閑話休題 Vol.96「花道」(1)
草月流創始者 勅使河原蒼風
〇父と育ち
勅使河原蒼風は、1900年、勅使河原和風の長男として生まれました。父はそばで遊んでいる蒼風に、ただ真似事としてではなく、そこから生け花を好きにさせる、あるいは上手にさせようとする工夫をして仕向けました。そのため蒼風は花を扱うことを徐々に面白く思うようになったのです。
父は、必ず来客に我が子の生けた花を自慢げに話しました。皆から褒められているうちに蒼風も張り合いが出てきたのでしょう。小学校に行くようになっても、自分で花をとってきて父に見せて喜ばせようと頑張っていました。この幼い日々が蒼風の生涯を貫く心のエネルギーとなりました。
15歳で父の代稽古を務め子先生と呼ばれた蒼風は、父から学ぶべきところを全て習得した後、生け花についての考え方を異にするようになったのです。
「生け花は定められた形にいけるのではなく、作者の個性や自由な精神を表現すべきだ」という蒼風は、26歳のとき、父に勘当され妻とともに家を出たのです。
蒼風の人気は教室でも定着しており、その日からでもやっていけましたが誰にも居所を教えなかったのです。
〇独立内職時代
蒼風は、青山高樹町に家を借り「投入花盛花教授草月流」と看板を掲げ、新しく草月流を興しましたが、約1年間、誰も訪れませんでした。
蒼風は、研究に専念しました。封筒に肉筆で蘭や梅一枝を描くといった内職を始めました。彫刻が好きで板に文字を彫ったりしているうち、表札や看板を彫る仕事が来るようになったのです。
〇度胸―いけ花屋開業
花は花屋の残り花を、器は我楽多屋の店頭の赤錆びた焼き物の窯と支那料理店の前に転がっていた老酒の瓶を手に入れました。昼は看板彫りのアルバイト、夜は明けるのも知らず、その器に名作、名案を創造しては興奮する毎日が続きました。
蒼風は、新鮮な花やいろいろな容器、場所を使って、実際に人に見せることを通しての研究をやる必要を感じていました。そこで、次に人の花で研究する方法を考えだしたのです。料理店に行って頼んでいけさせてもらうのです。花は買ってもらいましたが、いけ賃はもらいませんでした。
古くからの流儀がよいと誰もが思っているので、「自分が作った草月流です。家元です」とは言えません。いけた作品だけが勝負です。「なかなかいいから、また来てちょうだい」となるのです。そうやっているうちに、なんとか板前さんとかおかみさんなどを相手に、花屋業から先生の方へ向きがつき始めました。
〇風体―師匠らしく
「どうもお花の師匠らしくないわね。見た形のことなんでしょうね。柔道家と間違えられたわ」蒼風の妻が言いました。若いし二十貫目余りある蒼風は、どうにもならぬままにも、渋い袋を下げたり無地の羽織をまとったりして、お花の先生らしくしました。
そうしているうちに近くの良家のお嬢さんが入門し、本当のお弟子を得たのです。弟子が弟子を呼び、稽古日がそれらしくなっていきました。蒼風は、「弟子は月謝を払って自分に勉強させているのだ」と決して手を抜きませんでした。
場所も変え、看板に「瓶花研究所」と彫りました。誰も知らぬ草月流より、より近代的で効果があると思ったのです。
〇実力―チャンスを逃さず
創流の翌年、ショーウインドーを飾りに行っていた千疋屋の勧めで、銀座、千疋屋二階で第一回草月流花展を開催しました。現代人の感覚、生活感のある生け花に新しい入門者が集まりました。
以後の蒼風は、持ち前のアイディアと行動力、それに絶対の信念を持って、固定観念の強い華道界で既成概念をはるかに超えるスケールで活躍していきます。
1932年の神田の如水会館では、初めて“入場料”をとる生け花展を開催しました。立派な展覧会なら、音楽や絵と同様、入場料を取るべきだと思ったのです。さらに、花のための会場構成を試みたり、花のシンフォニーを表現したくて7つの大小作品を組み合わせた大作「総合華」を飾ったり、当時としては大胆にも、音楽、照明による演出を試みました。これは鑑賞者の気持ちを統一するのと雑音を消す工夫です。当日は自ら講演し、草月流の理解にひと役買いました。生け花の作品の背景に自分の描いた絵を使うなど、いくつもの画期的なアイディアを生かしていたのです。
家元からの奥義・秘伝として口伝されるものを図解までして一般公開していた蒼風への華道人からの非難は強いものでした。しかし、前売りの入場券は完売、大成功を収めました。蒼風は演出の才にも長けていたのです。
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