「ヴォーカルトレーニングの全て」 Vol.7
○伝わる声こそ、正しい声
ことば1つをとっても、それを本当に伝えて相手の気持ちを動かそうとするときには、体や息が使われるでしょう。その感覚をより確実にパワフルに伝えようとすることで、声の可能性、能力も開いていくのです。
音楽的な才能を伸ばすには、一流の音楽をよく聴き、よく感じることです。精神的な成長により、人間として偉大で奥深く畏敬ある表現を極めること、精神的に覚醒し、感覚を研ぎ澄ますこと、これは実際の能力よりも、どれだけ意欲をもち、真摯に取り組み続けるかということがあって初めて、才能が問われます。
私は時折、よい例、悪い例をみせます。何が正しいのかは、すぐにわかります。
伝えようと本気になったとき、働く声、つまりテンション高く体と心と声とが一体になったもの(人間の遺伝子レベルの情報です)<A>、悪い見本のときは、伝えようと思わない、するとテンションが下がり、部分的に声が働き、状態が悪く出ます<B>。
トレーニングは、それらとは違います。そこに表現がいるのです。
そのことによって、発声器官が本来の機能を取り戻していくのです。そこから、自然な声が発現されていきます。
1.伝わらない声 2.伝えようとする声 3.伝わってしまう声の順に向上させていくのです。
しっかりと音声で伝えられない人は、しっかりとは歌えないでしょう。伝えようとする強い意志があれば、ことばが音声と融合してきます。
すでに知られている世界、あなた自身が決めつけていた世界から、あなた本来の持つ未知の能力を掘り出す世界への探究が、ヴォイストレーニングなのです。
〇日本語を音楽的にこなすには
日本語は、第1音節が低く、第2音節が高いことが多く、それに対し、拍は第1拍が強いから矛盾が生じやすく、難しくなります。日本語は、必ずしも低いところを弱く、高いところを強く発音するのではないからです。このへんは、1音ずつ均等の長さにわけず、フレーズのなかで、ことばのイントネーションを生かすように処理していくとよいでしょう。
音色も変えるのではなく、表現に応じて自動的に変えていく、伝えるイメージによって自然と最もよくなってしまうようでなくてはなりません。発声器官をコントロールして変えようなどとは思わないことです。
[発声]
声を出すときには一瞬にして、母音、ピッチ、音量が定まります。息を声音にすることを声立てといいます。
1.二重母音:2つの母音を1音にするつもりで発声してください。
ea(エアー)
ua(ウアー)
oa(オアー)
ia(イアー)
ae(アエー)
au(アウー)
ao(アオー)
ai(アイー)
2.こんどは3つの母音です。
eae(エアエ)
uau(ウアウ)
oao(オアオ)
iai(イアイ)
aea(アエア)
aua(アウア)
aoa(アオア)
aia(アイア)
〇日本語の特質を知っておこう
「A」の響きのまま、「EIOU」と深みが保てるように言ってみてください。日本語のアは浅いので、のどを開き、声を落とさずに出すことです。外国語の母音のなかで最も深い音を使ってトレーニングしてみるとよいでしょう。
強弱アクセントを利用して、ボールがポンポンと跳ねていくように、ことばを送っていきましょう。ことばが流暢に出て、止まらないようにしましょう。この前へ前へと流れていく動きこそ、ことばがリズムを伴ったときに、音楽的になっていくための第一歩なのです。
強アクセントのくる母音は長母音が多いので、強くなるとともに長くなりやすいのです(伸ばすのでなく、切り込みを鋭くしましょう)。
ことばの強拍と音楽の強拍が一致すると、自然に前へとことばが動いてきます。アイススケートで左右の足が交互に出て推進力を得るようにです。
欧米人にとっては、すべての音節を同じ長さで発音することはありません。そこで「福島」を「フクシイマア」などというわけです。「シイ」にアクセントがつき、強く、伸び、結果として音楽的になるのです。ことば自体が、ズッター、ズッター(弱強弱強)とかタンタッタッ(強弱弱)というリズム(律)を持っているのです。
日本語は等拍(長さ)ですから、文字の数で数え、しかも均等においていきます。強弱より高低に区わけがいき、前に行けないのです。従って歌うのも大変です。動き、流れがないから、いつもそれを作らなくてはならないのです。
そのため、ことばでの処理と別に必要以上に長く揺らす、ヴィブラートでの感情移入という、音楽的表現が切り離して発展しました。
欧米人なら、ことばを自然に歌にすればよいのに、日本の歌は、大げさに歌わなくてはならなくなるのです。そこから、どうしても不自然になります。(お客さんの聞き方の問題もあります。)
たとえば日本語の助詞は、強い拍にきたら、めんどうになります。メロディやフレージングでもメリハリはつけにくく、自然とディミニュエンド(だんだん弱く)させたり、響きに逃がすようになりがちです。(外国人には、日本語は銃弾のように聞こえるそうです。「オ・ハ・ヨ・ゴ・ザ・イ・マ・ス」。)
日本語は、頭にアクセントがきているので、アクセントが1拍目にあるような場合は比較的、歌いやすいのです。しかし、その場合も頭打ちなので、その後の流れは出にくいのです(アフタービートの弱さ)。
ピアニストでも、かつての日本人は、頭打ちでポツリポツリと切れるのに対し、海外の人は、後打ちで、ズダーン、ズダーンと次に流れを持っていくので、歌っていてものりやすいのです。あるいは極端なヴィブラートをつけ、音声処理してしまう歌手(多くは声楽出身)も、うまくありません。
これらのことを含めて考えてみると、発声を日本語でなくイタリア語あたりで習得することは、理にかなったことでしょう。つまり、イタリア語で学んだフレーズの感覚やセンスで日本語を処理して、しかも、日本人に伝わるように歌詞の見せ方を考え、歌うというステップを踏んだ方が、実際のところ、早いようです。「NHKイタリア語会話」など、お勧めです。
〇母音のトレーニング
日本人の声は、薄くひらべったく浅いのです。ここは、欧米人の深い発声を見習った方がよいでしょう。外国人の映画の俳優やキャスターを手本に発声(発音でなく)トレーニングをしましょう。日本人のアナウンサーは、この点ではあまりお手本になりません。
出だしを高め強め、一音単位にすべての音をはっきりという、しかも高低アクセントに気をつける、これは日本人が歌を習って歌うとき(あるいは、音程のための「コールユーブンゲン」を使う練習法)に似ています。
○母音
すべて、のどをあけて同じように響くようにしていくことです。たとえばイタリア語は、ことばの最後以外はすべて母音とともに発声されます。
支えが浅く、胸に力が入っていると、ふるえ声(トレモロ)になります。
日本語は、子音が発音上、独立することがあります。たとえば、スーパーのスはsuですが、スケートのスはsで母音のuがつきません。トレーニングでは、カタカナで読んだままの発声ではよくないのです。(子供の教科書読みのようなものです。音は、はっきりしているのに、逆に内容が伝わらない、心を打たないのです。)
それでは、やってみましょう。一番、出しやすい高さの音でやってください。
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