「よい声になれるヴォイストレーニング~声の科学」 Vol.12
〇息苦しい声をなめらかな声に
相撲を取り終えた力士のインタビューでは、「ハアッハアッ」と息の上がった状態の声です。息が安定しないと、とても聞き苦しくなります。急激な運動をしたあとに、体を曲げ、肩を上下し胸が動くのは、体が酸素を急に取り込もうとしているためです。こういうときに、間に合わないために胸式呼吸が行われるのです。しかし、これは吸気優先であり、吐気でコントロールするには不適切な状態といえます。
しかし、平常でも息苦しく話す人がいます。「息苦しいならもっと吸えばいい」と考えがちですが、そうではありません。この場合はうまく吐くことができていないのです。
息は吐いたら入ってくるのです。ですから、あなたの声が息苦しく聞こえるのならば、問題は呼吸と発声(声立て)です。息が無駄に抜けているときは、口や舌に気をつけることです。息のコントロールカをつけ、長い息を使えるようにしましょう。腹筋や集中力も問われます。
・息苦しい、息のつまる、低くこもる声
アタックの部分に異常な成分が出てきている。声道を力でしめているのが原因。力士がいつも息苦しく、しめつけた声を出しているのは、取り組みのとき、異常な力を入れながら掛け声を出すので、それが普通の声の出し方になってしまったという見方ができる。
〇日本人はかすれ声が好き
日本人は、森進一さんや八代亜紀さんのようなハスキーな声を好みます。
尺八の渋い音色は、竹林をわたる風の音を理想としているそうです。風の音や虫など、しぜんの音は、かすれています。日本人が四季激しく移ろう日本の風土で育んできた感性、木や紙で作った家に聞こえてくる、風や雨の音に敏感に暮らしていたからでしょう。
日本人の好む音色に、サワリといわれるものがあります。これは、琵琶などで、弦の下にある小さな柱(フレット)に弦がかすかにふれ、うなりが生じることです。逆に日本人の浅い声の歌がどうして一つの音色でそろっていないのに、日本人には通じてしまうのかという理由にもなりそうです。
肉食の欧米人は立体的な顔であごが発達し、厚みのある体をしているため、体全体に共鳴させて発声します。日本人は、薄い小さい体のため、喉で絞って出していったのかもしれません。日本人の声は、喉の奥から上の方へあがっていくようで、カン高いのです。
〇息のもれる声、かすれる声
典型的なのは、明石家さんまさんや久本雅美さんの声です。職業上、喉に炎症を起こし、それが慢性化しています。声がガサガサしているときは、大体、喉の粘膜も荒れている。ノイズが出ている。これは、喉に炎症を起こし摩擦音が発生している状態である。粘膜にも異常がある。カラオケポリープというのは、声帯が炎症し、そこが腫れてポリープができてしまうこと。無理に喉を使いすぎるために起こる。日頃から、声をあまり使っていないのに、カラオケなどでいきなり声を張り上げたり、大声を出したりすると、炎症を起こしやすい。一曲歌ったら、喉を休ませたり、喉飴などで喉の粘膜を保護することが大切です。
〇かすれない声にしよう
息が効率よく声になっていないと、無駄に息もれしてしまいます。早く息がなくなって声が続かないということになります。呼気消費量が多いのです。これは声立て(息から声へ変換する)の問題です。
まずは体から大きな流れをもって、息を出すイメージにし、すべて効率的に声にすることです。いくら大きな声でも、かすれたり喉に詰まったりしていては、声は伸びやかに聞こえません。そういうときは、小さな声でことばを言うところから始めてみてください。少しずつ、大きな声にしていきます。かすれたら、やめて戻してください。
〇年をとるとノイズが出る
声にノイズが出ると、実年齢より上に見られがちです。声道の中の凹凸によって気流が渦を巻き、顔のしわと同じで、あればあるほど、高齢の声になってしまいます。
声の年齢を計る場合は、同じ音を続けて長く出してもらいます。口の形を同じにして、声を一定に伸ばしたときに、同じような一つの波形が出てくると、声が若いということになります。
年をとると、神経の伝達系や筋肉が衰え、口の形が一定でなかったり、空気の流れが一定ではなくなってくるので、 一つの波長と次の波長のところで、全く波形が変わってきます。その差を見ていくのが、年齢を調べるときのポイントです。つまり、声のノイズ成分が多くなると、年寄りの声に近づくということです。
また、こういう声の波形から、どういう職業の人かということがわかってきます。いつも大きな声を出していたりすると、セリの仲買人や八百屋の人とか、喉の炎症があれば、煙草を吸う人とか、そういう予測がつけられます。
・ハスキーな声
喉をしめがちである。データからもノイズが出ている。若干、高い周波数が少ない傾向があるが、一般的にハスキーな声というと、日頃から喉でしめた声を出しているといえる。
〇声の老化を止める
自分の声の中には、年齢が若い成分が出ている部分が必ずあるので、その声を重点的に使うようにします。どういうしゃべり方であれば、若く聞こえるか。何をしゃべっているところが、一番若いのか、そして、なぜそこがよかったのか、ということを追求していって、そこを使うようにすることです。一人ひとりによって違ってくるのです。
明石家さんまさんの声は、60代半ばくらいの声です。ノイズ成分が多く、慢性的な炎症が起きています。さんまさんの場合、引き笑いのときが、一番ノイズ成分が少なくて若いのです。ですから、そこを使うようにと、おもしろおかしく言っていたわけですが、さんまさんは、いわゆる声の使いすぎなのです。一番よいことは休ませることです。
人間というのは、一度引っかいたところを、引っかき、また同じところを何度も何度も引っかくということをやります。するとそこが慢性化してしまうのです。いわゆる痔と同じです。また同じところが切れてしまう。結果的に切れている同じところを切って、また新しい組織を生み出さなくてはいけないのです。
声の場合も、声の炎症を抑えるしかありません。そのためには、漢方薬や花梨のエキス、のど飴などもよいでしょう。
〇細い声や弱々しい声も個性になる
声は個人差の大きいものです。使う声量や声域、声質もさまざまです。声が太いと力強く、声が細いとどうしても弱々しく聞こえるものです。しかし、声が細い人は、それが自分の声が本来もっている個性なのですから、そこに磨きをかけるつもりでトレーニングをしてみることです。
トレーニングでは、声が大きくなる人もあまり変わらない人もいます。もともと声の小さい人は、無理に大きくするよりも大切なことがあります。細くてもよく通り、張りのある声であれば、充分に通用します。
もちろん、あまり声を出してこなかった人は、目一杯チャレンジしてみてください。いくら太い声で声量があっても、無理して出しているうちはよくありません。大きな声の人は、大きさに頼って雑なままになりがちです。
「やってみて、大きく変わることも、あまり変わらないこともある」のです。やってから考えたらよいでしょう。それも自分の声の個性を知ることになります。
〇タカタのトークの秘密
TVを見ている人の購買欲を高め、思わず買わせてしまうという、ジャパネットたかたの高田明社長のトーク術には、どんな秘密が隠されているのでしょうか。
彼の声を分析してみると、低い声から高い声まで、周波数成分が幅広く出ていて、表現力が豊かといえます。しかも、人間の耳の感度のいい周波数が強く出ているのが特徴的です。主婦が掃除機をかけていても聞こえるくらいに、よく通る質のよい声なのです。
加えて、売り文句のキーワードをゆっくり印象づけて繰り返す方法は、振り込め詐欺の手法にも共通しています。
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