閑話休題 Vol.79「大和魂」(1)
<定義>
大和魂は、外国と比して、日本流であると考えられる精神や知恵・才覚などをいう。大和心。和魂。儒教や仏教などが入ってくる以前からの日本人のものの考え方や見方を支えている精神で、儒学や老荘思想に基づく「漢才(からざえ)」、学問(漢学)上の知識に対していう。江戸後期からは、日本民族特有の「正直で自由な心」の意味。
日本民族固有の精神。勇敢で、潔いことが特徴。天皇制における国粋主義思想、戦時中の軍国主義思想のもとで喧伝。
・世事に対応し、社会のなかでものごとを円滑に進めてゆくための常識や世間的な能力。
・専門的な学問・教養・技術などを社会のなかで実際に役立てていくための才能や手腕。
・中国などの外国文化や文明を享受するうえで、対になる(日本人の)常識的・日本的な対応能力。
・知的な論理や倫理ではなく、感情的な情緒や人情でものごとを把握し、共感する能力・感受性。
など、根底となるべき、優れた人物のそなえる霊的能力。
・日本民族固有(のものと考えられていた)勇敢で、潔く、主君・天皇に対して忠義な気性・精神性・心ばえ。(近世国学以来の新解釈)
イメージ:大和国(奈良県)日本そのもの、富士山、桜、出雲大社、大仏、戦艦大和、もののあはれ
武士道との関連 厳しい規律と自己抑制、運命へ服従、忠誠心。自己に打ち勝つサムライ精神。
神道との関連 大気そのものの中に何かが感じられる、宣長の句の中の、朝日に匂う、には、何か神々しいもの、畏れおおいものを感じます。
<歴史Ⅰ>
「そらみつ大和の国は水の上は地行(つちゆ)くごとく船の上は床に居るごと大神の斎へる国ぞ」万葉集
大和魂の初出は「源氏物語」の21帖「少女」。
「なほ、才をもととしてこそ、大和魂の世に用ゐらるる方も強うはべらめ」
大和魂は、机上の知識を現実の様々な場面で応用する判断力・能力を表すようになり、主として「実務能力」の意味で用いられていました。
大和心も、また、知性に対する知恵の意味。学問の研鑽を通して身に付くものでなく、その人間に生来備わっているとされるもの。今昔物語集では、和魂で使われています。
江戸時代中期以降の国学で上代文学の研究が進み、大和魂の語は本居宣長が提唱した「漢意(からごころ)」と対比され(真心)、「もののあはれ」「はかりごとのないありのままの素直な心」「仏教や儒学から離れた日本古来から伝統的に伝わる固有の精神」のような概念となります。
宣長は「敷島の大和心を人問はば 朝日に匂ふ山桜花」と詠みました。
江戸後期になると国学者によって、大和魂は、日本の独自性を主張するための政治的な用語として使われます。遣唐使廃止を建言した菅原道真が、大和魂の語の創始者に仮託されます。(和魂漢才 菅家遺誡)儒学の深化と水戸学・国学などの発展やそれによる尊皇論の興隆に伴うもので、近代化への原動力となります。
アメリカの来航に密航を企て倒幕の志を抱いた吉田松陰。
「かくすれば かくなるものと知りながら やむにやまれぬ大和魂」
「身はたとひ 武蔵の野辺に朽ぬとも 留置まし大和魂」
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