閑話休題 Vol.97「花道」(2)
〇才気―マスコミの活用
若い蒼風は、新しい生け花の発展すべき道をすでに鋭い直感力で見抜いていました。
「新しい」ということについて、蒼風はこう述べています。
「新しいという言い方は、本当はしたくないが、新しいと言わなければならないから言うので、本来、物事はいつも新しいはずだが、少しも新しくならないで、そのまま止まっているものがある。それに対して、止まらずに動き、変わりつつあるものを新しいと言うのは、当たり前である。新しいのが当たり前で、当たり前なら新しいと言わなくてもよいが、古いのが当たり前のように言うから、新しい方は新しいと断るようになるのだ」
千疋屋の生け花展をきっかけに、NHKの「家庭講座」の依頼で「生け花十講」を放送し始めます。また、草月流機関紙「瓶裏」を早くも創刊、生け花の社会性を求めました。主婦の友社から「新しい生け花の上達法」を出版します。
蒼風ほどマスコミを生け花のために活用し成功した人はいません。のちに日本内外に多くの支持者・門下生を持つまでに発展しえたのは、マスコミの時代の波に蒼風の偉業が乗り切ったことに他ならないのです。
〇運―海外進出へ
戦時中、「花をいけるよりも芋を作れ。花を習う人は非国民」と言われましたが、蒼風は、花をいける日は再び来るまいと思いつつ、疎開先で雑木を使って農家の娘に教えていました。終戦後は、進駐軍の夫人の希望で東京に呼ばれ、教え始めました。これが海外進出のきっかけとなったのです。
〇想像力―造形いけばなの誕生
東京に戻った蒼風は、焼けただれた鉄骨や枯れ木を使い、一途な造形精神を発揮して展覧会を開き、人々を驚嘆させました。絵画、彫刻、建築デザイン、写真など他のジャンルのアバンギャルディストと交遊し、ますます盛んな創造活動を続けました。生け花のみならず、モビールやレリーフなど新造形への道を開いたのです。やがて草月流は門下生百万という大流派になっていきました。
〇蒼風の才能とは
「臨機応変の瞬発力とバランスのよく取れた空間支配の能力とかあって、どんな花をいけても、必ず誰にもわかる明確な見せ場をつくることができ、しかもそれを決して平俗陳腐には陥らせずに新味を出す、本当の芸術家のみに与えられた才能があった」 (大岡信)
たとえば、当時の生け花は、ピラミッド式三角形がほとんどで、花をいけるのに形の創作を楽しみにする心配りには限りがありました。蒼風は、逆ピラミッドなど自由自在な形を取り入れ、新鮮な美を生み出しました。草月流の花器が無地なものばかりなのは、本当に花の美しさを知っているからです。
〇蒼風語録
“テーマ”「テーマをもっていけることは、1つの勉強法である。出来上がった生け花に対して、何を感ずるか、どう見るか、何がそこにあるか、いけた自分はもちろんのこと、それを前にした他人がどう受け取るか―そこに感じられたもの、そう思えるものをテーマだといえば、全ての生け花にテーマはある。しかし、テーマ=題を決めて、いける。題を出しておいて、それに向かっていける。そしてその題のために考える。工夫する。つくる。一般的にはこのように題に対して積極的なときだけを、テーマのある生け花という。
テーマでいけるのが勉強になるのは、一方に内面的な追求があるということで、同じ題でも、梅や椿ではなく、愛、夢、平和などという題になると、内面的なものを追求せざるをえなくなるからである」
“野にあるように”「利休の言葉に<花を生けるならば“野にあるように”いける>というのがある。これは一旦切り取られた花が、どんなに自然さを失い、調和を破壊しているかを知った上で、ハサミを入れ、枝ぶりを曲げ、葉数を減らして“野にあるように”美しくつくるということである。
“信念”「人が何を言おうと正しいと信じてどんどん仕事をしていけば、やがては皆がわかる」
勅使河原蒼風「草月五十則」部分
第1則 花が美しいからといって、いけばなのどれもが美しいとは限らない
第2則 正しいいけばなは、時代や生活と遊離していない
第3則 精神に古今なく、作品は変転自在
第4則 一輪、一と枝、の強調。大自然を圧縮したような一瓶
第5則 花と、語りつついける
第22則 上手な人ほど、器前、器後の仕事が入念
第23則 花は大切にすること、花は惜しまぬこと
第31則 いけばなは絵だという、音楽でも、彫刻でもある
第35則 家庭だけが場ではない。個人的な場、公共的な場
第36則 花の色だけでなく、器も、台も、壁も、光線も
第39則 環境から生まれたように
第44則 重複がないかを見る、強調があるかを見る
第47則 花を、器を、場所を、探す努力
第48則 意外ないけ方がある。意外な題材を忘れている
第49則 新、動、均、和、の四原則。線、色、魂、の三拍子
第50則 見る目と、造る手と、片寄らぬ精進
参考資料:「花ぐらし」勅使河原蒼風(主婦の友社)/「草月流」いけばな全書(小学館 )/「勅使河原蒼風展」(西武美術館)/「勅使河原蒼風の眼」(朝日新聞社)/Wikipedia