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「ヴォーカルトレーニングの全て」 Vol.10 

〇フレージングのポイント 声の密度と統一感

 

 フレージングの中心のポイントをどこにおくかということを考えてみましょう。

 多くは、小節の第1拍目におきます。4拍子なら、3拍目も強くできます。歌詞の強弱の強におくときもあります(日本語は前述したように高低アクセントの高のところに強拍が一致せず困りますが)。4拍目から出る音(アウフタクト)を強くとるのは、間違いです。

 さらに、速度が速くなるところや遅くなるところ、ブレイクがかかったところなど、があります。フレージングのなかで音を動かし、盛り上げたり、前後につめて処理する、どこかの音を強調のために伸ばすためには、後ろでつめてテンポに遅れないようにしなくてはなりません(前につめるときもあります)。その逆もできます。さらにシンコペーションになることもあります。

 前打ちや後打ちというのも、1つのフレーズのとり方に入るかもしれません。

 

 なかには、リピート部分(特にサビやテーマの部分)を3度から1オクターブあげて歌うときもよくあります。高くなると、ピッチのゆれ幅が大きくなり、ヴィブラートが強調されて、高揚感があおられるからです。

 熟練したヴォーカリストは、ヴォリューム感を高い音でなくとも、どのフレーズのなかにも充分に盛り込むことができます。いわば思いのままに声の密度、緊迫感を高めることができるのです。そして声と身体と感情とをギリギリに一致させて表現していきます。全身全霊で表現して初めて、聞く人にも大きなものが伝わります。(そのために、声をつかまえ動かすのがフレージングです。)

 楽譜上ではまったく同じ繰り返しでも、歌うときには何らかの変化をつけるべきでしょう。

 繰り返しや転調で、高くなれば張るし、低くなれば抑えるのは、いうまでもありません。

 多くの人は、長い音符のところを強くして、短い音符を弱くしがちですが、歌では必ずしもそうではありません。伴奏の強弱とも、必ずしも一致させません。そこに、どういうズレを創造するかが、センスなのです。

 

 フレーズができてくると、ブレス(息つぎ)の位置も、明確になってきます。ブレスも、間も、また大切な表現です。ブレストレーニングは、それゆえとても大切です。ボールにグローブが吸いつく、いやすべてのボールがグローブに入ってしまうように、身体の動きがこなれなくてはなりません。

 フレーズのとり方によって、ことばの意味も表情もはっきりしてきます。フレージングにおぼれてしまってはなりません。ヴィブラートのなかで、声の響きだけをとっていっても、表現はでてきません。(でも日本人は、過度なヴィブラートというか、揺れ声に弱いのです。)伝えようとする意志や精神の統一が声をまとめ、表情をつけて初めて聴き手の胸に入り込み、感動を導き出すのです。

<ブレスヴォイストレーニングでは、最初はことばや響きの切れと息のフレーズとをわけて考えています。ことばは言い換えなくてはならないし、たとえことばや響きは切れても、息はフレージングのなかで、きちんと保たれなくてはならないからです。>

 

[フレージングのトレーニング]

・頭にポイント(強拍)をおいてみましょう。

1)あなたと来た日を思い出して

2)飛んで火に入る夏の虫

3)こわれてしまったラジオ

 

・前半を強く伸ばし、後半を短くいってみましょう。

1)ひたすらあるいた

2)とおくはなれても

3)ララララーラララ

 

・次の音を自由な長さでフレーズにしましょう。

1)ひたすらあるいた(シドレレミシレド)

2)とおくはなれても(ラドシラドミレレ)

3)ララララーラララ(ドレミファファミファ)

 

・同じフレーズを2回目にキーを上げて歌ってみましょう。

1)いまはただ(ファミミレレ)

  いまはただ(ドシシララ)

2)あなたになら(ラシドラミレ)

  あなたになら(レミファレラソ)

3)あいする(ドレミーミ)

  あいする(ファソラーラ)

 

〇歌の装飾について

 

 歌には、楽譜に指示された装飾記号でのルールがあります。

 

・アクセント(>)(∧)

 ∧は>と併用されるときは、>より強くなります。

 アクセントとは、ディミニュエンドの1拍分のようなものです。前の音より、大きく入り、前と同じに戻ると考えましょう。

 強調ということなら、強める、長めにする、やや早く(遅く)入る、少し強めるのを遅らせるなどという方法もあります。ズダーンズダーを強くするようにします。

・スタッカート(・)

