3-1.声の話

「最強トレーニング」 Vol.2

〇パブリックな声と日常の声との違い

 

発声というのは、決して特別のものではありません。あなたも生活や仕事で、一日たりとも誰とも話さない日はないでしょう。家族や友人と話すのに、いちいち緊張したりあがったりしませんね。声を発するのに、発声を考えることもないでしょう。

 しかし、初対面の人や偉い人と話すときには、ドキドキしたりあがったりします。なぜでしょうか。

それでも、その相手と親しくなったら、そういうこともなくなるでしょう。すると、うまく話せないのは、シチュエーションの問題が大きいということがわかります。

 つまり、人前で話すパブリックなスピーキングにおいても、いつものフレンドリーで自然な状態がキープできれば、さして話すのは困難ではないということです。

 多くの人は、話すために、ではなく、違う人と違う場に立って何かすることに対して、声が緊張し、うまくいかなくなるのです。人前で声を使うとき、私たちはパブリックに話すということと平常心をもって場に立つということが同時に求められます。

ところが、私たち日本人の大半は、パブリックなスピーキングのトレーニングなどの経験は少なく、これが大変なことになるのです。スポーツや歌では、決して本番ではあがらない人まで、話すと言葉がしどろもどろになるのも、よく目にします。とても不自然な状態に陥ってしまうのです。

 

〇慣れていくことで解決できる

 

 話し方教室でのトレーニングなどでは、話の内容づくりよりも、人前に立って話すことに慣れる実習を重視しています。日頃の力を普通に発揮できたら、ともかくも半分の問題は解決します。自然に話すレベルまでは、誰もが到達できるのです。

 しかし、人前では、友だちに話すようにしても通用しません。ここで、私たち日本人の身内意識の構造、つまり見知らぬ人、はじめての人といった外側の人でなく、よく知っている人、同じところで一緒にいる人といった内の側の人としか話してきていないこと、つまり、先ほど述べたパブリックスピーキングの経験不足が大きく影響するのです。

 たとえば、昭和の頃の夫婦では「おい、メシ、フロ」で伝わるのが、日常生活でした。

それでは、「〇〇さん、今、戻ってきました。あすは〇〇時に出ます」「今日は〇〇が食べたいが、君はどうだ。それでは〇〇にしよう」と、すべてにおいて、対話してコミュニケーションをとりあっている外国人のようにはいかないのです。

 

〇声が必要になってきた

 

どこの国でも、自分の考え、意志、意見をはっきりともち、それを口頭で表現し、説得していかなくては、うまく生きていけないのが人間の社会です。黙っていたら、無視されるどころか敵意さえもたれます。ところが、これまで私たち日本人は、あまり、ものをはっきりといって伝えなくても済んでいました。むしろ、あまり語らず、察することが、一人前の社会人の条件でした。

しかし、同質の人で成り立っていた日本村も、変わりました。以前にまして、話し方や声が重要視されるようになってきたのです。

 

〇声を出すのは楽しいこと

 

「話すとドキドキする、声が緊張する、それが楽しい」などと思える人は、日本人にはほとんどいないでしょう。そのことが、生きている証しだといえるのなら、人前で話すことも随分と楽しくできるに違いありません。

 でも、声を出すことは、嫌なことでしょうか。

カラオケなどで声を出すと、スッキリします。一日中黙っていると、ストレスのたまる人もいるでしょう。つまり、多くの人にとって、声を出すことは楽しいことなのです。

このことをどこか念頭に入れておいてください。それが、一番、声がよくなる前提だからです。

 

〇リラックスした声を使おう

 

さて、ここでは、話し方や話の内容よりも、親しい人と話をしているときの自分のリラックスした自分の状態を確認しておきましょう。そのときでも、声や話し方を意識するやいなや、ぎくしゃくしたり、うまく口がまわらなくなったりして、不自然になるものです。トレーニングでは、そこに気をつけなくてはならないからです。

 親しい人との話は、おたがいがわかりあっているから、話の内容や意味にさして大きなウエイトはありません。むしろ、声の調子やトーンなどによって、無意識の内にいいたいことが伝わっています。それは意識したとたん、くずれます。

そして、あなたが思っているほど、きちんとした発音やしっかりとした声では、そもそも伝わっていないものなのです。

 

〇話せる人になろう

 

 パブリックなスピーキングでは、見知らぬ他の人に自分自身をアピールすることになります。そのためには、声を適確に使った上で、自分の考えや話の内容を聞いてもらうことになります。このときには、言葉(内容)以外の要素が、とても大切なのです。

ちなみに、これらをうまく使って働きかけているのが、話せる人です。

日本語では、話せる人というのは、わかる人という意味で使います。つまり、話し上手でなく聞き上手、それだけ話すことの力が問われないできたという証拠なのです。

今日から、日常の言葉やコミュニケーションの声に関心をもちましょう。

 

1.リラックスしているのは、いつでしょうか

2.そのときの声の感じはどうでしょうか

3.その感じの声を人前でしゃべっていると想定して、出してみましょう

「最強トレーニング」 Vol.1

〇声の力は伝える力

 

話は、口から出た言葉が一瞬一瞬で消えてしまうライブのようなものです。だから、一度、口にしてしまった言葉は取り返せません。やり直しがきかないのです。そこであなたが意識しようとしまいと、あなたの声から、醸し出された雰囲気や感覚は、話の内容以上に、その話の印象や価値を左右してしまいます。

どんなに内容にすぐれていても、あまり関係ありません。声でどう伝わるかどうかということによって、話の効果が大きく違ってくるのです。

つまり、話のよしあしは、話の内容だけでなく、話の伝え方で決まります。しかし、話す力をつけるのに、声の力も含めた伝え方を私たちはあまり学んでいません。ここでは、この大切な話すための声の力、話声力をつけることに重点をおきました。

 

