「基礎教育のためのヴォイストレーニング」 Vol.6
〇誰もが正しい声をもっている
声は皆、違っています。一人ひとり、誰も同じ人はいないのです。ですから、人と違っていても、気にする必要はありません。それも個性なのです。高い声の人も低い声の人もいます。太い声の人も細い声の人もいます。
第一にもって生まれた声帯、発声のもっとも基本となる声を出すところですが、ここで、すでに個人差があります。
声変わりを経て、男性は女性より1オクターブ、高くなりますね。のど仏がでます。そのなかで、声帯の長さがおよそ2倍に伸びているのです。すると、音は1オクターブ低くなります。
弦を弾いて、その真ん中で爪で押さえてみてください。長さが2分の1で、ちょうど倍音、つまり2倍の高さになるのです。たとえば、指で弾いて440回、1秒に振動したとします(440ヘルツ)。これを半分の長さにすると、880回(880ヘルツ)、振動します。これでラの音が1オクターブ高いラの音(ピアノの真ん中)になります。
男性と女性の声帯の関係も、こういうことで、およそ1オクターブずれたのです。男性で女性より高い声を出そうとすると、ずいぶんムリしなくてはなりません。声帯を緊張させて固くしたり、あるいは一部だけ使って、高い声を出すのです。
しかし、歌ならともかく日常の声でわざわざそんなことをする必要はありません。自分の一番出しやすい声を使えばよいのです。それが多くの人にとって、その人に合った声(声の高さ)である可能性が高いのです。
〇思うほどよい声を使っていない
なかには、声は低いのに、高く使いすぎたり、その逆をする人がいます。
声変わりのときの男の子は、あまりに急な変化で、しかもはじめてのことのために、どう声を扱えばよいのかわからないものです。自分の声の低いイメージに慣れるまでは、困惑することが少なくありません。
さらに、声の使い方は、声の高さだけではありません。カラオケで長く歌ったり、応援などをしたりすると、のどの状態が悪くなり、声が低くなったり、かすれたりしますね。ひどいときは、ポリープになって、声が出なくなる人もいます。
でも、普段から、そういう声を出している人もいます。これも原因はさまざまです。大声の出しすぎやたばこなどで声帯を害してしまった人もいます。もともと、声帯がしっかりとくっつきにくく、そうなる人、あるいは使い方が荒っぽかったり息を多めに吐いているために、そうなっている人もいます。それ以外の人も、鼻にかかったり鼻に抜けたり、舌ったらずだったりで、決して皆が皆、自分の持つ声をよく使っているわけではありません。
声の病気が疑われるときは、耳鼻咽喉科に行きましょう。それ以外の人は、心配しなくてもよいです。ハスキーヴォイスの名優もたくさんいます。ただ、使い方の悪いときは、矯正のトレーニングをしましょう。
〇自分の声がよく思えない
あなたが、自分の声を聞いて、「よい声だなあ」と思わないとしたら、きっと次のような理由があります。
まず、TVかラジオなどでプロとして話している人の声と比べていることです。服をファッション誌のモデルで比べてみるようなものです。
それは、本当の自分の理想の見本ではないのです。彼らの多くは、トレーニングしていますから、うまいのは当然です。
彼らに学べることは、少なくありません。ギャップは大いにあるとはわかるのですが、それが何かがよくみえていない。まさに声は見えないのです。聞く中での判断力が問われるのです。
モデルの服が自分にあわないのは、鏡をみたらわかります。しかし、声は並べては比べられません。しかも、自分の声の何がよくないのかわからない、どう直すのか、こうなるとお手上げですね。
何回も練習する、噛んだのは言い直し、舌の動きは早口ことばでクリアできますね。プロも練習して声を鍛え磨いてきたのです。
ということで、最大の理由は、あなたがこれまで声や声での表現に関心をもち、トレーニングをしていないことです。顔や体を洗うことは、習慣となっています。髪型や服の着方、これらはいろんなもの、雑誌やTVや友人のをみて、情報を得て、トレーニングしているのです。何がよくて何が悪いのかをあなたなりに基準をつくってきているのです。幼い頃にもボタンがはずれたり、襟が出ていなければ、まわりが注意してくれたでしょう。声には、そんなことがなかったはずです。
ですから、トレーニングすればよいのです。
〇誰でも、よい声になれる
それでは、あなたがめざすべきよい声ってどんな声でしょう。声は文章でお伝えするにはとても難しいので、身近な例から考えてみましょう。
あなたが日頃、TVなどをみていて、「よい声だなぁ」と思う人は誰でしょう。声優さんやお笑い芸人でもかまいません。男女で3人ずつくらいあげてください。
あなたの身の回りではどうですか。私はあるステーキ屋さんの声が忘れられません。お寿司屋さんとか八百屋さんなどにもいませんか。家族や親戚にはどうでしょうか。
[よい声の人と、その理由]
そのなかであなたがよい声と思ったのはなぜでしょうか。
もう一つ、よい声をわかりやすくするために作業をしましょう。あなたが悪い声、よい声じゃないと思う人を遠慮なくあげてください。
[悪い声の人と、その理由]
さて、この理由をじっくりみていくと、よい声の定義ができそうですね。
よい声の条件としては、
1.魅力的 2.深く落ち着いた感じ 3.聞きやすい 4.聞いて気持ちがよい 5.元気がよい 6.暗くない 7.ハキハキしている 8.聞くのに楽 9.遠くまでひびく 10.かすれたり苦しそうだったりしない
などが、あげられます。
〇よい声って、何?
