズム、グルーヴ
2.発声、ことば
3.表情、表現、動作(フリ)
4.フレーズ(スピードの変化、強弱変化、メリハリ)
5.音色、ニュアンス
6.フレーズ間の動き、イメージ
歌唱の表現は、音の流れの中で決まってくるもの(曲)に対し、自分が何かをみつけ、そこでどう伝えたいかということ(心)でつくっていくものです。
〇コーラスは、同時に音を聞き、音の共鳴、ハーモニーを感じる
参考にしたい曲をあげておきます。
[ハーモニー]
・ビートルズ
[地声による独特の発声法]
・ブルガリア・ヴォイス
[コーラス]
・TAKE6
・マンハッタン・トランスファー
・フォア・フレッシュメン
・14カラットソウル
[ドゥーワップ系コーラス]
・ドリフターズ
〇ていねいに歌うには、一つの音や声にハッとしよう
私は、フレーズのつなぎを、たとえ0.5秒で入らなくてはいけなくても、その人が表現を成り立たせたまま、呼吸の流れとしてもたせるのに2秒かかるなら、楽譜を離れてしばらくそこで行います。やがて1.5秒、1.0秒と感覚と体が伴ってきて、0.5秒にまでなるのを待ちます。
トレーニングにおいては、何よりもそのプロセスを大切にしないといけません。そこで、どれだけ手間をかけ厳しくやるのかを、結果に表れてくるのです。表現として成り立っていることが、曲よりも優先することです。
〇作詞や作曲に、カラオケを利用する
カラオケであまり知らない曲を適当に選択して、歌詞をみて歌ってみます。コード上での即興歌唱となります。簡単にできるものは、あなたによく入っているパターンです。難しいものは、入っていないのです。それに慣れていってください。
イントロやコード(ベース音)から予想して、反射的に発声器官を整えて歌いましょう。
一度目は聞いて、二度目に歌い、三度目に修正してみます。録音して歌になっているか、チェックします。
自分が最初から作詞作曲して、歌詞も曲もワンパターンに行きづまってからで、よいでしょう。
そういうパターンしか、入っていないからです。そこでいろんなヒット曲を利用するわけです。メロディを変えていくとよいでしょう。完全コピーするのもよい練習ですが、想像力で補って、自分で創造することをメインにしていってください。
そうして、作詞作曲アレンジ力をつけていきます。慣れてきたら、メドレー曲に挑戦してください。
次々にこなす時期と、じっくりと一つの作品に取り組む時期があったほうがよいでしょう。“ハッ”と思うことが多い分、音楽的感性や表現力が磨かれます。(ただし、聞いてから入る、くせ、ズリ上がり、ズリ下がりのくせをつけないこと。)
〇音楽性向上に、外国曲のフレーズを外国語でコピーをする
私はグループレッスンで、カンツォーネを中心に世界の歌のフレーズごとのコピーを徹底させていました。簡単なもので、3回、難しいものなら10回ほど聞いて、すぐにコピーをします。グループでは、他人との比較や感じ方、表現の違いなどから、自分のレベルやオリジナリティにたどりつくからです。それとともに、音の世界だけから、どの箇所のどの部分がよいのかを判断できるようにしていきます。(知らない言語だからです。イタリア語は、日本人がコピーしやすく、英語よりのどにひっかかりにくいので、よいのです。)
一度目に、およその流れを聞き、二度目に自分で合わせてみて、異なる感覚(メロディ、リズム)のチェックをします。三度目には、自分でもっともうまくこなせるように、つくり変えます。
三度、聞くというのは、美空ひばりはどんな歌も三度で覚えたというからです。レッスンでは、4~8小節ごとにします。そこまで耳とイメージで捉えて出します。
今度は、歌のイメージづくりと、自分の発声器官がきちんと対応できたかのチェックとなります。歌詞も楽譜もみません。発声が音楽となることを優先するのです。
〇どう歌えばいいのか迷ったら、目的別に聴く
歌の世界では、自分の声を使って進行・展開や構成を音の線で表わしていきます。
これを私は、絵画に例えて、デッサンといっています。いわば線を引く=フレージングのことです。そこに色=音色を加えます。
・カンツォーネ、オールディズ、ラテンなどは、声で音のデッサンをどうしているかがわかりやすいため、発声・リズムグループも含めた、基本の教材として最適です。
・唱歌、童謡は、呼吸と発声フレージング、日本語の歌の基礎勉強によいです。
・演歌、歌謡曲は、声の使い方、テクニック、日本人の情感表現のデッサンの研究によいでしょう。
声をそのまま大きく使って歌に展開していく段階では、あまりテクニックや効果のための装飾を入れず、ストレートに歌っているものの方が、材料にしやすいのです。私は音響効果が悪いため、逆に生の声のわかりやすい1950~1970年あたりの作品をお勧めしています。
○音の世界を書き出す
歌を聞いて歌詞のところに流れを書いてみましょう。
選曲については、意図的に違うジャンル、違うスタイルのヴォーカリストの作品について、考えてみましょう。歌詞や曲が古いとか、合わないとかを抜きに、声と歌のフレーズで評価してみてください。
「さよならをもう一度」尾崎紀世彦、「サイレント・ナイト」マヘリア・ジャクソン、「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」トニー・ベネット、「マック・ザ・ナイフ」エラ・フィッツジェラルド、「ローズ」ベット・ミドラー、「人生よ、ありがとう」メルセデス・ソーサ、「リヴ・フォエヴァー」ジョルジア(パヴァロッティ&フレンズⅡに収録)。「We Are The World」
他に、ルイ・アームストロング、トム・ウェイツ、サリフ・ケイタ、アンドレア・ボッチェリ、ミルバ、エディット・ピアフなどでもよいでしょう。
○日本の歌の世界に欠ける声の音楽性
声を音の世界で扱うというのは、外国人のヴォーカリストのように、4分間の歌のなかで1分間くらい、声の技術だけをみせてひきつけることをイメージしてください。
サラ・ヴォーン「枯葉」のスキャットのような楽器的な使い方は、日本人にはほとんど見られません。
声楽家でも今や数少ないのですが、鋭くパワフルに前に出る声を求めています。世界一流の声(モナコ、ジーリ、パヴァロッティ、ドミンゴ、カレーラス、バトリエ)の声を聞いてみましょう。そのパワーに、私たち日本人が一般的に持っている、お行儀のよいつくり声っぽい歌手のイメージが一新されるでしょう。