〇声の判断

 

声の判断で難しいのは、

1.現在、自分がどのくらいのレベルにいて(現実)

2.どこに達しようとしていて(目的)

3.そのギャップをどのように埋めていったらよいのか(手段)

4.さらにどのようによくしていくのか(理論)

を、把握していないからです。

 

多くの人は、

1.客観的に自分の実力をつかんでいないまま 

2.不明確な目的に対し 

3.あいまいなやり方でくり返しています。

これでは、効果も期待できません。何の分野であれ、客観的に評価して正せる、もう1人の自分がいてこそ、上達するものです。

 

〇声の学び方

 

話というのは、どんな人が話しても、それなりに話として何となく聞けるものです。ですから上達の第一歩は、プロとどこが違うのかを、細かくみるところからです。

たとえば、自分の声を録音したなかに、プロの人の話を間にはさんで、友だちに聞かせても区別がつかないというレベルにもっていくというのを、目標とするのもよいでしょう。

声にも、実力アップのための基本となるスキルがたくさんあります。それを学びましょう。

次に現実に使う実践例で、まるごと声の使い方を習得してしまいましょう。

難しい理屈はさておき、ご自分の耳から入れ込むことで、いつでもスラスラとよい声でよい間合いで語ることができる、そうであってこそ、あなたの声もしぜんと根本的によくなるのです。

 

声の基礎づくりと話という表現活動とは、次元が異なるステップです。これを一緒にやろうとすると、どうしても声の基礎づくりがなおざりになるのです。話としての表現を考えつつ、声の基礎トレーニングをしましょう。

 

※日本語、敬語やことばづかいのマニュアルは、たくさん出ています。しかし、ことばより大切なもの、同じことばでもいい方や口調によってまったく効果が違うことに、多くの人は、まだまだ無自覚です。

どんなに滑舌や発音のトレーニングをしても、人間関係やビジネスはうまくいきません。人は、そのことばだけでなく、そこでの声のニュアンスで、本当のところを判断しているからです。

ここでは、多くの話し方やことばづかいのメソッドとは、一味違って、ビジネスや人間関係のシーンに役立つことばのトレーニングを集めました。生きた声を見本として、そのまま耳に入れることによって、声の使い方を実践的にマスターしていこうというものです。

これで、ことばを文字で理解し、伝えることの練習が徹底的にできます。ここにとりあげる声の表現法をしっかりとマスターすると、仕事や日常生活における問題は、大半、解決することでしょう。

 

必要なことは、演劇部や放送部での基礎トレーニングのようなものです。

これからの社会において、声の使い方は欠くことのできない必修資格となってくるでしょう。

ですから、今、人より先んじてこの学習することは、絶大な効果をもたらすでしょう。それはあたかも、外国語を学ぶ人のなかで、あなただけがラジオで直接、学ぶようなものです。

ビジネスでよく使用することばと合わせて、声を学ぶことができるのです。

私の長年携わってきたヴォイストレーニングのベーシックなトレーニングがお役に立つのは、とてもうれしいことです。是非、うまく活用して、人間関係における最強の武器である声とその使い方を手に入れてください。

 

〇話し手のタイプで声の使い方は違ってくる

 

話と一口にいっても、いろいろなタイプがあります。内容としての知識や情報を与えることを主とする人もいれば、話をイキイキと伝えることを中心としている人もいます。

どんな話し手も、いろんなスタイルが混ざっています。

私は、いつも人の話はメモをとって聞くのですが、話がうまいといわれる人は、いくらメモして話しても、そのよさは、他の人に伝わらないものです。その場にいなくては、味わえない“臨場感”に支えられたライブステージのようなものだからです。声もとても印象的です。

それに対して、内容の価値で評価される人は、いわば作品をパッケージして伝えられるスタジオ録音制作型とでもいえましょう。

同じ内容でも、声で伝えられるスキルによって、何倍もの効果が違ってきます。たとえ、つたない内容でも、人に魅力的に自分をアピールできるようにさえなります。また、よい内容なのに、皆に充分に伝わらないという憂き目にあうこともなくなるでしょう。

 

〇他の人の内容を借りて自分の声の力をチェック

 

 よい話には、内容と伝達力が必要ですが、これを両立させることは、なかなか難しいものです。そこでまずは、話すことに重点をおきます。両方、いっぺんにやろうとすると、どうしても内容、つまり、話の原稿の方ばかり気になるからです。

 それには、まねから始めてみるのが早いでしょう。すでにできあがっている他の人の話から内容を借りて、声のトレーニングをしてみましょう。

噺家のように、同じ話を何度も、練習するのです。すると、内容でなく、伝達での自分の実力もわかり、何を学べばよいかもはっきりとしてきます。

話の内容、組み立て、構成展開、声のトーン、使い方、間など、それぞれ人によっていろんな特色があります。

一人の声からも多くのことが学べますが、多くの人の声に手本をとると、その比較から得られることは、より大きいでしょう。よい話し手には、共通のルールというものがあるからです。

 

 他の人の話を文章に起こしてみるのも有効な手段です。内容、構成にさまざまな工夫が見えてきます。問題は、そこからです。同じ内容がどう話になるのか、原稿ではみえない話の声のノウハウを身につけていきましょう。

 同じ話を、話のうまい人と同じレベルで声を使えるようにできたら、それは話し手としてのノウハウを手に入れたことになります。

まずは、話の中に声の世界があること、それがどのようになっているのかに着目してみてください。

 

〇話し手のタイプについて

 

大きく分けると、話し手にも、いろんなタイプがいます。もちろん、話すときの相手や目的によっても変わります。自分のことを考えるときの参考にしてみてください。

 

1.話芸型

 

