「ヴォーカルトレーニングの全て」 Vol.12
〇声は表現から定まる
単に声量の変化だけでは歌は聞かせられません。ヴォーカリストは歌の案内役です。少なくとも、聞いている人に先を越されぬようリードし、どの一瞬も、ことば、メロディ、フレージング、リズム、センスなどで聞きごたえを与え続けなくてはなりません。
一本調子の歌は、何も生み出せません。もたないから、きき手にヴォーカリストの歌うところの先にいかれます。結末までの流れまでをすべて見抜かれてしまうのです。それでは、聞くところがありません。
退屈な時間を与えるのは罪です。ヴォーカリストは、演奏中、ずっとその流れを引っぱり、楽しませてあげなくてはならないのです。
そのために、声量の変化とともに、音色の変化が欠かせません。(※統一した音色をもって、自由に変じる。つまり、変じるために統一したものが必要で、それがベースだったのです。もちろん、歌い手には、変化させずに歌う人も少なくありません。)
音色はつくるのではありません。正しい発声であれば、それぞれの声域、声量にあわせて、色つや、響きが出てきます。
発声は統一しているのですが、その表現によって、音色は、ことばやリズム、センスに伴って微妙に変わるものです。喜怒哀楽を中心とした感情や歌の背景にあるものを表現できるようになっていきます。
○ステージの環境
バンドでやるときには、ドラムやギタリストなどと音量を張り合わないこと、各パートのバランスをしっかりととることが大切です。日本のヴォーカリストは声量がないので、バンドのヴォリュームを絞るべきでしょう。
声域、声量によって、それぞれにでてくる音色をミックスさせたり、違うレンジで自由自在に使うのが、声の技術です。
そのためのトレーニングがあるのではなく、歌のなかでの表現から音色が決まってくるのです。強く激しい、柔らかく甘い、おっとりとおだやか、などと、伝えたい内容を最も効果的に表現できるベースの声でどのレンジも統一して、歌いわけていきます。
ですから、プロは曲の組み合わせをいろいろと変えながら、お客を飽きさせずに1曲のなかでもみせ、さらに何曲も聞かせ続けられるのでしょう。その表現が音色を選び全体を構成し統一していくのが、ヴォーカリストの世界です。
高いところは輝き、スリリングで、中間は説得力があり、低いところはしびれるような声区別の発声でパターン化させただけでは、ワンパターンです。さらに音楽に結びつけて、深めていく必要があります。
常にステージに立っているイメージでトレーニングすることをお勧めします。できるかぎり、大きな空間を意識して、しっかりと歌いましょう。
最初からマイクに頼らないことです。マイクに頼らずに仕上げておけば、本番はマイクが助けてくれます。もちろん、マイクの性質は知っておきましょう。
リハーサルと本番も、音そのものの響きや聞こえ方は違うので、自分の身体の感覚で覚えておくことです。観客がいると音が吸い込まれる分、音も変わります。モニターがよく聞こえる位置に立ったり、マイクの特性を観客席に行なって確認するくらいのチェックはしたいものです。
[メロディを表現するトレーニング]
ことばでしっかりと感情を込めて読んでから、低いところでメロディをつけてみましょう。
ここで使う声域は、ラシドレミファソの1オクターブです。(ラ、シは、ドより低い音で)
1)あなたを愛することを(レミファレドレミドミレラ)
2)よあけのひかりに(ドソソソファミファ)
3)はじめて知った(レミファレシドレ)
4)ゆめはすべて くだけちった(ファミファミレド ファミファミファソ)
次に少し高いところでやってみてください。
さらに高いところでやってみてください。
〇ヴィブラート
歌声を聞いてプロだと感じさせる要素の1つは、心地よいヴィブラートです。わずか1フレーズでも、プロだとわかるのは、ヴィブラートのもたらす明瞭で活き活きした、自然で躍動感のある声の動きです。その声の動きに、メリハリ、ヴォリュームがついているので、一本調子にはなりません。
ヴィブラートは、しばしば間違って解釈されます。混同されているのが、トレモロや声の揺れです。これは、いけないものです。それをヴィブラートといって、教える人もいます。
ヴィブラートは直接にコントロールできるものではなく、声の動きのなかで生じてくるものです。無理につけようとしないことです。
