「ヴォーカルトレーニングの全て」 Vol.33
〇ア・カペラで歌い、声と歌をチェックする
ヴォイス検定(V検)とは、課題曲と自由曲をアカペラで歌い、表現力を試すとともに、仲間と競い、私がその後、評します。それをもとに、VTRで自分のをみて、反省します。課題曲の題材は、いろいろと変えています。
声だけのチェックをすることもあります。最初の1カ月は、せりふだけでチェックしています。
これでは、他の人の歌や私のコメントを聞いて、自分の基準や耳を作るのに大きな役割を果たしています。日本で数少ない、世界のヴォーカリスト・レベルで、厳しく歌を評価する場だと思っています。つまり、ここで皆に認められたら、世界に出ていける力があるということです。そういう基準を知ることが大切なのです。
実際のコメントを例として掲げておきますので、こういう観点でチェックをするという参考にしてください。
<課題曲1>「赤とんぼ」
この歌は、同じペースで4番まで続いていますから、それをどのように構成するかが難しいのです。ぴったりと言葉をはめていかないといけません。決まった型をくずすときには、余程気をつけないと逆効果です。いろんな試みをしてみましょう。原曲を越えることができないのなら、最終的に原曲に戻さざるを得ないでしょう。さまざまな試みから得られたニュアンスを何とか歌に還元できるのであれば、表現されるものがかなり違ってくると思います。楽譜は同じでも感じ方が違ってくると、表現の中で変化が表われてきます。きちんと言葉や音をはめた上で、どこまで展開できるかということです。
音階は、四七抜き(ファとシがない)音階という日本の旋律に日本語がついています。朗々とした発声で歌うのは無理があるでしょう。童謡や唱歌の歌いかたで、普通の人が歌ったら退屈してしまうでしょう。そこで、どういう表現をすればよいのかということが問われます。
これは、言葉がきまらないと、ダメになる歌です。特に語尾の、とんぼの「ぼ」、「いつのひか」の「か」などは、特に大切です。メロディの美しい歌ですから、構成がきちんと出たかどうかの勝負と思います。表面をなでるように歌うのは、小学生の合唱団でもできます。それとの違いをどう出すかというのが課題です。
言葉で考えるよりも、この情景を絵で描いてみましょう。風景が見えてきたら、演じてみるのです。手や表情も自然と動いてきませんか。そういう過程をふんでいくと、歌が立体的になります。
一番大切なところは、このメロディから何を感じて、どう伝えるかという部分です。自分の世界の中に持ちこんで歌をつかむこと、そして、その型をいぶし銀みたいに磨いていかないと、評価されるものにはならないでしょう。単にきれいな声で歌ってきたら、きれいな世界が表われるわけではないです。いろんな解釈もあります。しかし、今だからできる新しい表現を出してみてください。
表現に関しては精一杯、作る、その試みはトレーニングでやりつくし、歌うときには計算し、作っていかないことです。その人が自分で考えた試みは評価しますが、その試みをきちんと煮詰めて消化してきたかとなると、そう、うまくはいかないものです。厳しいステージでは、それが通じるかどうかははっきりとわかります。
<課題曲2>「卒業写真」
息が自然と流れで出ているところから、あまり外れない方がよいでしょう。大きな流れでつかむことができて、それを表現に合わせて広げていくと、フレーズが表われてきます。声の流れと息の流れの循環が一致していることが大切です。高いキーになると一致しにくくなります。そこで、トレーニングが必要なのです。高くとも、強くとも、長くとも、統一できる力が問われます。
リズムと言葉と感情表現は、どれから入っても構いません。この曲のようにパターン化しやすいものは、心地よく流れに乗せて、心地よく裏切ることです。楽譜を読み込めば、作曲者の意図するところがわかります。
日本人は、とかく音程(高低)の差でフレーズをとる傾向があります。しかし、強弱や長短、延ばす、短くする、つめるというなかでとらないと、伸びてしまいます。波のように、1つの揺らぎのなかでしか、声は人間の心のなかに入ってきません。つっぱっても、押しても、それだけでは通せません。正しい発声の上に搖れていなくてはいけないのです。感情に関しては、声、身体、気の3つの力で表わしてください。ひとことで、表情をいくつでも変えられるくらい密に勉強してください。声の足りないところを、表情で補うこともできるはずです。
〇楽譜の読み込み
全曲を通して、「悲しいことがあると」のリズムが身体のなかに流れていないといけません。自分でリズムをとったために、外しては仕方ありません。単純なメロディを、基本的なリズムを踏まえたうえで、発展させていくことです。
曲の構成としては、「やさしい目をしてる」の前まで、「そのままだったから」まで、サビの「私を」まで、「~私を叱って」の4部構成とします。
言葉でたたみかけたいところというのは早い音符になっています。例えば「あの人はやさしい目をしてる」。この「目」を「めぇ」と歌わないこと。「あの人は」の16分音符から、「やさしい」の8分音符になるところで、「やさしい」は、テヌート気味に保って歌えということなのです。
言葉とメロディと両方で解釈していきます。「街で見かけたとき」、これは風景です。そこから心情、内面に入ります。「なにも言えなかった」、この部分をていねいに語りましょう。流していっただけでは、次に行けません。
「卒業写真の面影はそのままだったから」で、「やさしい目をしてる」と同じフレーズになって、サビに入ることを予感させます。「人混みに流されて」もそうです。「行く私を」で、タンタタ、タンタタ、タンタタのリズムが大きくなっていきます。「ときどき遠くで」で、タンタタ、タンタタ、「叱って」で、タタンと頭が16分音符になっています。「叱って」のところが、言葉、メロディともにキー・ポイントであることがわかります。ここを、声を張り上げて歌ってはぶち壊しです。
「人混みに流されて、変わっていく私を」はサビですから、感情が完全にフレーズと一致していき、聞かせどころとなります。ここで、身体の強さや声のコントロール力、声を1つにまとめてきちんと出すということが求められます。ここは勝負どころです。
この歌は、歌い方によっては、大きなスケールになる歌です。いったん大きなスケールにしてから、楽譜に戻していってください。あなたがこの歌を通じて1番伝えたいものはなんでしょうか。一度、歌詞もメロディも全部壊してよいですから、自由に歌って、何かを伝えるのです。その伝えた部分を残しつつ、元の楽譜に戻っていきます。これは、練習の過程でくんでいかなければならない作業です。そうでなければ、単にこの歌が歌われただけということになってしまいます。誰が、どう歌ったのかが大切なのです。自分の歌になるかどうかということが、そこで決まります。つまり、楽譜に書かれていないところをどうするかということです。伝えるために歌うのです。歌うだけなら、難しい歌はありません。自分なりに解釈してもう一度歌いきってみてください。
身体ができてくると、声が自由になります。声が自由になると、言葉になり、音楽になります。歌に熟する時間を大切にしてください。あまり急いで形だけ作ってしまわないように。力を抜いてうまく歌おうとしたら、それなりに歌えるでしょう。それとは逆に、表現は身体の方に常にキチンと引きつけておくことです。
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