〇構想(イメージ)をもって話すこと
たとえば、テニスのプレーヤーは、相手の打つ前の動きからみて先に落下点を予測し、そこに先まわりして自分のフォームをくずさず打ち返します。話も、自分のフォームが充分に生かせるように予め、どのようなフレーズにまとまるかをしっかりとイメージしましょう。
行きあたりばったりでは、1つひとつのことばや音も途絶えがちになります。次のフレージングへの入り方のタイミングや声量、リズムののり、ことば、発声(響き)などが、ベストのタイミングでまとまりません。
「木を見て森をみず」ということにならないように、全体を見通した上で、声や息を配分しましょう。
〇フレージングを保つトレーニング
「すべての案件が昨日の会議で可決されました」
これを一つのフレージングの流れのなかでいいきってみましょう。
このとき、1つひとつのことばを身体でしっかりと押え、すべてのフレーズをそのことばの流れの上で1本化してとらえます。バラバラに口先からどこへ飛んでいくかわからないようにガナリたててはいけません。方向はひとつ、その声で一つひとつのことばをたたみかけるようにしっかりとつないでいくのです。
フレーズをこま切れ、ブツ切れにすると、フレージングと、ことばの命脈を奪います。このとき、息をしっかりと流さないと、その脈や流れも出てこないのです。
もうひとつ気をつけたいのは、ことば、あるいはフレーズの最初と最後(発生と終止)のところでは、必ず同じポジションで声をとるということです。とくに、喉で息を切って終わると、次のフレーズで声が出にくくなり、裏返ったり、フレージングがうまくいかない原因になります。これはリピート、つまり部分的な疲労防止策です。
〇フレージングを正しくいうトレーニング
ことばのメリハリから、フレージングを考えてみましょう。
「いつもの会場で開催いたします。」
1.「いつものか、いじょうで」
2.「いつもの、かいじょうで」
3.「いつも、のかいじょうで」
これも、「いつものか、いじょうで」と聞こえないように、「いつも の 会場 で」としっかりと伝えましょう。
どうですか?大分感じが違ってくるでしょう。
これも、フレージングの使い方による差です。日本人は細かくとらえ、全体的につかんで大きく表現することが苦手です。小さな単位ごとにいってしまうのです。
それに対し、大きな感情のうねりのなかに、細やかな繊細な感情も入っているようにするのです。フレーズのとり方が大きいと、声が楽に出ます。気持ちよく聞こえるのです。声の動きを、波やうねり、ボールのバウンドのようなものとイメージしてください。
(つまり、最初にひとつ大きなフレーズをつくると、あとは、その勢いでいくつかの小さなフレーズが、動きのなかに出てくるということです。小刻みにブレスすると、この大きなうねりがなかなか出てこなくて、のりにくくなりがちです。)
日本語は、抑揚なく間伸びして、ことばのなかにリズムが出にくいことばです。これをメリハリの効くことばに変えていくのです。べらんめえ調のマネから練習するのもよいでしょう。
〇口上を聞いてみよう
相手を退屈させないように、日本語をうまく立ち上げている例としては、落語の語り口や、漫談、大道芸人、たたき売りの口上、もの売り(金魚や、トウフや、青竹や、石焼芋)、舞台役者のせりふなどがあります。
このあたりに、日本語をことばとして生き生きとさせる大きなヒントがあります。
子供が、おもちゃを買って欲しくて、「おかあ!さん!」といういい方は、生きていることばだから、人に働きかけるのです。
〇大きく踏み込んで流れをつくる
フレージングの話に戻ると、最初に大きなバウンドをするほど、はねて進める力が長く残っているということです。早めに大きく踏み込み、あとで自由度を長くとるのがフレージングの基本です。この自然な力を充分に生かしてもっていくと楽に心地よく聞こえます。
小さな波ばかりでは全体的に動きも出にくいし、毎回そういう波をつくらなくてはいけないので、大変な上に単調な一本調子になります。外国人があんなに楽しく速く話せるのは、このフレーズでの力の生かし方といえるのです。
〇声は身体という楽器から出る
“お腹から声を出せ”とは、よくいわれますね。ところが、それがどういうことなのかは、よくわからないのではないでしょうか。まずは、声を出すための楽器としての自分の身体のしくみを理解し、発声のためのフォームをつくっていきましょう。
〇身体が声を出す楽器ということは
私たちの声は、喉にある声帯から生じ、身体に共鳴させて出てくるものです。つまり、身体が声を出す楽器ともいえるのです。
となると、身体そのものが成長する、あるいは鍛えられるにつれ、楽器も変わっていくわけです。つまり、他の楽器のように、完成されたものとして扱えないのです。声については、生まれ授かった自分自身の身体という楽器をよく知り、どううまく使いこなすかを学んでいく必要があるのです。
〇姿勢-身体と呼吸と声を一つにするために
畳文化で猫背の姿勢で生活していた日本人は、喉を圧迫し、こもった喉声やしゃがれ声にしてきました。そういう声を小さいときから、たくさん聞いているために、私たちの声もそういう声になりやすいのです。
