閑話休題 Vol.102「書道」(1)
今回は、成田の書道美術館、鶯谷の(台東区立)書道博物館を見学、上野の東京国立博物館「国宝東寺ー空海と仏像曼荼羅」で風信帖を学びました。空海、そして日本の文字を掘り下げてみます。
〇空海(弘法大師)と書「風信帖」
空海の篆書、隷書、楷書、行書、草書、飛白のすべての体、入木道(じゅぼくどう:書道)の祖 書流は大師流、五筆和尚。後七日御修法を行います。
真跡としては、「風信帖(ふうしんじょう)」(1通目の書き出しの句に因んで『風信帖』と呼ぶ。国宝指定名称は『弘法大師筆尺牘(せきとく))。聾瞽指帰(ろうこしいき)、灌頂歴名(かんじょうれきめい)、崔子玉座右銘(さいしぎょく ざゆうのめい)。
空海の著書、聾瞽指帰(ろうこしいき)には、雑体書法(飛白書含む)が見られます。特殊な雑体書や飛白書に魅了され、密教の思想を書で表現しようとしたのでしょう。
性霊集(巻四)には、「飛白の書一巻、亦是れ在唐の日、一(ひと)たび此の体をみて試みに之を書す」。嵯峨天皇に鳥獣の飛白一巻を献納。
五筆(ごひつ)とは、両手、両足及び口に筆をくわえて文字を書くことで、空海は五筆和尚(おしょう)ともいわれます。「梵書(ぼんしょ)を能くし八体に工(たく)み」と賞賛されました。
空海が学んだ長安の青龍寺東塔の義真阿闍梨(ぎしんあじゃり)が「恒に故空海大法師の聡明にして五筆を兼ねるを讃ず」と言ったと、円珍が書き残しています。
「空海久しく翰(かん)墨(ぼく)を閲し、志画一(かくいつ)に深し。安禅(あんぜん)の余(よ)隙(げき)、時に六書の秘奥を探り、持(じ)観(かん)の暇(いとま)、数(しば)しば古人の至(し)意(い)を検(けん)す」[「李邕(りよう)が真跡の屏風を進むる表」(『性霊集』第四)意味は、わたくし空海は久しい以前より書に関心を持ち、書の道を深めたいと願っておりましたが、禅定(ぜんじょう)の合間に、時には漢字の字形の意味を探り、瞑想の間に暇を作っては、古人の名筆の真意を見極めようとしております。
王義之(おうぎし)、(307?~365? 東晋時代の官人、能筆家 行書、草書に特に優れ、書聖)、顔真卿(がんしんけい)、(709~785? 唐の官人、能筆家、隷書を楷書に取り入れた筆法)の2人に影響されます。この2人を選んだ眼力に感服です。六朝時代(222年~589年)は、詩文と書が芸術を二分していたのです。つまり、中国の書が最高レベルでした。
〇空海と50音字
「いろは歌」(47音)は、十世紀後半に作られたもので、その前の空海の時代には、日本の音は四十八音 ア行の「エ」とヤ行の「エ」の区別がありました。
空海は、自著の『篆隷万象名義(てんれいばんしょうめいぎ)において、すべての漢字に反切(はんせつ)を施しています。すると、すべての漢字が子音と母音(または複合母音)に分けて書かれます。サンスクリットの音韻学の、母音が(日本風に読むと)アイウエオとなり、子音はカサタナハマヤラワに相当するのを組み合わせ、「五十音図」ができるのです。空海は、反切と悉(しっ)曇学(たんがく)の両方を、日本人として最初に理解したといえるわけです。
空海が『聾瞽指帰(ろうこしいき)』を書いた料紙は竪(じゅ)簾目(れんめ)(縦にすだれ模様の入った)の白(はく)麻紙(まし)。中国からの輸入品。空海は、長安で筆作りを学んできて、その製法を日本の職人に伝えました。
特に、文房具にはこだわりました。そのなかでも「文房四宝」とは、筆、墨、紙、硯のことです。
琴、古楽器、古硯、名石、古銅器、帯飾り、古鏡、盆栽、古墨跡、筆架、筆先、水滴、古今石刻、墓誌拓本、法帖、古画、古画幅、山水盆、香木、名筆、古印などを棚に飾り、鑑賞する文化になりました。
〇空海とことわざ
「能書は必ず好筆を用う」「臨地(りんち)は字を逐(お)いて変ず」[「東宮に筆を進むる啓(けい)」(『性霊集』第四)]
「弘法も筆の誤り」嵯峨天皇からの勅命を得、大内裏應天門の額を書くが、「應」の一番上の点を書き忘れ、まだれをがんだれにした。「誰にでも間違いはあるもの」から「書き直し方さえも常人とは違う」というほめ言葉まで。
「弘法筆を選ばず」性霊集には、よい筆を使うことができなかったので、うまく書けなかったとある。「弘法筆を選ぶ」逆に転じた言い回し。
「護摩の灰」弘法大師が焚いた護摩の灰と称して灰を売りつける、旅の詐欺師。旅人の懐を狙う盗人全般を指す。
〇文字と文化
中国も日本も漢字は、およそ5万字です。「中華学海」は8万5千字超。
日本では、常用漢字2136字(2352音と2036訓の4388音訓)と人名漢字861字です。
文字は、新たな語彙を生み出すものとなります。語彙の数は、まさに文化なのです。
中国では、BC1400年の甲骨文字で3千、漢で9千、六朝で1万8千、唐2万6千、明で3万3千、清で4万2千と増えました。
これが、5万字ともなると、二字熟語だけで25億もの組み合わせの可能性が出てくるわけです。






