「ヴォーカルトレーニングの全て」 Vol.5
〇鼻声、喉声をやめる
鼻にかけると鼻声、押しつけると喉声になります。どちらも意図的に声にしようとするところで、すでに間違いを犯しています。理想とする声は、そのどちらでもないところ、特に最初は不安定で頼りなく感じるところにあります。
本当の正しい声は、出てしまうのです。最初はそうはいきませんから、このバランスを少しずつまん中にとっていくことです(日本人がよい声と思うところは、演歌などでわかるように、やや上に無理に集めているところにあると思われます)。
余計な力を抜いてみましょう。もちろん、すべてがたるんでしまうのもよくありません。
間違ったままの声をそのまま使おうとすると、間違った発声となり、問題がいつまでも解決していきません。いつまでも喉は疲れやすく、壊れやすい状態から抜け出せないのです。疲れが回復せず、ベストな状態を維持できないことから、喉にも精神的にもプレッシャーなどがかかることが日常となり、よい状態が得られなくなるのです。
まずは鼻声、喉声をやめることです(ここでいう鼻声は、わざと上に響かせようとした[方法]のことで、その人の声質、あるいは病気で鼻にかかっている声を指しているのではありません)。
[正しい声を得るためのトレーニング]
1.声を出して、テープにとって聴いてみましょう。
2.口やあごを動かさず、腹話術のつもりで「会いたい」といってみましょう。
3.上(頭)のひびきを使わずに地声で「あまいことば」といってみましょう。
4.勢いのよい声で「ハッ」と掛け声をかけてみましょう。
5.「イエイ」「ヨオ」など、ノリのよい声を大きく出してみましょう。
6.「ガヤダ」と20回言ってみましょう。
7.「アー」と20秒、伸ばします。
8.「エー」と20秒、伸ばします。
9.「イー」と20秒、伸ばします。
10.「オー」と20秒、伸ばします。
鼻や喉にかかっていないかチェックします。
〇ナチュラルヴォイスの発見
発声器官とか筋肉などは、意識すると、逆にその部分を緊張させ、解放できなくなるものです。バッターやピッチャーが、腕や手首を意識して、よい結果になることはないはずです。そこを使うからといって、そこに意識を持つことはないのです。
発声器官の図やビデオを見ても、実際の器官の具体的な動きをイメージしてトレーニングしない方がよいでしょう。(科学的な発声原理や生理的解剖図を知るのはよいことですが、実践であるトレーニングがそれにとらわれてはいけません。
なぜなら、多くの理論は仮定されては否定され、そのことと実践とは、結びついていないからです。トレーニングで視野が狭くなるときに常識としてやっていることがおかしくないかを考えてみるために必要というくらいのものです。
たとえば、「強く大量の息が、高い音や声量をもたらすのでない」というようなことは、原理から証明しなくとも、音色を変えることを考えてみれば、誰でもわかります。でもトレーニングするのは、感覚での統御のためであり、そこから離れなくてはならないのです。
空手家は実演をアップで、スローモーション、タイム入りで見なくとも、うまく習得してきました。見るのはよいのですが、そんなことを考えると、できなくなります。
意識の持ち方は大切です。むしろ、メンタル・トレーニングの方法に学ぶことです。私は、「喉は、ない」と思うようにイメージさせています。
○欧米のトレーナー
欧米のポップスのヴォイストレーナーには、喉の締め方や使い方を教えている人もいますが、それは一般の日本人にはハイ・レベルです。そのトレーニングは、部分的であり、それをマスターした人と似た体質(声帯、言語、音楽環境)がなくては、あまり効果があるように思えません。喉を完全に解放できて初めて使えるものですから、多くの日本人には逆効果になりかねません。
彼らにはみえない、日本人特有の問題を、彼らのやり方で解決するのは、よほど素質に恵まれた人にしか不可能です。その結果が、今の日本のレベルです。
