閑話休題 Vol.103「書道」(2)
〇日本の文字と日本語
日本人は、会話のなかで「それはどう書くのか」と聞くことは珍しくありません。首長(くびちょう)、監事(さらか んじ)、幹事(みきかんじ)などと読むときに説明を入れた りします。
こういうことは、アルファベットではありえません。欧米 語なら、意味は、発音されたところで、ほぼわかるからです。どう綴るのかわからないのは、文字としての表記であって、どの意味かわからないのではありません。
つまり、日本語には、正書法(orthography)がないのです。 欧米語では、これは正しいスペリングとなりますから、ス ペルチェッカーで修正は簡単です。
日本人は、ことばを聞きつつ文字で確認するといえます。 しかし、いちいち文字にして聞いているわけではないので、 けっこうあいまいなわけです。真剣に聞くとなると、先の ように、どう書くかでチェックすることが必要になること もあるのです。
欧米語は、話をリライトしたら論文のようになりますが、 日本語では、かなりの修正、構成が必要になるのも、そういうことです。日本語では、未だに言文は一致しないので す。
文を読んでも読み方が適当で、あいまいです。地名や名字 でさえ、けっこう適当に読んでいます。
絵でさえ、富士山に「不二、不死」を重ねています。どのように描いたのかが問われます。
〇日本語は音数が少ない
日本語の特徴は、漢字仮名交じり文で、漢字と女手(平仮名) とカタカナの 3 つが一字体としてあることです。さらに、 日本語は、多音節で表音文字としても用いられ、音読み、 訓読みでいくつもの読みが出たのです。当用漢字「送り仮 名のつけ方」「現代かなづかい」での混乱は、収まりそうにはありません。そして、擬音語、擬態語が多いことです。同音異義語が多くなるのは、日本語が音数が少なく、単純なためです。
日本人は、かつては中国の漢字を入れ、近代には欧米から の新しいことばには、(漢字の)翻訳語をつくって対応していったのです。
語彙が枝分かれして増えていかなかったのは、漢字で区別 できるからです。川を「サンボンガワのカワ」のように文字を説明することも多いです。
他の言語のように、音で区分けして細分化されなかったの です。母音の前後に多くの子音がついて増えることがなか ったのです。その結果、読み方は、書き方に比べて日本人には重要なことではなくなってしまうのです。
〇文字の種類
表意文字[→表語文字(漢字)]
表音文字―音節文字(子音+母音)ひらがな、カタカナ、音素文字 アルファベット(単音、子音、母音) 話(言)はなす―声を放す。書(文)かく―欠く、掻く、 画く
空海の「風信帖」は、漢文です。カタカナの書としては、「方 丈記」と「雨ニモ負ケズ」があり、ともに宗教的なものです。
〇音と字
ことばは、音韻律と字韻律のどちらかで分けられます。西 洋の音楽と東アジアの書の難しさに対し、西洋のカリグラ フィと日本の音楽となりましょう。日本では、音楽も歌も 歌詞、ことば重視です。
履歴書は、かつては毛筆で書いていました。それが、筆ペン、万年筆、ペンと変わっていきました。板書で黒板とチョークからホワイトボードとマジック、そしてパワーポイ ントとタイピングで、失われていくものは何なのでしょう か。
日本語は、俳句、短歌、連歌、そして掛詞や縁語など、少ないことば、音数で、深く察してくみとるハイコンテキス ト文化なのです。
そのため、音読みの漢字を組み合わせた「字音語」の氾濫で、同音異義のことばが多数できて、耳で聞いただけでは 意味のわからない語彙が多数あるのです。
「すべての言葉が沈黙や吃音、諧調や逆説を孕んでいる」 と、書家の石川力楊は言いました。
文字の「肉筆」と「活字」は、音声でいうと「肉声」と「合 成音」にあたります。
漢字は、映像、視界的に、文字が事物化します。ことば一つで宇宙となります。
筆触、筆記具の先端の圧力に思考が文字に出ます。日本語 は、縦書きなので、ペンの持ち方も、それに合わせていました。ひらがなは、2 つ以上で一語つながります。末尾が右回転で「の」のようになるから、縦につながります。カタカナは、漢字に挟み込む「ノ」で、返り点に使いやすく、 縦にはつながりません。それに対し、中国語は、縦から横へ 1 字ずつ独立しています。中国語は、字音節に漢字一字 が対応しています。
日本語人名での仮名(けみょう)は「字」あざな。偉くなると、音読みになることが多いようです。文字は言霊をとど めるためにありましたから、実名は、読まれない名前となり、書くときだけに使われたのです。
「本や文字を書いた紙をまたいではいけない」という信心 がありました。
「日本人は身近に豊かな自然があって、四季の移り変わり がありますから、いろんな形で調和を取ってる世界見てま すから、かなを散らすときもそういう感覚が働いて、何も ない平面を、庭を造るように作ったんじゃないかとそうい う感じがするんですよね。やっぱりね、日本人オリジナル の生活、習慣、風土、いろんなものがかな文字に反映していると思うんですね。日本人らしさというのが、かな文字 というのを通して一番表わされているんじゃないかな」(名 児耶明)