それでは、さらに細かくみていきましょう。
次の声のイメージを ○よい声 ×悪い声 △どちらともいえない で判断してみてください。
1.カン高い声
2.黄色い声
3.こもった声
4.ドスの効いた声
5.鼻のつまったような声
次に、それぞれ有名人か身近な人で思い当たる人がいたら、入れてみてください。
次に、自分自身について、チェックしてみてください。
その次に、友だちでもよいので、他の人からチェックしてもらってください。
何人かで試してみると、とても勉強になります。
あなたも他の人の評価をしつつ、それぞれの違いが比べられます。さらに評価がわかれることで、ことばのイメージの違いもわかります。
そういうことを詳しくみていくと、自分の声の位置づけもわかります。声の感じ方、聞き方も少しずつわかってきます。
「○○さんから、私の声は○○さんと○○さんの間の声と思われている」などということも、何となくわかってきます。つまり、声のイメージが自分の声のイメージでもわかってくるのです。
友だち同士でわかりにくいときは、年齢の違う人をチェックしてみるとよいでしょう。極端に特徴のある声の人を入れると、それぞれの人のもつ要素がはっきりするでしょう。
〇大声だから伝わるわけではない
相手にしっかりと伝えるには、どうしますか。声を大きく出しますね。それで聞こえます。
相手の耳にまで届く声量というのは、最低限、必要です。声の大きさは、音の大きさです。db(デシベル)で表わします。大きな声は、100dbほどあります。
それでは大きな声なら大きいほど伝わるのでしょうか。
あなたがうるさいと思うくらい、大きな声を出したとします。選挙カーが演説するのも、駅のアナウンスも、マイクを通してすごく大きく聞こえますね。でもその内容は、うまく伝わっていますか。全然ですよね。うるさいだけです。
まず聞く人に、興味がなければ伝わりません。次に大きすぎる声は、脳を守るためにカットしてしまいます。(もちろん、耳の鼓膜には、伝わっています。物理的には、耳栓や耳をふさぐしかありません)
逆に、小さな声でも通る声なら、とてもよく聞こえますね。
体育館での球技大会、グラウンドでの運動会では、いくら大声を出してもよく聞こえませんね。でも夜になってシーンとした体育館や校庭でなら、とても小さな声でもよく聞こえます。
ですから、声を伝えるなら、大きな声を出すまえに、まわりの状況を静かにさせる方が効果的なのです。ワイワイガヤガヤざわめいている教室では、大きな声もおたがいに打ち消しあってしまいます。しかし、シーンとした教室では、小さな声でもよく聞こえるでしょう。テスト中に、ペンの音や咳払いがよく聞こえるのと同じですね。
ですから、「静かにしてください」といって静かになってから、「それでは……」で話し始めることです。
〇甘えた声は甘くみられる
甘えた声を出す人がいます。特に女の子には、アイドルのように、わざと甘えた声を出している人がいます。これはあまりよいことではありません。
「うそー」「やだー」「ホントー」なども、です。
まして、「むかつく」「うざい」こんな日本語は、使わないようにしましょう。
こういうことばを使うと、本当にそんな気分になって、自分の心身に悪いからです。もちろん、言われた人も気分のよいものではありません。
若い人のよく使う半疑問形というのも、感心しません。「ーとか」「ー?」などと、語尾があがるのは、自信なく、まわりの同調をさそう、つまり自分で意見を言って、その是非のリスクをとることを避けている、ことばと声のたれ流しです。
最近、私は昔の時代劇などのことばが美しいと思うことがあります。それは、きっとしっかりと自分の意志や気持ちを声で言い切っているからです。
言ったことのよしあしもですが、言い方にもっと気をつけましょう。
言うことも気をつけなくてはいけないのですが、それは間違ったら、直せばよいのです。それで一つ学べます。ところが、きちんといわないと、そういうことさえできないのです。ことばというのは、自分の主張です。
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