喉から意識を離して自分の声に集中できるようにすることです。それも頭や眉間よりもまず、胸の中心、ハートに、意識も声の出口のイメージをもっていきます。歌の原点はハートです。
意識はお腹(丹田)におくのですが、胸のところから始め、そこに声との一体感を感じていくとよいでしょう。鏡をみてください。首から上だけで声を出そうとしているようなら、間違いです。一声出したときの姿勢で、その人の力の判断ができるくらいです。
肩から上には、力を入れないことです。固定させて、口もあけたまま、あご、口の中などは動かしません。
このことによって、最もしぜんなあなた自身の声(ナチュラルヴォイス)を発見し、獲得していきます。
[ナチュラルヴォイスを見つけるトレーニング]
次の順で、なるべくしぜんに、できるだけ大きな声でやってみましょう。
1.「アーエー」
2.「エーイ」「オーイ」「ウーイ」「アーイ」
3.「ハマヤラワ」
4.「アカサタナ」
5.「ナニヌネノ」「マミムメモ」
6.息を吐く感覚で声にすることを目指します。「(ハァー)アー」
7.床かイスにすわって、「ハイ」「ラオ」「ララ」を同じようにそろえて言ってみてください。
8.自分の最も声がうまく出ていることばでやってみましょう。
9.自分の好きな歌の最も好きなフレーズのみ、歌ってみましょう。
10.「ラララ……」で簡単なフレーズを歌ってみましょう。
2音、3音が1音に聞こえるように継ぎ目をなくすことです。
〇統一された声 バランスのチェック
それでは、統一された声の見わけ方について述べておきます。
1.高い音と低い音の強さが均一 音色、音質が音高(ピッチ)によって異ならない(同質性)
高い音はキンキンになったり、かすれて自分のコントロールできないところで響きます。ある一定の高さから上は、高くなるほどヴォリューム・ダウンし、中間音や低い音もまた、ヴォリューム・ダウンするような声では使えません。
2.ヴォリュームが出る(声質)
ヴォリュームのある声を出すことは、胸でしっかりと声をつかまえておき、そこに息をより強く送ることで可能となります。そのとき、高音ではバランスよく響きが集まり、大きく聞こえるのです。
弱すぎる声も不安定なら使えません。
3.ことばをシャウトできる(応用性)
声を出そうとがんばるほど、喉にかかるのはよくありません。やわらかく、しっかりとヴォリュームのある声が出てこないといけません。
4.ピアニッシモにできる(柔軟性)
統一された息のコントロールと流暢な流れが伝えられないと、上の響きへの移行がしぜんでなく、弱く保つことができません。
自分が好きになれ、素直にしぜんに聴こえる声をめざしてください。その声を「コクとキレのある声」といっています。これは、鋭く強く思う存分出せて(キレ)、しかもやわらかく響き、小さく微妙にコントロールできる、味のある(コク)声ということです。
5.持続できる 再現できる(再現性)
喉が疲れやすく、声を出しているうちに音質も変わってきます。
[声を統一するためのトレーニング]
次のトレーニングで確認してみましょう。
1.下のドから上のドまで、1オクターブを、「ラー」で上がっていきましょう。
2.下のドから上のドまで、1オクターブを、「ハイ」で上がっていきましょう。
3.「ラア」「テエ」「ニイ」「フウ」「モオ」の2音目を大きく叫んでみます。
4.「ヘイ」「イエイ」をシャウトします。
5.「カコク」「サセス」「タトツ」をシャウトします。
6.「カアア」「マアア」「ラアア」をシャウトします。
7.高い音で、4,5,6をシャウトします。
8.「ムー」「ミー」「レー」を高音で小さく出してみましょう。
9.「ルー」「ラー」「レー」を中間音で小さく出してみましょう。
10.「ハァー」「マァー」「ラァー」を低音で20~30秒、伸ばしてみましょう。
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