A…その人の声を聞けば元気になるハイパワーヴォイスタイプ

現われるなり出迎えた相手の肩を叩き握手を求めるような人。いつも、ハイテンションで人前に出て、そのまま熱情的な声で話す。この人が身体からの声で語りかけると、言葉に命が吹き込まれ、思わず皆が聞き惚れる。パワー、インパクト、スキンシップ、表現力、表情に秀でる。個性を売りものとする。

 

B…一芸として確立された〇〇節を披露する話芸ヴォイスタイプ

テーマはいつも同じ。噺家のように同じ展開、同じおちがつく。聞く人は、同じところで笑い、同じところでほっとする。間や手振り身振りなど芸が細かく洗練されている。話し口や声の使い方に独特のものがあり、その味わいに人は耳を傾ける。

 

C…パフォーマンス型の大道芸人香具師口上ヴォイスタイプ

声も大きく、身振りやジェスチャーも派手で見ているだけで飽きない。おもしろさや時流に応じた話材を的確に組み立て、提示する。観客コミュニケーションに重きをおく聴衆参加型。会場のなかをまわったり、小物の演出に凝る。ときに聴衆も質問を浴びせられたり、壇上にあげられたりして協力させられる。観客との一体感、コミュニケーションを重視する。欧米人に多い。発声、トーン、メリハリ、間合いにすぐれている。

 

2.内容(知識、情報)伝達型

 

D…プレゼンテーションタイプ

パソコン(スライド)など最新機器で動画や図表を使い、わかりやすく伝える。話をビジュアル化するので、わかりやすく、説得力がある。話の内容や情報を、うまくまとめている。企画営業マンタイプ。

 

E…スペシャリストタイプ

幅広い知識に支えられた持論を展開する。聞く人が理解できるレベルであるときには伝わる。話力はあまりない。博識、内容の質でカバーする。学者、大学の教授などにも多い。

 

F…コメンテータータイプ

身近な例や比喩を使って、難しい話を優しくおきかえて説明する。最新の情報、専門の分野については特に強い。鋭い切り口で分析をする。話の構成、組み立て、声での見せ方もうまい。若い人の趣向によく通じており、タイムリーで造語力にたけている。テレビや講演など、マスコミにも重宝される。評論家など。

 

G…ジャーナリストタイプ

数字、データ、多くの事例や経験によって、他の人のもっていない情報を売りものとする。専門分野をもつ人や、特定の業界、分野、国、仕事に詳しい。声は、人によってさまざま、テンポも使い方も、よい人も悪い人も幅がある。

「よい声になれるヴォイストレーニング~声の科学」 Vol.18

〇強調するときは、強くいうだけが能じゃない 

 

プロミネンスとは、強調してはっきりと伝えることです。だからといって、言葉すべてを強く言ってしまうと、均等化されてどれも目立たなくなります。そこで、とくに意味をもつ大切な言葉だけを強調するのです。ただ、大きく言ったために発音が不明瞭になったり、何を言ったのかわからなくなるようでは本末転倒です。強く言うと、声も大きく高くなりがちですが、結果的にしっかりと伝わっているかがポイントです。

プロミネンスの使い方には、個人の選択に任されている場合と、社会的習慣として決まっている場合があります。意味を正しくわかりやすく伝えるために、強調するということです。

どこにこのプロミネンスをおくかで、文章の意味が変わってくる場合であります。プロミネンスがあることで、違ってきます。どの語が際立っているかを、チェックしてみましょう。

 

「私は(1)、明日(2)、上海に(3)、出張します(4)」

誰が行くのですか(1)、いつ、行くのですか(2)、どこに行くのですか(3)、何をしに行くのですか(4)。

この4つの疑間のどれに最も強く答えるかによって、それぞれ際立たせたいところ、プロミネンスがおかれるところが違ってくるのです。

 

〇テンポ、ノリのよさが、コミュニケーションを決める

 

気持ちのよさとインパクトがその人なりにバランスよく整うと、聞きやすくなります。聞き手に聞く努力を強いず、スーッと耳に入りやすくなるのです。そのためには、伝えることのトータルイメージと、声の高低、メリハリ、テンポの取り方、一語一音を処理できる調音力が必要なのです。

 

〇リズム感がないと、心に響かない

 

聞き手は、話にリズムや歯切れといった心地よさを求めています。どんなによい声でも、話が単調に続くと眠くなったり飽きてしまいます。そのため、伝え方と内容の両面から、新鮮さやパワー、変化を、タイミングよく入れる必要があるのです。

 

[声の調子に変化をもたせるトレーニング]

ここでは、強調する部分の声の感じを変えることによって、気持ちを使い分けるトレーニングをしてみましょう。

 

「いやあ、うまくいかなかったね。」

1.深刻に

2.非難するように

3.励ましを込めて

4.あきらめがちに

 

〇間の悪い人は“間抜け”

 

「間」を語るうえでの格好の材料としては、「TED」などのスピーチでしょう。

ポンポンとリズミカルに喋りながら、その後スッと間をとって相手の反応を見るという話し方をしています。そうやって相手の反応を確認したあとで、またポンポンと話しだす、この繰り返しです。

これらは、アドルフ・ヒトラーやレーニン、J・F・ケネディにも見られる共通の特徴です。ある時期、高い人気を集めた政治家は、このような話し方をします。

この「間」は、聞く者に自分の語られざる声を聞いて、それに対してうなずいてくれているような安心感を与えると同時に、話す者への信頼感を高める役割を担っています。つまり、「間」とは語られない声を聞くことであり、語られない声で話すことなのです。

どんなに饒舌な人でも、間のない読み方をしてしまうと、聞いている方は疲れてしまうでしょう。話し手の方も、です。早口に聞こえてしまいます。

間は短すぎても長すぎてもいけません。その時間を状況に応じて選択しなくてはなりません。間を置くにも破るにも、センスが必要なのです。緩急、強弱といったメリハリのなかでの一方の極が、間であるといえます。

