「ヴォーカルトレーニングの全て」 Vol.20
〇感じたままに声を出す
自分の心に感じる声や音を集めてみましょう。鳥や獣など、生き物の声、鐘や太鼓など、よくひびく音は、すべて私たちの心を動かします。心が動き、そこから、心が共鳴すると、自らもその音を奏でようとします。振動から、音を捉えましょう。自らの身体を動かし、ゆらし、そして、息が出て声帯を震わせ声となっていく、そういう気持ちになって、口から、しぜんと声が出ることを大切にしましょう。
なつかしい人と突然会ったときの「あー」、とてもうれしいことのあったときの「あっ」、かわいい動物をみたときの「あ~」、いろんな「あ」が心の動きからでてきます。機械的な発声練習はやめて、何かを心に感じながら、それを声に表しましょう。
〇イメージの焦点を合わす
これまで、音に耳を集中させ、それをまねることで、声の柔軟性とイメージしたものの再現能力を増すことをやってきました。
しかし、人の声のまねや、他のさまざまな音の模倣は、必ずしも、あなたにとってのベストの発声ではありません。
ただ、対象の声が、感情表現や聞きやすさにおいて、日常のあなたの声よりもすぐれている場合、そういう声を捉えて、出せるようにしていくことは、いろんな発見をもたらしてくれます。
ここでもう一歩、進めて、自分と似た条件をもつ人で、声においてすぐれている人にお手本をとってみましょう。
イメージした声がある程度うまく出せるようになれば、今度は自分にとってのベストの声を探究していくことになります。これには、今の自分にとってのベターの声と将来的に獲得できる本当の声であるベストの声があります。この違いを知ることが、次のレベルへの第一歩となるのです。そのために、まずは、自分のもっているベターの声を知りましょう。
そこから少しでも将来のベストの声が明確に思い描けるならば、あなたのトレーニングは理想的に進んでいくでしょう。
〇ベターの声の発見から、ベストの声をイメージしていく
誰にでも、これまでに自分が比較的うまく声の出た状態というのがあるでしょう。喉が疲れず、思う存分、出せたときの声、それがあなたにとってベターの声です。もし、その状態を24時間、保つことができれば、毎日、少しずつ確実にあなたの声はよくなっていきます。よくなっている時間が増えると、トレーニングの時間ではさらによくすることができるからです。次のようにして、自分の声がうまく出る状態を意識してください。
1)過去(今までの経験)から探す
1.いつ
2.どこで
3.どんなときに
4.どういうことば(音)で
2)力を抜いた声から探す
できるだけ、リラックスできるところに行き、そこで次のようにして声を出してみてください。
1.柔軟運動をして、身体を動きやすくする
2.深呼吸をする
3.楽に声を「アー」と出す
3)笑い声から探す
床に横になって、とにかく大声でお腹から笑い出してください。1分ほど笑って、疲れたら休み、これを繰り返します。そのなかで、最もベターの声を見つけてください。
ベストの声、これは将来的に獲得される声ですから、最初はイメージのなかで構築するしかありません。しかし、この声への探究と、その条件を整えていくことこそ、ヴォイストレーニングで最も大切なことといえるのです。本当に優秀なヴォイストレーナーは、あなたに、このベストの声を示してくれる人です。しかし、多くは、ベターの声を出すことしか考えていない人が多いのです)。
このときに、一流のヴォーカリストを聴き込むことや、これまでやってきた声を発見し発掘していく作業が大きなヒントになります。
・一流のヴォーカリストを聴き込む
・自分の声についてまとめてみる
・優れたヴォイストレーナーにつく
〇よい声の条件
それでは、ベストの声を見つけるための基準を示しておきましょう。
よい声の条件とは次のようなものです。
1.ことばがはっきりと聞こえる。
2.声がしぜんに流れ、無理がない。
3.声に潤いとつやがある。
4.若々しく魅力的な声である。
5.息苦しさが感じられず、堂々としている。
6.息のもれる音やかすれる音が入っていない。
7.声が前にひびいている。
8.音域にも音量にも余裕がある。
9.小さな声も大きな声もまんべんなくきちんと聞こえる。
10.身体から声が出ていて喉をしめつけない。
そして、何よりも、強くやわらかく、やさしく包み込むようにあたたかく気持ちよく、一声聴くだけで魅了されてしまう声です(まったくそんな声がでないヴォイストレーナーが少なくありませんが、人を教えるまえに、自分の声をよくすべきだと思います)。
〇イメージで声帯をコントロールする
出したい声のイメージが明確でなくては、なかなか求める声は出てきません。ヴォイストレーニングは、よりよい声を楽に出せるようにしていくわけです。その過程で声の判断基準をつけていくことに加え、スタイルや歌い方をもつくりあげていきます。ですから、求める声とそれをどう展開するかというパターンを何度も飽くことなく、思い浮かべなくてはなりません。ヴォーカリストのスタイル、歌い方を表面だけで捉えるのではなく、まず、声の表情、声のスタイルや声の使い方を聴き込んでください。好きなヴォーカリストを徹底的に分析した上で、一流とよばれるヴォーカリストの一流たるゆえんを理解してみてください。それがわからなくては、本当の声は、なかなか出せません。
〇フォームを身体で見抜く
一流のヴォーカリストが歌うときに、どのように身体や声の感覚、ひびきが伝わるのかが自分でも感じられるようになったら、しめたものです。一流のスポーツ選手なら、同じく一流の人のプレーを的確に瞬時に分析できます。それは、自分の身体感覚におきかえて捉えられるからです。すぐに同じことができなくとも、少しずつ、今の力で、どこまでは自分が同じことができるかがわかってくるようになっていくことが大切です。
差がわかればあとはそれ(技術)を時間をかけてつめていくだけです(その理解をまったく超えてしまう天才ヴォーカリストもなかには、いますが)。
ヴォーカリストの歌を聴いて、自分が歌わなくとも、自分の身体や息がその動きを感じられるようになって初めて、同じ次元にのったといえるのです。
素晴らしい声で表現しているヴォーカリストを、人種や育ちが違うといっていたのでは、永遠にそのレベルに近づけないでしょう。
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