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「ヴォーカルトレーニングの全て」 Vol.21

〇オリジナリティと共通ベース

 トレーニングを積みながら、自分の感覚というのを見つけ、鋭くしていくことを忘れないことです。声の判断基準をつけていくことがトレーニングの本質です。

いろいろなヴォーカリスト聞いて、その声を比べてみましょう。ある時期、一人のヴォーカリストにハマるのも悪くはありません。しかし、いつまでもそこから抜け出せなくては、よくありません。問われるのは、あなたのオリジナリティとしての表現だからです。

私は、課題曲を歌うときに、そのヴォーカリスト(創唱者)の感じが出たらよくないという基準で評価しています。

 オリジナリティとは、その人の心の奥、身体の底から出てくるものです。身体にしみつき、それが表現として出てくるには、それなりにたくさんのことを、ためこんでおかなくては、いけないはずです。

といって、奇をてらって、人の共感できぬものであってはよくありません。人の心を動かすのですから、人と違うなかでも必ず踏まえなくてはいけない共通のベースがあるのです。そこをなくしては、人は奇異に思うだけです。

 ヴォーカリストには、いろいろなタイプがあります。しかし、トレーニングのために聞くのなら、発声面から徹底的に分析してみるのもよいでしょう。

〇身体から声をだすために、ドラマチックな歌から入る

 同じ身体をもつヴォーカリストでも、歌のねらい、歌い方やスタイル、場によって全力で歌ったり、口先にひびかせたり、いろんな歌い方をしているものです。声の使い方は、ヴォーカリストによっても、曲によっても違います。ですから、それを決める上でも、自分にとっての最もよいヴォイストレーナーに自分がならなくてはいけないのです。 

この能力は、そのまま他のヴォーカリストの歌を聞いて、そこから地力(基本の力)を見抜く力にもなります。有能なスポーツトレーナーや一流の選手は、他の選手の調子やフォームの状態、そのときの身体の動き、長所や欠点を、自分の身体におきかえて捉えます。身体と耳ができるということは、そういうことです。

 最初は、一流のヴォーカリストが、できるだけ大きなフレーズで歌いあげているところを何度も聞いて、そのイメージを叩き込み、まねていくとよいでしょう。

 センスよく小ぎれいに歌うのも大切です。歌は一つの形にまとめていかなくてはなりません。人前で歌うためには、ある程度は見せることを意識して、そのようにしなくてはなりません。しかし、最初に小さく器をつくってしまっては、あとで大きくできません。

 ここのヴォイストレーニングでは、歌を小手先でうまく歌えるように急がせるよりも、できるだけ先に声そのものの器を大きくしようとします。最初からまとめようとすると、本当の声をうまく伸ばすことができないからです。ですから、あるレベルまでは歌うこととヴォイストレーニングとをわけて考えるとよいです。

声のことをある期間、徹底してやりましょう。そして、歌うときには、声のことを考えずに歌に専念することです。声はトレーニングを積むごとにうまく出せるようになります。耳では歌を学んでいきつつも、声をつくるためには、若いうちにできるだけ、大きな器をつくることを優先したいのです。

 身体が必要となるほどの歌い方を聞いているとしぜんと自分の身体も声もそうなってきます。これが喉をはずす、最もよい方法の一つです。

〇声の環境づくり、ヴォイスシャワーとヴォイスマラソン

 私は、「あなたの両親がオペラ歌手とゴスペル歌手だったら、あなたの声の問題の半分は解決している」といっています。幼いときから、そういう声や声の表現を耳や身体に入れておくと、音楽面での才能は伸びやすいです。逆に言うならば、日本人はそうでないから、それを補う勉強をたくさんしなくてはいけないのです。

 日本という風土そして、日本語のなかで声は出しにくく、出にくくなっています。それを何度もよい声を聞くことで、声のイメージそのものを変えていくのです。

 これを私は、ヴォイスシャワーといっています。口先で歌うよりもまず、浴びるほどよい声を聞くことで、自分の細胞から変えていこうというものです。毎日、最低60分以上、よい声と接する時間をとるのです。こうなると、外国に行ったり、洋画を見たりすることもトレーニングの一つになります。

 日本で声を変えていく確実な方法です。

 もちろん、聞いているだけでは変わりません。大切なことは、自分の声と身体を惜しまず使って、毎日トレーニングしていくことです。これをヴォイスマラソンといっています。

〇肉体的限界を破る

 発声とは最終的には、声を出すときに邪魔する要素を除いていくことです。そうはいでも、普通の人には、そんなことを意識的にはやれません。

 そこで、発声器官そのものをとりまいている条件の限界をはずしていくトレーニングが必要となります。

 いくら正確にボールを蹴れるサーカー選手でも、そのキック力が弱いなら、まったく無力でしょう。そのときは、そこの筋力から鍛えなくてはいけません。

 声帯は、筋肉のように、直接に働きかけるような強化トレーニングはできません。それを、最もうまく活かせるまわりの条件を整えていくことしかできないのです。しかし、空手などでもわかるとおり、人間の身体を最大限に活かすには筋力そのものより、タイミングや力のバランス、集中力がより重要です。それさえつかめば、子供でも瓦が割れるわけです。

 人間には、人間の身体が最もうまく働く条件があります。声もまた、そのコツを捉えることが大切です。数多くの長い時間のトレーニングは、コツに気づき、それを確実につかむためにあります。コツをつかむことが、トレーニングの秘訣なのです。

〇パワーとタイミング

 ホームランを打ちたいという初心者に対して、いくら、ホームランの打ち方を正しく教えても、ホームランは打てないでしょう。それと同様、声も、結局はかなりの量をこなしているなかで身につけていくしかないのです。量をこなし、パワーがついていく過程でのみ身についてきます。

飽きるほどの基本トレーニングのなかで身体の条件が整っていき、ある日、コツに気づき、それをものにしていくわけです。ホームランを打ちたい人は、まず、何百回と毎日、休みなく素振りをするところから始めるのです。

 

 声の扱い方ができるためには、声そのものが、深くなり、息でコントロールできるようになることが必要です。その方向に身体や息を近づけながら、パワーをつけ、そこで、タイミングをつかむのを待つのです。そのために、そこまでできるような条件、つまり息と身体の力がつくように整えていくことです。それによって、可能性が広がっていくようにトレーニングをしていきましょう。

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