時間、空間、そして人間、すべてに間が入っています。それだけ重要なことだといってもよいでしょう。

間は、多くの場合、「こっちを向いてください」「私をみてください」「これから、大切なことを言います」という意味をもちます。この間のおき方によって、聞いている人にわかりやすく伝えることができます。うまく間をおいて読む人の言葉は、とても気持ちよく伝わり、残るものです。

間をとるために、どこかをより速く言うことです。慣れていきましょう。間とは、悪魔の間といわれます。つまり、使い方次第で、関心を強くひきつけることも飽きさせることもできる両刃の剣になるということです。

間は、息つぎにも関係してきます。体の状態のよくない人の言葉は、とても聞きとりにくいものです。

 

間をとって言葉の意味を強調する方法もあります。いろいろな間のあけ方を試してみましよう。

ここでは、読点(テン)のところで間をあけて読んでみましょう。その変化による意味の伝わり方の違いを感じましょう。

 

[間をとって読むトレーニング]

1.わたしは、あの人が、大嫌い、です。(「大嫌い」の前と後で間をあけて「大嫌い」と速く読む。)

2.わたしは、あの人が、だ、い、き、ら、い、です。(「大嫌い」の一つひとつの音をゆっくりと間をあけて読む。)

3.わたしは、あの人が、だーい、きらい、です。(「大嫌い」の前と後と、中間で間をあけ、「だーい」と伸ばす。)

4.わたしは、あの人が、だいっ、きらいっ、です。(「大嫌い」の前と後と、中間で間をあけ、速く読む。)

 

〇ブレスの使い方が表現力を決める

 

歌に息つぎがあるように、しゃべりにも息を吸うところがあります。ノンブレスでしゃべり続けることはできません。だからといって、息が苦しくなったら、どこでも吸ってよいのではありません。不しぜんなところでブレスすると、そこに別の意味が生じ、内容や意味が変わってしまうことさえあります。正確に伝えようとするときは、ブレスが目立たないようにしましょう。

呼吸は音声表現に大きくかかわってきます。呼吸の伴っていない言葉は、とても聞きにくいです。聞いている人も呼吸をしていることを忘れてはいけません。

話をうまく伝えるには、まず相手の呼吸に合わせることです。とくにクレーム処理のときは、ここが大きなポイントです。

 

〇緩急やチェンジオブペースがないと、眠くなる

 

チェンジオブペースとは、調子を変えることです。話が単調で味気がないと感じるのは、話の調子が変わらないためです。人前で話すことに慣れていないと、だいたいこうなります。変化のない話は退屈です。呼吸や間は、コミュニケーション上では大切なポイントなのです。

言葉の調子、語調、語気、語勢と主観的な表現、情感的な読みなどをたくさん入れ込んで表現のトレーニングをしましょう。長い「間」のあとは、やや高めに大きく入ると効果的です。 一語ずつ音が切れてしまうと幼稚に聞こえますから、音を持続させる気持ちでゆったり読むとよいでしょう。語調、語気、語勢、間と、いろいろ変えてみましょう。

 

[抑揚と強調のトレーニング]〉

「このたびは、大変に、お世話に、なりました。」

1.語調 高低

2.語気 強弱

3.語勢 緩急(テンポの変化)

4.間 その前後の音の高さに気をつけましょう。

 

〇ヴォイストレーニングの注意……喉を休ませること

 

今まであまり声を出していなかった人が、これまでの声の使用に加えて、ヴォイストレーニングを始めたら、喉が疲れるのは当然です。充分に間をとって、休みながら行いましょう。

集中力も欠け、喉の悪い状態でだらだらと声を使えば、当然おかしくなります。カラオケなどでは調子にのって歌いすぎるから、喉を痛める人が多いのです。トレーニング以外で、喉を無駄に疲れさせないことです。

・トレーニングの時間を短くする。

・一日のトレーニングを数回に分け、必ずウォーミングアツプから始める。

・一つのトレーニングが終わったら同じ長さの時間、休みを入れる。

トレーニングは、翌日、喉に疲れが残らない状態までがよいと判断してください。

疲れたら、すぐに喉を休ませましょう。

疲れるまえに、喉を休ませられるようになりましょう。

疲れるような、無理な出し方、雑な出し方はやめましょう。

喉をていねいにいたわって、声を磨いていきましょう。

 

〇声が見えるようにする

 

声という、捉えどころもないのに人間関係やビジネスに大きな影響をもたらすものをテーマに、実践的ヴォイストレーニングを述べてきました。声をよくするには、現状把握、問題の自覚、修正や鍛錬、結果とフィードバックのくり返しです。声に対する判断レベルを高めていくのです。

声のイメージという主観的なものを、少しでも客観視して捉えてよくするのが、トレーナーの役割です。この声のめざすべき指標を示してきました。がんばってください。

「よい声になれるヴォイストレーニング~声の科学」 Vol.17

〇声と言葉の響きをよくする

 

ここでは、声の感じをよくするための準備となるトレーニングをします。

身体の筋肉が硬直していては、声はうまく響きません。顔も同じです。日頃から大きく表情筋を動かすトレーニングをしておきましょう。表情の豊かなことが、声の表現力を高めるのです。

次のトレーニングを組み合わせて、自分のメニュをつくってみましょう。

 

[頬のトレーニング]

1.両頬に呼気を送り、ふくらませ、その後、両頬を吸い込む

2.頬の左右、上歯茎の上方、下歯茎の下方と4方向を部分的にふくらませる

 

[眼のトレーニング]

1.力強く眼を・閉じ、開く

2.眼の玉を左右、上下、左回り、右回りと動かす

 

[眉毛のトレーニング]

1.思いっきり眉毛をつりあげる

2.しかめっつらをして、眉毛を下げる

 

[声に感じを出すトレーニング]

