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「ヴォーカルトレーニングの全て」 Vol.11 

〇声量について

 

 フレージングのなかで用いられる音の強弱について、もう少し詳しく説明します。

 音量の大小は、fmfpmpppなどで表されます。f(フォルテ)がついていたら大きく歌い、p(ピアノ)では小さくします。クレッシェンド、デクレッシェンドも使います。

 しかし、これらは声量の大小でなく、表現の強弱といった方がよいのです。これが、何デシベル(db)というように単純な音圧ではないのです。

 声の大小は、表現の強弱にそのままつながりません。声の大小は、出す側の感じで、表現の強弱はお客の方での受け止め方だからです。むしろ、p…緻密 f…ひろがり、と捉えるとよいでしょう。

 つまり、音量、声量というのは、聞く人には相対的なものです。ある音に対してそれまでより少しでも大きくなれば、それは大きく聞こえます。何デシベルだから、大きいとか小さいということではありません(もちろん、どなり声なら100デシベルで大きいなどと、いえなくもありませんが…)。

 大きな声が出てもまったく表現力がない人もいれば、小さな声しか出なくても驚くべき表現力をもっている人も少なくありません。

特にポピュラーではマイクを使うので、発声のよしあし、特に声やひびきのコントロールがシビアに問われます。

 しかし、そのことが、大きなスケールのヴォーカリストを生みにくくしているのも確かでしょう。

 大きな声で歌えるようにトレーニングすると、身体がついてきます。身体が鍛えられ、呼吸のコントロールも自由になります。当然のことながら、声も自然に出るようになってきます。

 ところが多くの人は、早くからマイクを使って歌い、それをフィードバックするので、口先だけでの音量調節、せいぜい不器用に響きの方向を変えるくらいのことしかしなくなるのです。カラオケのようにエコーがついていると、身体から鍛えることは不要であり、本当の声量を出すことが不可能となります。

 マイクで歌うとうまく聞こえるという人は、要注意です。カラオケでのトレーニングは、よほどキャリアがしっかりとしていない場合は、大して伸びないことが多いようです。特に声に関しては、です。

 

[感情を表現する]

強く感情を込めて表現してみましょう。最初は大きな声で、次に小さな声で。

1)あなたと離れてくらした日々

2)いつしれず変わってしまったのは

3)ときの流れゆくままに

4)雨はやんで、あなたは去った

5)遠くで希望をみつめながら

 

前のことばに次の感情を込めて表現してみましょう。

1)あまい

2)さびしい

3)悲しい

4)せつない

5)腹立たしい

 

〇フレージングとメリハリ

 

 f(フォルテ)は、「感情を強く」、p(ピアノ)は「感情を弱く」です。表現の度合としては、弱い声でも感情が強く伝わるということもありますから、ややこしいのですが、とにかく、歌の場合、1曲を通して、何かを伝え続けるための起伏、波であると捉えてください。

 声はその内容に関心のある人は大きく聞こえ、関心がない人には聞こえにくくなります。聞く人の注意、集中力にかかっています。そのため、聞き手を引き込み、驚かせたり、心地よくしたりするようにみせなくてはなりません。

 一本調子だと、聞く方は慣れて飽きて、聞かなくなってしまいます。声を張り上げても、単にうるさいだけのノイズになります。マイクのヴォリュームを絞られ、終わりです。

 声量の使い方は、発声や歌い方の問題と直結します。が、表現内容との一致、さらにパフォーマンスやステージとも大きく結びついているだけに、わかりにくいのです。

 

 発声では、自分の声がどう出ていて、それが聞いている人にどのような効果を生じているかまで、感じなくてはなりません。変化のない声量、単調な音色は、お客を飽きさせます。

 

○ヴォリューム感の変化

 

 ヴォーカリストはリラックスして歌いますが、歌のなかでは、表現にたるみは許されません。それをさけるため、前打ちにしたり、シンコペーションをつけるときもあります。音量、音色での調整もできます。だらだらとなってしまうことは最大のタブーです。

