「よい声になれるヴォイストレーニング~声の科学」 Vol.11
〇大きな声を出すために喉は鍛えられるのか
日本人ほどカラオケやスポーツの応援、演説などで、すぐに喉が痛くなるような声の弱い国民はあまりいません。ふだん大きな声を出したことがないのに、無理をして限度をわきまえずに、声を出し続けるために障害が起こるのです。この頃は少なくなりましたが、カラオケでの喉の異変は、国民病のようなものでした。(急性声帯炎などのはれ)
理想的な発声は、喉への負担を最小限にします。「喉がすぐに痛むのは、よい発声ができていない」ということになります。「再現性こそが上達の前提」です。
声帯(喉)ではなく、お腹から声を出す感覚で発声することです。実際に、声帯に息を送り出し、声をコントロールしているのは、お腹です。喉をリラックスさせようと思っても、喉そのものをコントロールすることはできないからです。
喉が痛くなったから、せりふや歌も伝わらないとは必ずしもいえません。ひずんだ声でこそ、伝わるものもあります。でも、その痛さゆえ伝わる気がするというのは、よくありません。痛みや不快感は、発声への警告なのです。
・つぶした声(圧迫起声)
かつては、選挙戦後の政治家の声は、炎症を起こし、つぶしたような声になりました。声道内の空気流が渦を巻いている。声帯の周りが炎症を起こしてざらざらになり、ノイズ成分や摩擦音が出てくるのです。
〇かすれた声は喉に悪い
悪い状態で声を出しすぎると、喉に炎症をおこしたり、ポリープができたりしやすくなります。この場合は、声(声帯)を休めて、治るのを待たねばなりません。そのまま使い続けると、さらに悪化してしまう場合もあるので注意してください。声がかすれるという場合、声帯が発声障害を起こしているという可能性も考えられます。
つぶした声の方が感情が伝わりやすいし、声もコントロールしやすいという人もいますが、決して勧められません。つぶした声は、声質が悪く、声量、声域も狭くなり、不しぜんで細かなコントロールができにくいものです。しかも、長く休めると、もとの細い声に戻ります。つまり、何ら身についていないのです。楽器を壊しているなら、不利になるばかりです。将来の不安も大きくなるでしょう。
ですから、喉をつぶそうとしたり、無理にからした声を出そうとしたりしないことです。充分に声を休めたあとに、ファルセット(裏声)や低い声、小さな声やハミングができるかどうかでチェックするとよいでしょう。
声は喉だけでコントロールできるものではありません。
私は、声がよくても悪くても「鍛えられていて再現性があればよい」と判断しています。しかし、一般的なヴォイストレーニングでは、調整中心ばかりで、そういう鍛え方をするのは稀です。
「声は声そのもので勝負するわけではない」のですが、「持って生まれたものを充分に活かすこと」です。「自分のやりたいこと、好きなことと、できることは(高いレベルでは)違う」ということを、知ってください。
声の使い方がよいとは、楽器(身体)の機能の活かし方から問われるべきでしょう。喉という楽器を、その原理にそって使わなくては、発声も本当にはよくなっていかないのです。
声量を増やすために、喉を無理に鳴らそうとしている人をよくみかけます。しかし、声量は共鳴のさせ方で変わってくるもので、喉をいかに強く鳴らすことができるかではないのです。
〇聞きやすい声、通る声
通る声とはいったいどのようなものでしょうか。まず、イメージが湧きやすいようにいくつか例を挙げてみましょう。
日本でいえば、たとえば戦国時代などの武将やお坊さんの声が挙げられるでしょう。もちろん、当時の声が録音されて残っているわけではないのですが、文献などから、彼らがいかに大勢の人を前に大きな声を使っていたかがわかります。
当時は、マイクや拡声器といった代物が存在しないので、より遠くへ、より多くの人に情報を伝えるために、通る声を会得していたと考えられます。そうでなければ、一人前にはなれなかったでしょう。
通る声は、人間の耳の感度のいちばんいいところにその周波数が集まっています。2500ヘルツ〜4000ヘルツのところです。
通る声には欠かせない要素があります。まず、腹式呼吸での発声ができていること、すると声の周波数は、2500〜3000ヘルツあたりに集まってきます。腹式呼吸での発声の場合、肺からの空気を一定にコントロールして声帯を振動させるので、スムーズに発声するため、周波数が安定してくるからです。
この周波数帯は人間の耳がもっとも感知しやすいところです。これを腹式呼吸ではなく発声した場合では、空気の流れが乱れ、声帯の振動が一定にならず、周波数も不規則に乱れるのです。
この聞きやすい周波数の声と50ヘルツくらいの声とを比べると、人間の耳の感度では聞こえ方が300倍くらい違ってくるのです。
つまり、ウグイスの鳴き声は300分の1のヴォリュームでも、50ヘルツの声と同じくらい聞きやすい音になります。聞きやすい声というのは、それだけで遠くまで響かせることができるのです。
〇小さくても通る声
小さい声なのでエネルギー量は小さくても、成分をはっきりとわかるようにします。「あ」を「あ」と聞かせる声の周波数成分(フォルマント)がきれいに出ていると、暗い声のときのように、わかりにくい感じにはなりません。レベルとしては同じくらいでも、よりはっきりと聞こえる。いわゆる通る声です。
重要なのは、声が高周波まで伸びていることです。高周波の成分を含んだ子音をきれいに発声しましょう。言葉の音節を発しているリズムで、音節のひとつひとつを一定のリズムに乗って発していけば、テンポよく聞こえます。
二つめは、周波数のリズムです。声の高低のリズムと言い換えることもできます。ビートという意味でのリズムに乗って言葉を発していたとしても、発せられた言葉の周波数に変化がなければリズミカルな話し方には聞こえません。基本周波数の上がり下がりにリズムが必要なのです。これによって、聞く側に適度な刺激を与えられるからです。
三つめは、音量、声のヴォリュームのリズムです。言葉を発するうえでの強弱です。強調するところでは音量を上げ、あまり強調する必要のないところでは少し小さな声で喋るという変化をつけることです。こうすると、聞き手に声や話し方が魅力的なものに感じられるようになります。
〇振り込め詐欺にだまされるのは、なぜ
通常、人が話すスピードは1分間に400語ですが、振り込め詐欺は1分間に530語と速いです。この早口に、被害者は、まずパニックに陥ってしまいます。
530語というのは、人間が緊張したときの心拍数と同じです。早口を耳にすると、心拍数もそれに同調して上昇しがちなので、交感神経が高まり、身体が興奮し、脳も混乱してしまうのです。
「事故」「100万円」など、キーワードとなる言葉で声が高くなります。同じ言葉を繰り返すのも、この手の犯罪の特徴です。
〇声で嘘を見抜く
嘘をついている場合、緊張したり、動揺すると、声帯から発する基本周波数に変化が表われます。言いにくいことをごまかそうとすると、基本周波数が乱れます。興奮してくるとさらに変化が表われ、基本周波数は倍くらいの数値で上下することもあります。
人間は、一精神状態が興奮していくと、身体の筋肉も緊張します。それに伴って、声帯の振動音も高くなっていくため、振動数の変化、つまり声帯の張り具合から、いつ緊張したのかもわかるのです。つまり、嘘の発見などにも使えます。
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