1.今後ともよろしくご指導ください。

2.誠に申し訳ございませんでした。

3.さようでございましたか。

4.いつもお世話になっております。

5.ご迷惑をおかけしております。

 

〇張りのある声で元気一杯に 

 

いつもハキハキしていて、きれいに言葉を発せるように心がけると、いざ話すときにも苦労しないと思います。声に張りがなく言葉が不明瞭なのに、人前で話すときだけよくなるということはないでしょう。ふだんの生活から注意しましょう。「声に張り」を感じるのは、メリハリをしっかりつけてきちんと意味を伝えましょう。

言葉が明瞭に聞こえているか、しっかりとその言葉の意味が伝えられているかをチェックしてもらいましょう。

言葉のトレーニングはなるべく大きな声で行いましょう。毎日続けていれば必ず声もよくなってきます。

トレーニングをきっかけに声を意識して、その結果、普段の話し声もよくなるものです。言葉のトレーニング、とくにこのトレーニングで、はっきりした発声を身につけてください。

 

[張りのある声をつくるトレーニング]

1.いらっしゃいませ。

2.お見えになりますか。

 

[宴会の司会でのトレーニング]

「今日はカラオケ大会やビンゴ大会など、さまざまなお楽しみ企画が目白押しです。皆さん、大いに食べ、飲んで、どうぞリラックスしてお楽しみください。」

 

[言葉をていねいにしっかりと発するトレーニング]

次の言葉を力強く、はっきりと言ってみましょう。

1.このたびは、大変、お世話になりました。

2.ご迷惑をおかけして誠に申し訳ありません。

3.皆さんはこれからどうなさるのですか。

 

〇速いテンポで、滑舌よく話す

 

明瞭な発音のためには、唇、あご、舌、喉(声帯)などが、スムーズに連動していなければなりません。話すときに、いつでも、これらに注意していると、頭が痛くなってしまうでしょう。しかも、明瞭な発音をしようとするほど、不しぜんになってしまいがちです。

これは、身体の余分な部分に力が入ってしまい、うまく動かなくなるため、流れが止まったり、崩れてしまったりするのです。「発音より発声、発声より音の流れを優先する」ことです。その中で、ことばをのせていくか、ことばで言い切って、それを音の流れでつないでいくつもりで行いましょう。

口を開けすぎ、動かしすぎて、唇やあごの運動にエネルギーを多く使うと、ことばにするときに喉、舌の運動にエネルギーや気持ちがまわりません。

役者などのことばの基本トレーニングをしましょう。単に早口ことばのように速くしゃべるのではなく、お腹から声で、ことばにメリハリをつけましょう。

 

[ことばを発音するトレーニング]

・高低アクセントやイントネーションを無視して、すべて同じピッチ(音の高さ)、同じ音の長さで読みます。日本語のうまい外国人の日本語の話し方をイメージしてください。ラップ的にリズムをつけてもよいでしょう。

・そこで声の高さを高くしたり低くしたり、いくつかパターンを変えてやってみましよう。

 

〇日本語のアクセント

 

日本語の言葉をはっきりと伝えるためには、発音のほかにアクセントを正しくすることが重要です。日本語は第一 音がとても大切なので、どうしても高めに入ります。また日本語アクセントには、高低、低高低はあっても、低高、低低高はありません。つまり音が少しずつ下がってくるため、高めに入らないと低くこもってしまうのです。

 

[高低アクセントのトレーニング1]

「雨(アめ)・飴(あメ)」「去る(サる)」「きれいだ(キれいだ)」「寒い(さムい)」「赤い(あカイ)」「行く(いク)」「さて(サて)」「それでは(そレデハ)」

 

[高低アクセントのトレーニング2] 

「足袋(タび)・旅(たビ)」

「二時(ニじ)・虹(にジ)」

「石(いシ)・医師、意志(イし)」

「都市(トし)・年(とシ)」

「咳(せキ)・席(セき)」

「電気(デンき)・伝記(でンキ)」

「神(カみ)・紙、髪(かミ)」

「朝(アさ)・麻(あサ)」

[高低アクセントのトレーニング3]

平板型(低高高/低くならない):「葉が(はガ)」「鼻が(はナガ)」「日が(ひガ)「桜が(さくらガ)」「鳥が(とりガ)」「水が(みずガ)」「私が(わたしガ)」「友達が(ともだちガ)」「赤ん坊が(あかんぼうガ)」「花王(かオウ)」「神田(かンダ)」「らくだ(らクダ)」

尾高型(低高高[低]/助詞が低くなる):「花が(はナガ)」「妹が(いモウトが)」「休みが(やスミが)」「男が(おトコが)」「山が(やマが)」「案内書が(あンナイショが)」

頭高型(高低低[低]/2拍目で低くなる):「木が(キが)」「火が(ヒが)」「姉さんが(ネえさんが)」「緑が(ミどりが)」「春が(ハるが)」

中高型(低高低[低]/途中で低くなる):「お菓子が(オカしが)」「湖が(ミズウみが)」「日本人が(ニホンジんが)」「土曜日が(ドヨウびが)」

 

[高低アクセントのトレーニング4] 

頭高型と尾高型:「朝(アさ):麻(あサ)」「アナ(アな):穴(あナ)」「籍(セき):咳(せキ)」「足袋(タび):旅(たビ)」「tuna(ツな):綱(つナ)」「鶴(ツる):蔓(つル)」「都市(トシ):歳(とシ)」「訳(ヤく):約(やク)」  

 

〇イントネーション

 

イントネーションは、告知、断定、問いかけ、念押しなどの表現となります。そのため言葉の意味するニュアンスを発見し、感じることが大切です。そうするうちに、言葉の一つひとつに情感が入るような表現ができるようになります。こうした音に、感覚として声を動かす快さをとらえていくことが、何よりも確実な上達への道となります。

 

