「基礎教育のためのヴォイトレ」 Vol.4
〇スピーチの伝えるもの
さて、あなたがスピーチを頼まれたとします。どうしますか。まずしゃべってみる練習をしますか。いえ、原稿を書くでしょう。そして、それを何回か書き直すでしょう。当日、メモをみないなら、次に覚えますね。読みながら直すかもしれません。つまり、内容はできたわけです。
しかし、本番であがったり、ど忘れしたり、原稿があってもスラスラいかなかったり、棒読みになったら、うまくは伝わりません。これは伝える方を考えていないからです。
内容のことばとそれを伝えるのは、違うことを先に述べました。
内容は、ことば。伝えるのは、声。
原稿を直すのは内容をつくるためです。そこでは伝える練習をしていません。芝居でいうと、脚本を書きあげただけで本番を迎えたようなものです。肝心の稽古がなされていないのでは、うまくいくはずがありません。
つまり、スピーチを、ただ内容を読みあげるのでなく、相手の心に伝えることを目的にするなら、伝える練習をしなくてはいけないのです。
なぜ日本人のスピーチがへたかというと、内容が第一、あとは読みあげるだけ、それはすぐできると思っているからでしょう。原稿をつくることで終わりと思っているからでしょう。
なかには家族や友人に見せて直してもらう人もいるでしょう。あるいは、その人のまえで練習する人もいるでしょう。これはとてもすぐれたやり方です。
聞いているだけで、どうしたらよいかは教えてくれないかもしれません。それでも、あがり防止のトレーニングになります。予行練習では、伝わった伝わらないのチェックでは難しいのです。
友人や家族のまえでスピーチして、内容を言いやすくしたり、伝わりにくいことばを直したり言いかえたりするのには、効果的です。
しかし、日本の学校の小説や詩の授業が解釈や棒読みだけというのと同じく、間をあける、はっきりという、トーンを変えるなどというような指摘は、たぶんなされないでしょう。
自分でつっかからずに読む、でも他の人の聞いている声やその声の使い方がよくなければ、伝わらないのです。
このときに出てくる問題は、どのようにチェックするのか、どのように直すかです。
いったい何が直せるのか、そして、直せないことは何かということも、わかりにくいですね。
〇声の鏡は、レコーダー
あなたは朝起きたら、顔を洗い、歯を磨き、髪を整え、服をきちんと身につけますね。学校に行くまえに、襟元を直したり、髪の毛がついていたら払います。すぐに直します。そのままでは、みっともないからです。
どうして、こういうことができるのでしょう。
それは、鏡があるからです。左右逆ですが、身なりをチェックするには充分です。
つまり、直すためには、1.正しいイメージがあること 2.そことのギャップがあること 3.そのギャップを埋められること、この3つが必要です。
仮に、歯に青ノリがついていたとしましょう。1.白い歯である(はず) 2.青ノリがついている 3.青ノリをとる、これで直せます。
ところが声ではどうでしょうか。まずは、内容についてチェックします。これは録音して再生したらわかります。
たとえば、18日が正しいのに、8日といっていた。この場合、1.18日 2.8日 3.8日を18日にする。この3つで直せます。
つまり、正しいものがはっきりしているもの、数字や敬語などについては、チェックできます。他の人に聞いてもできるでしょう。
しかし、「どういう声や言い方がよいのか」などとなると、正しいというよりも、程度問題です。内容なら、これまでの目上の方の例や、スピーチの事典などを参考にすればよいでしょう。では、伝え方となればどうでしょう。ここから声の問題に入るわけです。
〇自分が一番知らない自分の声
まず、友だちに聞いてみてください。「友だちに自分のことを?」と思いますか。たとえば自分のファッションは、自分にしか、よさがわからないといえますか。
いえ、もっと根本的に違うのです。話や声については、自分のものについて、多くの場合、あなた自身が誰よりも知らないのです。あなたのまわりの人の方がよく知っているのです。
なぜなら、自分の声なのに、あなたが伝わっている自分の声を聞いた回数は、あなたのまわりの人よりも、ずっと少ないのです。
あなたがいつも自分の声として聞いているつもりの自分の声は、内耳から骨伝導で伝わる合成音です。あなた以外のすべての人の聞く声とは違うのです。その声と、まわりの人が聞く声とは違うのです。
だから、自分の出した声は、自分が一番聞いているつもりで、聞いていないと言えるのです。こんな変なことは、他にはありません。服のようにあなたのものなら、あなたが一番使っているものなら、あなたが一番よく知っているのですから。でも、この場合も、着心地などについてのことで、他の人にどのようにみえるのかについては、他の人の方がよく知っているわけです。
話したことについて聞くと、友だちが、「大きすぎる、うるさいよ」、『す』がよく聞こえないし、なまってるよ」、「何か眠くなるな」、「固すぎる」、「テンポ速いんじゃない」、こんなことを言ってくれるかもしれません。
それでは、これらをもう少しわかりやすくしてみましょう。
まずは、
(1)声そのものについて
暗い、明るいなどは、声質、音色、声のトーンです。
声は、生まれもっての声のことです。あなたの今の発声器官だけでなく、発声に関して使う部分、すべてに関係します。
(2)声の使い方について
その声をどのように使うかという問題です。高さ、強さ、長さなども、いろいろとあります。
この2つの問題があります。
[呼吸] 息の使い方……ブレスが聞き苦しい、落ち着かない
[発声] 息から声にする……固い、かすれる、つっぱっている
[共鳴] 声からひびきにする……伸びがない、ひびきがよくない
[発音] 声からことばにする……発音不明瞭、もごもごしている
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