しかし、本当に声の機能を充分に発揮しやすくしたところの身体の理に従った声が求められます。まず、本当に自然な声にするために必要な姿勢を習得していきましょう。
何事においても、その人の姿勢を見ただけで、おおよそのキャリアがわかるといわれます。何をするにも、姿勢というのは基本です。
ヴォイストレーニングの基本姿勢に関しては、声のために最も習得しやすい形を優先します。その形ができて自由に変化することを目指します。
自然で無理がなく、楽であることがよい姿勢の条件です。しかし、最初はどうしてもどこかに力が入りがちになります。姿勢は、練習の始めと途中と終わりと3回チェックしてください。
〇姿勢を正しくする
次の順に整えてみてください。
1.胸の位置をややあげて、背筋をピンと伸ばす(やや鳩胸のように)
2.首をまっすぐしたまま、あごをひく(頭のてっぺんからコインを落とすとまっすぐ身体のなかを通るように)
3.重心は低めに(やや足を開くとよい)
4.顔はまっすぐに前を向く
〇4つの姿勢
1.基本姿勢(立っている)
壁に、かかと・お尻・背中・後頭部をくっつけてください。そのときに、両足のかかとを、左右にこぶし二握りほど開きます。そこから、このこぶしを、背中と壁の間に入れてみてください。少し胸が上がると思います。その状態であごをひき、肩があがってないのを確認してください。
<チェック>
・ひざを軽く曲げて、かかとを床から離すと、つま先で立つことになります。
・ひざの屈伸を数回くり返し、身体の重心が下の方にきていることを確認しましょう。
・息を吐いて、胸や肩が動くようでしたら、胸の位置をハト胸のように少し高く持ち上げてみましょう。
・どうしても、練習中に肩や胸が動くときは、重いものを両手にぶら下げたり、寝転んで、身体を固定してみるとよいでしょう。
2.基本姿勢(腰かける)
イス(硬いもの)に腰かけ、背骨をまっすぐに伸ばしましょう。両手は軽くひざがしらのやや上にそえます。前かがみにならないようにしましょう。両足の幅は基本姿勢1と同じくらいに開きます。この形のまま立つと、基本姿勢1になります。
3.基本姿勢(前屈する)
腹式呼吸のわかりにくい人は、最初の姿勢を前屈にするとよいでしょう。腹式呼吸で声を出すとき、立ち姿勢でやると、胸の上だけに息を入れてしまう人が多く、また、前方のお腹ばかりが動いて、うまくいかないことが多いからです。
腰かけたり、前屈してやった方が始めは、声がつかみやすいでしょう。身体と息、息と声を結びつけるトレーニングとしては、身体全体をリラックスさせるためにも、この基本姿勢3を用います。
このときは、背中の線と頭の後ろの線が一直線になるように注意してください。
4.基本姿勢(寝ころぶ)
仰向けに寝ころがると、身体の下半分を固定できるので、呼吸を自覚しやすいです。
どんな姿勢でも、背中と後頭部の線は一直線になるように気をつけましょう。
〇姿勢のチェックリスト
□自然でゆったりした楽な姿勢
□顔はいく分、上向き
□目はしっかり見開く
□視線はまっすぐより少し上に
□下あごは少しひく(うなじを伸ばす)
□肩、首に力を入れない
□首は少し後方にひき、まっすぐおとす、立てる
□胸をはり、広げたまま、やや高く保つ
□腕はだらっと下げる
□お腹は引っ込める
〇発声のしくみを知る
まずは楽器としての、私たちの身体の構造を、発声、呼吸のメカニズムを中心に、四つに分けて大まかに捉えてみましょう。
1.呼吸(呼気)がエネルギー源
人間の身体という楽器をオーボエにたとえてみると、声帯は、そのリードにあたり、声の元を生じさせています。リードを振るわせ音を生じさせるのが、肺から出る息(呼気)です。
声帯そのものは動かせないので、呼気をコントロールすることによって、周辺の筋肉も含めた声のコントロールを習得していくわけです。そこで、確実に声をコントロールするのに、腹式呼吸のトレーニングが必要となります。息は肺を取り囲む筋肉の働きによって横隔膜を経てコントロールされています。
2.声帯で息を声にする
肺から吐き出された空気は、直径2cmぐらいの気管を通って上昇してきます。咽頭は、食道、気道を分けるところにあります。気道の調節は、唾を飲むと上下に動く喉頭でやります。この喉頭に、V字の尖った方を前にする象牙色の唇のようなものがあります。これが声帯です。
声帯は、気管の中央まで張り出し、左右のがくっつき、呼気がせき止められます。一秒に何百回~何千回もの開閉で、声を生じます。その響きのない鈍い音を、喉頭原音といいます。
3.声の元の音を響かせる
声は、声帯の振動から空気のうねりで生じます。これは口笛のように、口唇そのものの音でなく、空気音なのです。いわば声帯という、二枚の扉の狭い隙間で生じる音のことです。
その声を大きくしたり、音色をつくりだすのは、楽器の管(空洞)にあたります。(声は喉を中心に口や鼻までの声道で、共鳴します。身体の共鳴腔は、口腔、咽頭、鼻腔などです。口内の響きを舌で変えて母音をつくります。)
4.唇・舌・歯などで、声をことばにする
響いている声を、舌、歯、唇、歯茎などで、妨げて音をつくります。それが子音です。(これを構音・調音ともいいます。)