 各音を切り離し、区別します。

 スタッカートで音をできる限り短くとっている人をみかけます。しかし、どちらかというと、スタッカートは各音が区別されるように表現することです。ヴォーカリストは、この表現上の区別を口先で行なうときと、お腹から切るときとがあるように思います。響かせてから、フレーズのなかで切っておくのであり、ピッとはねあがらせて切るのではありません。

・テヌート(-)

 各音の上にダッシュをつけます。

 その音を保ちます。強く出ずに、なめらかに入り、ディミニュエンドはしません。テンポをためるような場合もあります。少し押しがちの感じといってよいでしょう。

・フェルマータ()

 音を保持する。

 この記号が曲の最後の手前についていれば、かなり自由に長く伸ばしてエンディングにおとし込めます。多くの場合、フェルマータを予期させるためにも、そのまえで少しテンポがゆっくりになります。リズムとテンポのブレイク部分です。

 ですから、次にまだ曲が続くときは収拾をうまく、本当にピッタリとした呼吸をもってやらなくてはなりません。たっぷり聴かせるか、もう1つというところで急に元のペースに戻して締めるかを決めましょう、だらだら何音にもわたってテンポをくずすのは避けるべきです。

 曲中にあるときは、1つの間を作りあげ、聴き手の期待が整ったところで、次の進行におとし込むのです。おとし込むという表現が適切かどうかは別としても、1曲のなかの聴かせどころ、お客との最も近いコミュニケーションのとれる勝負どころ(だめ押し)には違いありません。

〇テンポについて

 テンポの感覚は、いくつかの曲で覚えておくとよいでしょう。ステージでは前の人の曲が、違うテンポ(スロー・テンポやアップ・テンポ)だったときには特に注意しましょう。知らずと引きずられる人がいます。いつもと同じテンポで歌っていても、速く感じたり、遅く感じるとやりにくいものです(本当にテンポが間違っている場合もあります)。

 歌っていても盛り上がらず、よくないと思ったときは、バンドのリーダーにテンポ・アップを、曲の途中でも伝えるとよいでしょう。

 トレーニングにおいては、テンポを変えたり、ピアニストに弾き方を変えてもらうのもよいでしょう。伴奏者のなかでもリズムを強く弾く人とメロディをきれいに強く弾く人とは、歌う場合の感じも違います。テンポは、最も歌いたいところ、テーマやサビのところにあわせて決めるべきでしょう。

 テンポの指示について

・リタルダンド

 センテンスの区切りをきわ立たせられます。

・リタルダンドにフェルマータ

 音楽性にもとづいて伸ばしましょう。

・リタルダンド a tempo

 1拍目をリタルダンドするかもう1拍、続いた

 ときにくる位置におく(もう1拍のリタルダンド

 分、休みを入れる)ということです。

[スタッカートのトレーニング]

 スタッカートとは、声を短く切ることです。お腹の動きで息を吐き、それを声として出します。身体と声とが一瞬結びつき、強い声が瞬間的に出ます。深い息を深い声にすること、それを柔軟にコントロールできる直前の状態に保ちます。喉で切らず、お腹でしっかりと切ることです。逆に、身体(胸)に押しつけがちになりやすいので、注意しましょう。決して、力でやるのではありません。

 スタッカートのイメージは、呼吸をまわし、そこで声を捉える感じです。

[レガートのトレーニング]

 レガートとは、音をつなげて歌うことです。多くの人は、音と音との間に切れ目が見られます。音高や発音の違いが、音質を変えてはよくありません。レガートは、歌の基本です。声に厚みを加え、重ねるようにしていくと、つながります。フレーズのなかで共鳴もシャウトもできるようになってきます。(つまり、声を深く握っていて、吐く息で自由に動かせる)。

 

 音程の移動もスムーズにします。音によって、声の出し方を変えないことです。ずり上げ、ずり下げは厳禁です。身体と息だけをイメージでコントロールします。

 

 ことばをそろえることは言うまでもありません。響きだけでとるのが簡単ですが、トレーニングとしては、あえて声を、息を送って、レガートにするのです。

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