すぐれたヴォーカリストは、ヴィブラートによって流れをつくり出します。よいヴィブラートであれば、スムーズにレガートで音程やことばのつなぎなどに荒れが感じられるはずです。変にかけると、不自然な声となります(これを難なく聞かせてしまうため、ヴォーカリストが上達しない原因の一つがエコー(リヴァーブ)装置です。カラオケは、これが苦手な日本人を助ける魔法の装置です。)。
ヴィブラートと大げさに言わずとも、しっかりしたトレーニングでは、常に発声に伴っています。
声を伸ばしていくと、しっかりした芯が一本通っていて、声そのもののヴォリュームのキープが確実にできるようになります。その上でゆらぎが生じるのです(1秒間に6回くらいの規則正しい周期をもったものといわれます)。揺れ幅は、音量が増したり、高音になると大きくなります。
これがヴォリューム感であり、情感をゆすぶる表現と直接に結びついています。高音の方が感情表現しやすいのも、揺れ幅が大きくなるからです(ピッチのゆらぎが大きくなります)。
ヴィブラートがついていないと、喉が緊張して、柔軟性のない重く固定された薄っぺらい声か、がさつく声となります。これでは素早い音程の変化やことばの変化に、うまくついていけません。(ノンヴィブラート唱法とか言う人もいますが、程度問題です。)
声量や声域を伸ばしていくのは、ヴィブラートによるフレージングともいえます。
喉声で力まかせに歌う人は、生声になり、不規則な周期の揺れとなります。もっと悪いのは、息の支えなしに歌っている人です。こういう人は、喉声であることさえ、気づいていないのです。
(ところが、それでうまいと勘違いするのが多くのカラオケ愛好家たちです。)高音や声量を上げたとき、あごや舌、喉が緊張するのは、そのためです。
逆に声を胸に押しつけたような発声では、音程などが狂いやすく、高いところや低いところで声が出にくくなります。本当は、息の支えの上で“浮いている”ような、声をとらなくてはいけないのです。
[ヴィブラートのための準備練習]
声を伸ばして、ことばをいってみましょう。
1)オーイ ハァーイ
2)ヤーイ エーイ
3)ラララーララー
4)イーチニィーノサァーン
5)マママーマーマー
しっかりとお腹から声を出して、やや早めにいってみましょう。
1)レロレロレロレロ
2)ラレラリラルラロ
3)ラレリロルレラロ
4)ランラララララン
5)タッタッタッンタンタタ
ドレミレドの音階で低いところから、半音ずつ高いところへ移行しましょう。
1)ガーゲーギーゴーグー
2)ゲーゲーゲーゲーゲー
3)ガーガーガーガーガー
4)ラーラーラーラーラー
5)アーオーイーアーオー
〇ことばの響きの統一
響きに流れてことばが何を言っているのかよく聞きとれない。部分的にキンキン響いたり、かすれ声となる。このように、いくら声が響いても、ことばそのものが壊れてしまっては仕方ありません。
高音で「アエイオウ」と言おうとすると、どうしても、ことばが流れがちになります。しかし、そこで、ことばを捉えなくてはならないのです。そのためには、喉が開いていて、深いところで声をキャッチしていることが必要なのです。この点では、一流の声楽家と一流のポピュラー・ヴォーカリストは共通しています。
ことばを区別するより、ことばをつなげるトレーニングが優先します。自分のなかで最も、深く出しやすい母音を選び、そこから各音に展開したり、その逆を行ないます。さらに、その応用パターンを行なってみましょう。
これは、できたら、メッサ・ディ・ヴォーチェ(弱-強-弱)で膨らませるように行なうと効果的です。徹底して低音で声のきっかけ(声たて)と息とのミックスをマスターした上で、中音域に入っていくことです。
そこで問題なければ、中音域から高音域にかけて、これをトレーニングしてみます。芯がついた声に自然と頭声の響きがのっていくことで、感情表現に自在に対応できる声となってきます。
声をとりにいく力は、声となったところで抜きます☆。決して、力で押しつけてはなりません。脱力によってのみ、胸声、頭声のバランスは自然に保たれ、理想的な声がそこで発見できるのです。一本、縦に線が通り、声が自由にそこを移動できる感覚です。その声のみ、確実に私たちがキープし、歌に自由自在に使えるものです。
[ことばをつなげるトレーニング]
(アを中心とする例)
アーイ アーウ アーエ アーオ
イーア ウーア エーア オーア
アーイーア アーウーア
アーエーア アーオーア
イーアーイ ウーアーウ
エーアーエ オーアーオ
(以下、イ、ウ、エ、オを中心にやってみましょう)
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