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「よい声になれるヴォイストレーニング~声の科学」 Vol.2

○プロの声はお腹から出る

 

役者や声優は、台本を、人にしっかり伝わるように表現します。それは、訓練の賜物です。

大切なことは伝えることであって、声を出すことではありません。いくらよい発声でも、棒読みしているのでは、伝わらないからです。深い呼吸で声にメリハリをつける自在に使える力がないと、聞こえたところで、伝わらないのです。つまり、プロは、お腹から声が出ているといえるでしょう。

この機会に、声を「出すこと、使うこと、伝えること、伝わること」について考えてみましよう。また、自分の呼吸や発声について、チェックしてみましょう。

 

○声の音色

 

音色の違いは、周波数の成分がどんな具合に混ざっているかの違いで、音波の波形で示されます。私たちが聞いている音のほとんどは、複合音です。

声もまた、複合音です。120ヘルツの高さ(基本周波数)で話していても、そこには、その上の240360480と整数倍の高調波(倍音=ハーモニクス)がのっています。その高調波がどのように交ざっているかによって、音色が違ってくるのです。

同じ大きさで、同じ高さの音でも、ギターの音かバイオリンの音かは区別できます。それぞれの波形=高調波成分の分布状況が違うからです。この違いが音色です。

声についても同じです。同じ大きさ、高さで声を出していても、誰の声かは、わかります。音色が違うからです。音色は音質とも言います。声の音色、すなわち声の音質はまた、声質ともいわれます。声のイメージは、この声質の違いです。

これは声帯と共鳴器官との関係などによって決定づけられます。ですから、細い声の人でも、トレーニングである程度までは太い声にすることができないわけではありません。

 

○純音について

 

一般の音のほとんどは複合音で、純音というものは、ほとんどありません。

純音とは、単一の周波数の音で、その波形は「サインカーブ」、数学の三角関数の授業に出てくるようなきれいなカーブで示されます。自然界にはほとんど存在しません。

身近では、NHKの時報の音が純音です。「プ、プ、プ、ポーン」は「ブ、プ、プ」より「ポーン」のほうが高い音で、この周波数は、はじめの3つが440ヘルツのラ(A)、最後の長い1音だけ880ヘルツの高いラとなっています。周波数が大きいほど音も高くなるので、時報は最初の3音に比べて、最後の1音に倍の周波数を使ってオクターブ上の高音にしているのです。

 

○フォルマント

 

声帯から音は、声道から口を通り、「ア」とか「イ」などの響きがつけられます。それが、音色の違いであり、高調波(倍音)の共鳴の濃淡によってつくられます。

口の中では母音に応じて、舌などで形を変え、共鳴を変えています。とくによく共鳴しているいくつかの周波数のことを、フォルマント周波数と呼びます。フォルマントは、いくつかの山となり、低い周波数から順に第一、第二、第三フォルマントです。(第一の下に声帯の基本周波数が位置する)母音は、第一フォルマントと第ニフォルマントの周波数の組み合わせで決まります。

 

○f分の1ゆらぎ

 

 fというのは周波数(frequency)の頭文字で、「f分の1ゆらぎ」とは、周波数に反比例するゆらぎです。つまり、高い音ほど小刻みに、低い音ほど大きくゆらぐのです。自然界の音(せせらぎや除夜の鐘、風鈴、オルゴール、クラシック音楽など)に見られます。

 

〇よい声の条件とは?

 

声がよくなるとは、より大きく高く(低く)長く出せるだけでなく、声がしっかりと統一され、かすれたり割れたりしないということです。しかも長時間出しても異常をきたさないことです。体調の悪いときも、伝えたいことを表現するのに充分な声が確保されることです。特に、人前で声を使うときは、声の調子を万全に整えておかなくてはいけません。

現実には、美しさ、心地よさといった声質、あるいは、個性、パワー、インパクトが問われます。

つまり、「よい声」とは、生まれつきの声(素質)よりも、発声のよさ(発声)、さらにそれよりも声の使い方(表現力)によるところが大きいのです。

声そのもののよさだけでなく、声を使える力が、より問われるようになってきたのです。まずは、今自分の持っている声の力を見直してみましょう。

 

EX.魅力的な声 

基本周波数で、腹式発声がきちんと行われていると30004500ヘルツ前後の成分が高く、声の聞こえがよくなります。Sの音がきれいに出ていると、さわやかな印象を受けます。