「よい声になれるヴォイストレーニング~声の科学」 Vol.16

〇子音のトレーニング① カ行とガ行

 

カ行音の成り立ち

カ行の子音「k」は、奥舌と軟口蓋でつくる破裂音で、奥舌を軟口蓋につけて息の出口をふさぎ、息を吐き出すとき、この閉じた部分を突き破ることによって発します。

 

濁音と鼻濁音

ガ行音はさまざまに発されます。学問の「ガ」は、濁音で発音します。ところが、音楽(オンガク)の「ガ」は、濁音と鼻にかかった鼻音とに分かれます。破裂音で濁音「g」に、ガと鼻から抜いたやわらかい「ガ」となるのです。これを鼻濁音と呼びます。

 

〈カ行のトレーニング〉

カ 金で母さん、悲しませたか/噛んだら噛むだけ辛いカラシ/重ねて確認、確実に

キ きっとキミは来てくれる/気さくで気がつき器量よし/地球の危機きっとくる

ク 黒い鯨の口/熊本の空港にくる/ひゃっくり、びっくり、くりくりの目

ケ 経験は人間を形成する/今朝すごいけんまくで喧嘩した/やけ酒のわけ

コ 子供の心に入り込む/今度、近藤さんと来よう/濃いコーヒーよリココアが好み

 

〈ガ行のトレーニング〉

ガ ガサツでガミガミ外国人

ギ 銀座の銀行義理づきあい

グ グッチにガマグチ、グチを言う

ゲ ゲコゲコ、玄関に一撃

ゴ ゴマすり、ゴリゴリ、ご苦労さん

 

〇子音のトレーニング② サ行とザ行

 

シとサスセソの違い/シとスィの違い

「刺す」と「死す」の発音を比較し、呼気の通るすき間の位置を比べてみてください。サは舌先が上歯ぐきの裏に近づくのに対して、シは舌の上面の前の方が、上あごの前方の硬口蓋に近づき、舌先の下がサと違い、下歯ぐきの裏から離れた状態で発されます。先生を「シェンシェイ」となまるのは、この混同です。スェスェ、スェンスェン、センセイとくり返して直しましょう。

 

ザ行音の成り立ち

ザ行は「サ」と違い、舌先がまず上歯ぐきの裏に接します。それを押し破って、破裂音とし、そのすき間から生じる摩擦音が加わって「dz」の音をつくります。このように破裂音と摩擦音の組み合わさった音を破擦音といいます。ちなみに、風邪(カゼ)が「カデ」となる人は、舌が歯ぐきから離れるからです。

 

〈サ行のトレーニング〉

サ さざなみのささやき/サメとサバとサンマ/さっさと財布を探さなきゃ

シ シタールの静かな調べ/知ったら嫉妬、知らぬが花/椎茸と塩を仕入れる

ス 透き通る素肌ヘキス/すべてを捨てて救う/炭火を入れるのが済む

セ 背骨を矯正する先生/せせらぎと船頭の声/背伸びする制服の生徒

ソ そばでそつと添い寝する/食欲をそそるソウル/外の掃除が騒々しい

 

〈ザ行のトレーニング〉

ザ 残念、残酷、ざまあみろ

ジ じいさん、自分で、持参する

ズ ズボン、ずりおち、ずいぶんだ

ゼ 絶体絶命、銭がない

ゾ 像の銅像、どうぞどうぞ

 

〇子音のトレーニング③ 夕行 ダ行 ナ行

 

チ、ティ、ツィの違い

チ「tʃi」をささやくように「チー」と伸ばして発音すると、最初の「チ」の音のあとに、「シ」のような摩擦音が「シー」と続きます。「アチー!」の「チ」です。「ティ」ではありません。

ティ「ti」、ツィ「tsi」を伸ばすと、「イー」となります。この2つは、ティーポット、ツィードなどの外来語の発音以外は使いません。

 

ダ行音の成り立ち

「ダ、デ、ド」は、夕行が無声音、ダ行音は有声の破裂音です。ヂとヅは音の上では、ジとズと同じです。「ヂャヂュヂョ」も「ジャジュジヨ」と同じで、特別なとき以外は使いません。

このように、ザ行音と共通のところが多いので、「ダデド」と「ザゼゾ」を混同しないように注意しましょう。「さざ波」が「サダナミ」、「なでる」が「ナゼル」、「のど」が「ゾ」になる人は、要注意です。

 

ナ行音と夕行音

ナ行は、舌の接するところは夕行と同じです。夕行音は破裂音ですが、ナ行音は舌を歯ぐきにつけたまま、息を鼻へ抜く鼻音になります。

「ナ」は、そのまま声を出さなければ、鼻から息が静かにもれます。そこで、鼻に手を当てながら「ナ」を発音すると、声が鼻に響いて振動するのがわかるでしょう。ナ行音は、鼻にこもらせないことがポイントです。

 

ハミングとナ行

響きを集める目的で、ハミングを使ってみましょう。

口の中を閉じ、唇も軽く閉じます。その状態で鼻のつけ根を意識してハミングをします。声を一点にめがけて出すようにすると、響きがまとまります。

やりにくければ、MinMin…と声を出してみましょう。Na(ナ)やNya(ニャー)でも、かまいません。口の中を響かせようとして口を開けすぎないように注意してください。

 

〈夕行のトレーニング〉

夕 たまに玉ネギを使った/楽しい旅をしたい/ただで食べるタコ焼き

チ 知恵と力で勝ち取る/塵はきちんと持ち帰れ/地下鉄でチョコをちょっと食べる

ツ きつい靴は窮屈だ/つまみにつけたさつまあげ/つまらない付き合いを続ける

テ おてんとうさんがテラスを照らす/丁寧に手を洗う/転校生の手書きの手紙

卜 遠くにトンボが飛んでいる/灯台のともしびが届く/遠い都市の時計が止まるとき

 

