「よい声になれるヴォイストレーニング~声の科学」 Vol.9
〇うるさい音、嫌な音
人間だけでなく動物にも共通することですが、本能的に嫌な音、たとえば爆発音などを嫌い、逃げる性質を持っています。つい身構えてしまうのは、そのせいです。
自分が過去にその音が嫌いになるような経験をしたため、その音がすると、反射的に嫌な音と判断することもあります。
人は、衝撃音が不規則に連続すると嫌な音と感じるのです。これが、恐怖を感じる音ともいえます。
たとえば、黒板を爪でひっかく音(黒板には見えない凹凸があり、爪でひっかくと、凸の部分と爪とがぶつかる音が不規則に繰り返され)は、不快な音になります。
それなのに、バイオリンの音も弓で弦をひっかく衝撃音の連続なのに、美しい音に聞こえます。なぜなら、バイオリンの音には規則性があるからです。もちろん、下手なバイオリニストの音は、聞くとストレスです。
これらは、声にも当てはまります。
〇声のくせは、個性とは違うのか
声のくせは、その人の声の特徴ですから、個性といえなくはありません。しかし、もって生まれた声を充分に生かしきっている、といえないから、くせと思われるのです。
ガサついている声は比較的、大きな声を出している人に多くみられます。声帯に力が入っていたり、喉や口内が詰まったりしているのが主な原因です。
喉をしめつけるくせがついている人もいます。
小さな声しか出ない人は、響きが出てこないので、硬く聞こえます。聞きづらい声というのは、うまく使えていないから共鳴していないのです。決して生まれつきということではありません。
まず、間違ったイメージや思い込みをとることです。他の人の声やその使い方の影響もこれに入ります。自分に合っていない声を出そうとすると、無理が生じます。
次に、発声上の問題です。高い声や大きな声を出しすぎている人は、低音でゆっくりと出してください。リラックスして、強い息を使わずに声を出します。かすれたり、喉にひっかかるのはよくありません。
最後に、発音の問題があります。
身体や息のトレーニングで、イメージとしては、少しでもお腹から(できたら背骨から)息が流れるようにしましょう。喉から上ではなく、お腹全体に意識をもって出すことです。
〇自分の声を聞いて、矯正する
A.キンキン声、金切り声
これは、頭のてっぺんから出る声で女性に多いのですが、男性にもみられます。男性では背が低く太っている人に多いようです。声は通りますが、カン高いため、抜けて出てくるだけで、本当に響きがよいのとは違います。
自分の声を高めに思い込んで喉をしめて出していることがほとんどの原因です。まずは、ことばをしっかりと深く話すことから始めましょう。低い声の「ハイ」で胸の響きを感じましょう。
B.かすれ声(嗄声)
かすれている声、息もれする声は、高音に届きにくく、響きに欠けます。鼻に抜けて、いつもかぜ気味の声のような人もいます。
これは、息がうまく声にならないため、無理に喉に力を入れて押し出すときに表れます。息を浅く短く吐きすぎ、声を出すのに不しぜんにつくっているのです。裏声にも切り替えにくく、つまってきます。発音は不明瞭で、柔軟性に欠けます。
急にたくさんの声を長時間使うと、喉が疲れ、響きの焦点が合わず、声が広がってしまいます。「声立て」(息を声に変えること)が雑で、力でぶつけて出す人に多くみられます。あごや喉が硬く、よくない状態での発声です。
C.しゃがれ声、にごり声
あまりに声が出しにくい場合は、声の診断を受けてください。多くは、「声立て」の問題です。脱力して呼吸で支え、発声の感覚を養いましょう。
ハスキー・ヴォイス、セクシー・ヴォイスといわれることもあります。こういう声は、日本では、とくに女性はコンプレックスを抱くようですが、外国の女優にはたくさんいます。その声を聞いて自信をもってください。
D.小さい声、細い声
外見的には、あごや首、体格などが弱々しい人、または、その人の内向的な性格からきていることも多いようです。大きな声をあまり使わなかったのでしょう。
体力、集中力づくり、身体の柔軟から始めることです。なるべく前方に声を放って出すことを意識しましょう。声を出す機会を多くとってください。
〇モテない理由は声の使い方にある
第一印象というのは、見た目がいちばんです。ところが、声の質やトーンも重要なポイントです。
かつて、モテない度ランキングで常連の出川哲郎さんの場合、「声がうるさい」「声がきたない」「不快」など、声の印象も相当悪かったようです。
出川さんの声は、本当は、とてもよい声です。じつによく通る声なのです。
ただ、喋り方で損をしているのです。
まず早口のために、言っていることが理解しにくい。
「かんべんしてくださいよ〜」と、だらしなく伸びる語尾に好感を持てる人も、いないはずです。
〇声のタイプ
ここで、簡単に声のタイプを分けてみます。
あなた自身の声やまわりの人の声では、どれが思い当たりますか。
カン高い声………声帯が疲れやすく、声が割れる。
キンキン声………金切り声、金属的に響き、不快。
かすれ声…………息の音が多くて、聞き取りにくい。
ぜいぜい声………息苦しくて、ひどいカゼのように聞こえる。
こもった声………口のなかでモゴモゴと、ことばがはっきりしない。
鼻声・甘え声……やや高めで鼻にかける。日本ではかわいらしさと思われている。
やわらかい声……やさしく包容力がある。
響く声……………耳にやさしく響くくらいならよい。
なめらかな声……流れるような感じで快い。
よく通る声………うるさいなかでも、聞こえる、疲れない。
まず、自分の声に関心を持つこと、次に、いろんな声をしっかりと聞くことです。
生の声とその使い方は、違うものです。生の声をよくするには、次の3つが必要です。
・自分のなかの最もよい声を知り、とり出すこと(ベターな声)
・その声をよりよくしていくということ(ベストの声へ)
・よくない声をよくしていくこと(もしくは使わないこと)
声をどのように使っていくかということも、大切なことです。持って生まれた声がよくなくても、使い方がよければ、むしろ個性的で魅力ある声になることが多いのです。
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