〇自分の声はオリジナルであるべき
声は一人ひとり違うし、表現したい世界も違うはずです。それをとことん、つきつめていくのが、ブレスヴォイストレーニングです。次のことを確認しておきましょう。
1.声量・声域が拡がることは結果であり、目的ではない
2.他人の声の音色や歌い方は、最終的にはまねるべきではない
3.一声で、誰の声かわかるのが、本物のヴォーカリストである
普段の声でも誰の声かわかります。それが歌うなり、皆、同じような声になってしまうのは、おかしなことなのです(あるスクールの発表会では、皆、教えた先生と同じ声質、歌い方でゾッとしました)。プロの人のもつ、よい声というのは共通した要素はありますが、それは確かな技術の上にとても個性的なのです。
次の文章を読んでみて、プロのように技術の上で個性的に声が使えているかをチェックしましょう。あるいは、適当にメロディをつけて歌ってもよいでしょう。
1.どうして消えたの
2.ひたすらあるいた
3.やがて、別れる日があるとしても
〇自分でプログラミングしていく
私は最終的には、歌う声が本人によければ、発声は二の次と思っています。結局、自分が決めていくことです。発声からみると絶対によくない声であっても、本人がそういう声とその使い方をのぞむなら、正しい発声を理解してもらった上で、知っていて、使うのはよいと思っています。そういう点からも、トレーナーは最初に大まかに正しい声を知ることとともに、細かすぎる指導(あれはだめ、これはだめというようなこと)はしないことです。オペラの歌い手でもヴォーカリストでも、自分の歌をリリースするときに、発声のよいものとして選ばないはずです。たとえ、喉声でも、伝わるものの大きい表現を選ぶはずです。指導には、未知のものを発見したり、それが現われ出ることを待つ柔軟性も必要です。
ヴォイストレーニングを受けて、歌い手も成長するのです。本物の指導は、その人の才能を引き出すのですから。ヴォイストレーナーの指示に従って盲目的にトレーニングするよりも、従うことのできる指示を見極められるまでになることを忘れないでください。
自分の発声時の声と歌での声の使い方の関係をいくつかのパターンで捉えておくとよいでしょう。ブレスヴォイストレーニングは、声域、声量でも最大の器をつくろうとしますが、歌はそれをすべて使うものではないからです。人によって、何パターンかの声の使い方があるのです。それは声域でなく、曲(表わしたい感情表現)によって変わってきます。
ついでにヴォイストレーナーについての条件を掲げておきましょう。
ヴォーカリストは、同時に自分にとっての最もよきヴォイストレーナーであるべきだというのが、私の持論です。ですから、トレーナーは、ヴォーカリストが自分のトレーナーになれるだけの判断力をつけるためにいると思っています。頼るべきトレーナーの条件は、聴覚の鋭さ(耳のよいこと)、相手の発声をまねられること、さらに心理的洞察力があり、ことばを使い、相手の状態を的確な比喩でさとす力が必要です。
レッスンを受けるまえに
1.トレーナーに望むこと
2.トレーナーから得られること
3.トレーニングの目的
を、はっきりとさせましょう。
〇音楽的ことば(日本語)のつくり方
次の3つを参考にしながら、話しことばがそのまま、歌のように聞こえるような日本語にしていきましょう。これを私は、“音楽的日本語”といっています。日本語をそのままでは歌にならない(特に「い」「う」)ので、それを深い声での日本語にしていくのです。強弱のリズムをつけ、高低を感じさせないようにすることと、発音よりもプロソディ(ノンバーバル=非言語的要素)を大切にすることがポイントです(詳しくは祥伝社NON BOOKの拙書「ヴォイスパワー」を参考)。
1.ピアニストの伴奏などで、メロディが語るのを聞き、感じましょう(弦楽器でもよい)
2.外人の話す(特に日本語)のを聞いて、まねてみましょう
3.他の外国語(特にイタリア語がよい)に学びましょう
例 「あい」「あう」「こい」「しっている」
〇声楽とポップスのヴォイストレーニングとの違い
声楽の場合、声を使うのに次のような条件が最初にあります。
1.役割にあった声がある
2.役割を演じる声の技術がある
3.役割を演じる表現の技術がある
4.大きく、4つのパート(ソプラノ、アルト、テノール、バス)にわかれている
それがさらに、細かく音色、音量でわかれます(ソプラノなら、コロラトゥーラ、リリック、ドラマティックなど)。(その他、ブレスヴォイストレーニングとの違いは、「ヴォイストレーニング」に詳しい。)
それに対し、ポピュラーは、声も含めて、自らが創始する自分という役割を演じるのですから、あらゆる制限から自由です。ただ、その役割自体をつくらなくてはいけないから、自分自身の魅力をどうつくっていくかということが、より大切といえます。声の音色も使い方も自由な分、自分でつくり、定めていかなくてはいけないのです。
〇歌の解釈と創造
自分の感じたことを、聞いている人になるべく素直に伝え、聞いている人の自由な解釈に任せられるようにするのが、ポップスの特徴のように思います。
つまり、聞いている人を飽きさせなければよいのです。飽きさせないということは、魅了しつづけるということです。ですから、正確に歌えた上で、人に感動を与えられるのが最良なのです。しかし、そのためのトレーニングには、さまざまなアプローチの方法があってもよいでしょう。
まずは楽譜の解釈です。おたまじゃくしや記号が、動き出して、曲を奏で、自分の心にひびいてくるように、それを読んで感じとることです。
そのためには、自分が好きな曲、感動した曲、強く歌ってみたいと思う曲から入るのがよいでしょう。
しかし、いずれ、どんな曲を与えられても、そこに何か心を動かすものを生じさせる力を出していけるようにするのが、ヴォーカリストをめざす人の役割です。
そこにボールがくれば必ず、スタンドに放り込むという強打者のように、絶対的な強みが欲しいものです。強みは曲(レパートリー)でなく、スタイルとしてもつことです。
これから学ぼうとする人は、よいお手本から基本的なことを学ぶことに全力を尽くしましょう。最初はくせや個性(つまり、しぐさ、ファッション、身ぶり、表情のようなもの)にとらわれない方がよいでしょう。そういうものをはぎとった共通の要素を学ぶことです。最初は、好き嫌いや、時代、国に関係なく、声一本で勝負できるヴォーカリストに学ぶのがよいでしょう。
〇オリジナリティを発揮するためのトレーニング
次の組み合わせで、自分の好きな歌(詞)を使って、表現してみましょう。
1.ことば+感情
2.フレーズ+身体
3.メロディ+音感、ニュアンス
4.トータルでの表現
感じられないものを、いくら感じていると思い込んで表現しようとしてもだめです。感じること、ただ感じること、そしてそれを伝えたくなること、伝えたくなったら、ただ伝えること、それでよいのです。