 そのための驚きと意外性は、メリハリやff(フォルテッシモ)とpp(ピアニッシモ)クレッシェンドとデクレッシェンドなどでの組み合わせです。しかし、身体が充分に使えていなくては、その変化が表現と一致しません。すると、聞いている人にうまく伝わりません。

 

○構成、コントラストでみせる

 

 強く、あるいは弱く表現をしたいときの、一番、簡単な方法は、その表現の前でセーブしておくことです。つまり、PPの前はやや強く、ffの前はやや弱くしておくのです。すると、コントラストをより明確にできます。

普通は、盛り上げるときには、506070と考えます。しかし多くの人が実際にそうしているつもりでも、声では、505560くらい、表現としては、505255くらいとしか伝わっていません。

もし、506070と伝えたければ、身体としては、5070100くらいに使っていかなくてはならないからです。しかも、しぜんに。

 しかし、504070とすると、同じ70でも、100も使わず、まさに70のままで70を伝えられます。これは、60に対して70より、40に対して70を使った方が、大きく強く聞こえるからです。逆に弱くしていくときも同じです。

 

○声量より、メモリ幅

 

 私が思うに、プロのヴォーカリストは、050100幅の声量のレンジをもちます。アマチュアは、それに対して304050くらいです。一声だけでも、そのくらい違います。その上に、それをコントロールする繊細な力までいれると無限の差がついてきます。それは、5051の間に10のメモリが刻めるかというようなものです。

 

 プロのヴォーカリストの声量を聞いてあんな声はでないというまえに、最少の声量、感情表記のp(ピアノ)やpp(ピアニッシモ)にも注目してください。

あなたよりも、小さな声が出る、いえ、使っているのです。これは、小さな声にもきちんと身体がついているからです。

 

○小さな声、弱い声とテンション

 

 多くの人は、あるレベル以上に小さな声になると、ことばもピッチも狂いがちになり、表現ものってきません。0というのは息です。息から息をほんの少し声にしたところでさえ、彼らは歌えるのです。

 リラックスをして、少し大きな声を出してみましょう。これを40くらいとしましょう。これは、一番歌いやすい声で、最もあなたの声の音色がうまくでる声です。

これを強くしていくと、少しずつ身体に負担がきます。そして、50を超え、6070となり、80くらいのff(フォルテッシモ)では、全身(むしろ、全霊、身体でなくテンションの問題です)を使う感覚となります。

逆に弱くしていくと、30くらいまでは何とか同じ状態を保てる人でも、さらに、2010pp(ピアニッシモ)にすると、やはり身体に相当の負荷がかかってきます。息との結びつきだけで出る声になってくるからです。息との結びつきだけで出る声になってくるからです(ここで述べた声量と身体の関係は、そのまま声域(ff-高音、pp-低音)とおきかえられます)。

 私の声は小さく出しても、かなり広い範囲で多くの人に聞こえます。普通の人の声では、かなり集中してもらわないと、聞きとってもらえないでしょう。

その代わり、多くの人は、まったく感じない負荷を私は身体に感じます。

 ポップスのヴォーカリストなら日常会話の声がそのままリズムかメロディを伴うと歌になるくらいのレベルをめざして欲しいものです。シャンソン歌手のエディット・ピアフは、「電話帳を読んでも歌になる」と言われました。

 

[ヴォリュームをコントロールする]

強くから弱くしてみましょう。

1)あなた あなた あなた

2)おーい おーい おーい

 

弱くから強くしてみましょう。

1)あなたの あなたの あなたの

2)えーい えーい えーい

 

強くから弱くして強くしてみましょう。

1)ハイ ハイ ハイ

2)ライ ライ ライ

 

次のことばを、強弱をいろいろと変えて言ってみましょう。

1)いのち かけて いつまでも

2)いまは もう 戻れない 

3)ハイ あおい ラララ

 

小さな声で身体から表現してみましょう。

1)小さい夢をみつけた 心の片隅に

2)愛の甘いゆめ、熱く燃える心

 

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