〈ダ行のトレーニング〉

ダ 大ちゃん、大好き、大胆な

ヂ 赤地と白地の生地

ヅ 堤さんとつづきさんの小包

デ デレデレ、電話に出るな

ド 堂々、どしどし、どんくさい

 

〈ナ行のトレーニング〉

ナ 何が何でも夏がいい/泣き顔なのに涙がない/海原の七不思議

二 煮込んだ肉のいい匂い/二人三脚で荷造りして逃げた/兄さんを二度と憎まない

ヌ 濡れたような絹を縫う/ヌルヌルぬめる/塗り薬が塗れぬよ

ネ 寝るに寝れない熱帯夜/年々きれいになる姉さん/来年を念じながら眠る

ノ ノックののち覗く/納期でノイローゼの農民/野はのどかでノスタルジイ

 

〇子音のトレーニング④ ハ行 バ行 パ行 マ行

 

ハ行音の注意点

「h」の音は、ハーと息を吐くときの喉音です。喉の奥を「アエオ」より狭くして出す摩擦音です。「h」は咽頭からの深い声、喉声ですが、「ハヘホ」はこの「h」音と母音「アエオ」でつくられます。

「ヒ」と「シ」は調音点が近いため混同しやすく、「日比谷」と「渋谷」、「質屋」など、よく聞き間違えられます。地域によっては「ヒ」と「シ」を逆に発音するところもあります。

 

もっとも息の速いパ行

日本語を発したとき、もっとも速いのは、パ行「パピプペポ」です。波形に強い揺れが出て揺れるのです。

パ行は、唇で空気をためて、はじくように発声します。破裂させる音なので、手をあてるとわかるでしょう。一方、大声と発音の速度とはあまり関係ありません。

 

マ行音とバ行音の混同

両唇を用いる点で、マ行はバ行音と近い発音法であるため、両者は混同しがちです。

さびしい←さみしい/さむい←さぶい/けむい←けぶい/ムミカンソー(無味乾燥)←ムビカンソー/ムボービ(無防備)←ムモービなど、いろいろあります。

さびしい←さみしいのように、両方が一般化してきているものもありますが、本来の発音はどれなのかを注意することで、ことばに対する関心を高めるようにしましょう。

 

〈ハ行のトレーニング〉

ハ 箱を博物館へ運ぶ/華やかではかない花火/蜂に刺されて鼻はれた

ヒ 広い額の人にひるむ/光る瞳にひかれる/昼寝する人に昼飯広げる人

フ 不快不安感が心を塞ぐ/工夫をこらした豆腐のフライ/不意に触れ合う二人の心

へ 塀や兵器のない平和な世界/へとへとにへたばる/平気で変な返事する

ホ 星が微笑む豊作の村/頬のほてりは惚れてる証拠/本を翻訳したのは本当?

 

〈バ行のトレーニング〉

バ バイバイ、バラ色のバス

ビ ビタミンBとビタワン

ブ 不恰好な部下をブイブイいわす

べ べっぴんなベイビー、べたぼめ

ボ ボスのボサボサ帽子

 

(パ行のトレーニング〉

パ パパのパパイヤ、パイナップル

ピ ピチピチのヒッピー

プ プータローは、プリンス、プーさん

ペ ペリカン便、ペダルでペチペチ

ポ ピンポン、パンポン、ポンポンド 

 

〈マ行のトレーニング〉

マ まるで待ちかねたように松の木/前々から前歯が曲がっていた

ミ 耳に水が入る/未知なる道を見つめる/みんなで未来を見つけよう

ム 無邪気な娘に夢中/息子は六日に婿入り/昔むかしの虫かご

メ 名月に女神を愛でる/しめしめ、しめじ飯だよ/迷宮で女神にめぐり逢う

モ 桃をもらって来い/もうモラルをもとう/身も心も燃え立つ

 

〇子音のトレーニング⑤ ヤ行 ラ行 ワ行

 

ヤユヨとは

ヤユヨは、「イア」「イウ」「イオ」のように、「イ」の口の形をして「ア、ウ、オ」を発音します。そのため、イ、ユ、ヨが混同されています。行く(ユク、イク)、良い(ヨイ、イイ)などです。これはどちらも認められています。力が入ると、「ヨコハマ」が「ィヨーコハマ」のようにねばっこくなってしまうようです。

 

R」「L」の発音

ラ行は、日本人にとってはなかなか難しい音で、いくつかのパターンがあります。「ホラーッ」のような、はじめるように聞こえる弾音と、「ブルンブルン」というときの強い震え音、巻き舌で話すときの音です。

英語の「L」の発音は、前もって舌先が歯ぐきに触れていて跳ねる音です。ラジオ、ロボット、リズムなど、語頭に多く用いられます。

R」の発音は、舌先は軟口蓋で口の奥で発し、Rは唇を丸め、舌先を上(口蓋)につけず口先で発します。

 

「わたし」と「あたし」

ワ行の「w」は、口構えをウ「u」に近い形にして発する両唇摩擦音です。しかし「w」は、英語の発音ほど両唇を近づけません。「わたし」と「あたし」を区別できますか。

 

〈ヤ行のトレーニング〉

ヤ 深夜の山はやばい/闇の中で優しい声に安らぐ/安い八百屋が休み

ユ 湯上がり、雪でゆとりの日/優雅な百合の花/憂鬱は優柔を誘発する

ヨ 夜な夜なヨーグルトを食べる/陽気な妖精と夜を明かす/よそよそしさを装う

 

〈ラ行のトレーニング〉

ラ ラベンダーとバラの快楽/ライブのラストはラブソング/桜は暗いときに開く

リ 理想を力説するリーダー/リリカルな輪郭と彩り/漁師の料理が立派にできた

ル 投げる走るも攻めるが肝心/落雷のなか落涙する/留守にルビーを盗まれた

レ 彼は熱烈で華麗、でも冷淡/レンガづくりの歴史的レストラン

ロ 浪曲を6曲録音する/ロザリオを持つ牢屋の老人/路地をうろついていろ

 