 

〇よい声と悪い声とはどう違うか

 

人は、十人十色、いろんな声を使っています。その中で、よい声がどうもよくわからない人は、悪い声から考えてみましょう。悪い声は不自然で伝わりにくいでしょう。何を自然と思うかは、聞く人の感覚で、目的やTPOや相手の好みにも左右されます。よい声は自然に伝わるといえましょう。

自分の声がどうなっているのか、そして、どうなったらよいのかを、自分なりにイメージしておくことは大切なことです。

声について、自分の抱いているイメージを、声がよいと思う人、声が悪いと思う人、変わった声だと思う人(どのように)など、他の人の声を思い浮かべて書き出してみましょう。

次に、今の自分の声と、改善目標を掲げてみましょう。

たとえばこんな感じに…

今の自分の声「かたく、こもって、押し潰した声で、ときにヒステリック」

改善目標「やわらかく、はっきり前に出たクリアな声で、いつも落ち着いてゆったり聞こえる」

というわけで、声のよしあしというのは耳を研ぎ澄ますことでわかるものです。

 

EX.個性的な声

・音圧のレベルが高い。基本周波数の変化が遅いのがわかる。

・エネルギー量が少なく、やや力を抜いている感じ

 

〇耳で音を聞くしくみ

 

声のよしあしも聞く人の受け止め方によります。耳が声をどう捉えるかを知っておきましょう。

人間の耳は、外耳、中耳、内耳の3つに分かれています。外耳のなかでも、耳介は音を集める働きを持っています。とくに前方と横の音を中心に集め、後ろからの音をカットするようになっています。耳の形をみるとわかるでしょう。左右両方に耳があるのは、音の方向を知るためです。

集められた音は外耳道を通って、鼓膜を振動させます。この鼓膜の奥が中耳です。鼓膜のところで振動した音は骨を通って、蝸牛孔というところに出ます。その蝸牛の中で周波数が分析されます。その情報が脳に伝えられ、判断するのです。

蝸牛と呼ばれる骨の中はリンパ液で満たされています。そこには1万を超える数の繊毛がフラフラと浮くようにして生えています。その11本が特定の周波数を聞き取る役割を持っています。

この繊毛が1本でもなくなると、その特定の周波数の音を聞くことができなくなります。壊された繊毛は再生することはないので、二度と、その周波数を聞き取ることはできなくなります。

この繊毛は、耳の外側から順に高い周波数から、奥へ行くほど低い周波数に反応するようになっています。高音の音波はまっすぐ進み、1回でも曲がってしまうと、それより先へ進まなくなるという性質があります。低音の音波は回りながらでも進んでいくことができます。そのため、耳の入口近くで高音を感じ取り、奥のほうで低音をキャッチするようになっているのです。

いちばん外側のは、2万ヘルツくらいの周波数に反応します。人間の耳には聞こえない高周波数ですが、反応を示すということで、その音を受け取っていることがわかります。

受け取り可能な周波数には、言語によっても差異があります。たとえば、英語には超音波まで含む発音が多く、英語を話す人たちはそういった音までを捉えています。英語のヒアリングができると英語の発音もよくなります。

 

〇お年寄りに聞き返されない声

 

声は、高い方が聞こえるものですが、場合によっては聞きとりにくくもなります。耳の遠いお年寄りには、大きな声でなく低い声を使うのがうまく伝わるコツです。年齢を経ると、耳の入口の方から繊毛がなくなり、高い声をとらえにくくなるからです。

 

〇人間の間き分け力

 

人間の音の高さ(周波数)の聞き分けは、2ヘルツでも可能です。わずか2ヘルツでも違えば、違っていることに気づきます。

1オクターブ内で歌った場合、そのなかで次々に周波数を変えていくのですが、その変化で2ヘルツを違うと音程の狂いを感じるわけです。つまり、安定した声の高さを保ち、次の音階へと移行するのは、高度な技術を要するのです。これを私たちは歌うときには、しぜんとやっているのです。

音感の優れている人は、ある音から次の音に変化するときにパッと移ります。しかし、音感が悪いと、正しい音よりも上に行き過ぎてから下がったり、下げ過ぎて上に戻すといったことで、正しい音に落ち着かせます。正しい音に落ち着かないと「音痴」と呼ばれるのです。

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