〈ワ行のトレーニング〉ワ 私は笑いながら別れをかわした/忘れられない脇役の笑い声/我の脇に若い人

 

〇拗音・撥音・促音のトレーニング 

 

拗音…ャ、ュ、ョ

カ「ka」に対してキャという音があります。音韻論的には、キャはカ「ka」の中に半母音「j」がはさまって「kja」という拍(音節)になっているとも考えられます。このように子音+母音の拍(これを直音といいます)に対して、半母音が入った拍を拗音とよびます。

拗音は、音声学的にみると、「k」「ɡ」「ŋ」「b」「p」「m」「ɾ」は、半母音「j」を経て母音「a」「u」「o」につながる音であり、その他は「ʃ」「ʒ」「」「」「ɲ」「ç」に母音「a」「u」「o」がついたものです。また、千住(センジ)、手術(シュジツ)、新宿(シンジク)などのように、拗音なのに、拗音でない発音になることもあります。

 

撥音…ン「m」「n」「ɳ」「ɴ

撥音は、両唇や舌などで口からの呼気の出口を閉じ、鼻腔へ逃がす音です。文字は同じ「ン」で表記しますが、後にくることばによっては音は違います。             

原則として、「ン」のあとに「p」「b」「m」の両唇音がくる場合は「m」の音になります。「t」「d」「n」「r」などの歯ぐきと舌先を使う音がくるときは、「n」の音。あとに「k」「ɡ」「ŋ」(鼻濁音)など軟口蓋と後舌でつくる音がくる場合は「ɳ」の音。「s」「a」「o」「u」「w」「i」「e」「ʃ」「j」などの音の前にあるンは、聞き取りにくいので、はっきりと出すようにしましょう。繊維(センイ)、官位(カンイ)など、「ン」のあとに「い」がくると、難しいです。

 

促音…っ

促音は、小さい「っ」を使って表記します。そのあとに続く音を発する口構えのまま一拍分、息をこらえます。そして、次の音を強い息で出します。つめる音、つまる音で圧迫した声の出し方で、日本語の特徴のひとつです。ガッカリは「k」の口構え、ヤッパリは「p」の口構えとなります。いつも小さい「っ」の発音が伴うとは限りません。

促音が小さい「ッ」で表記されるため、たとえば「カムチャツカ」(×カムチャッカ)、「かつて」(×かって)、「トロツキー」(×トロッキー)など、本来促音でないものが、促音のように間違って発音されるケースもあります。

 

「華奢でキュートなギャルは、社長の出張に躊躇した」

1)キャキュキョ「k」ギャギュギョ「ɡ」ギャギュギョ「ŋ

2)シャシュショ「ʃ」ジャジュジョ「dʒ」

3)チャチュチョ「」ニャニュニョ「ɲ

4)ヒャヒュヒョ「ç」ビャビュビョ「b」ピャピュピョ「p

5)ミャミュミョ「m」リャリュリョ「ɾ」

 

〈撥音のトレーニング〉

「仙台の新聞社でガンガン働いている」それぞれの「ン」の違いを知りましょう。

n:仙台、先頭、宣伝、反対、残念、線路

m:新聞、先輩、連盟、憲法

ŋ:ガンガン、散会、宣言、演劇

 

〈促音のトレーニング〉

「やっぱり、がっかり。やっただけでおわった。」

 

「よい声になれるヴォイストレーニング~声の科学」 Vol.15

〇はっきりした発音にする

 

人間の共鳴体は、咽頭という喉の部分、口の中の口腔、鼻腔です。簡単にいえば、喉、口、鼻が共鳴体となって、おのおのの部位で共鳴が起こり、特定の周波数成分(フォルマント)が発生します。

たとえば、「あ」という形に口を構え、声を出すと、ある周波数成分で共鳴が起こり、「あ」と聞こえます。ほかの「い」「う」「え」「お」という母音も、おのおのの異なる2つの周波数成分、ないしは3つの周波数成分で共鳴が起こります。その周波数成分の声が外に出て、聞き手は「あ」「い」とわかるのです。

それぞれの共鳴体からの周波数、つまり口腔からの周波数や鼻腔からの周波数などがうまく混ざり合ったところではじめて他の人が聞いている声になるといえます。

口から出ている音、鼻から出ている音を片方だけしか聞いていない状態では、完全な声にはなっていないということです。この2種類の音は、だいたい口から12センチくらいのところで合わさります。つまり、人の声は口から少し離れたところまで出て、音声になっているのです。

 

・口の開け方が大きい

 おーい

放射状態がよくなるので、基本的に音のレベルがあがる。声のレベルが大きい。「オーイ」だけだったので、レベル差くらいしか違いがないかもしれないが、口を大きく開けた方が、「オ」と「イ」の落差がつきやすいということもいえる。

 

・口の開け方が小さい

 おーい

声のレベルも小さい。

 

〇ことばをはっきりとさせる

 

役者、アナウンサーなど、ことばを使う仕事についている人は、ことばのトレーニングをしています。日本語の母音を、口先での明瞭さだけでなく、身体の奥深く、お腹から声を発するようにしていきましょう。

口をしっかりと動かすことです。しかし、ことばをはっきりと言おうとしてむやみやたらに口を大きく開けすぎていると、かえって平べったい口先の声になります。

個々の音(構音)の訓練よりも、体から一つのことばを一まとまりとして捉えて、言ってみることです。つまり、発声と結びつけてトレーニングすることです。体からことばを一つにして言い切れるというのが基本です。早口ことばのような練習も、それをふまえた上でなければ、効果はありません。言えても心に伝わらないからです。

 

・明瞭な発音

口を開けるところはあけ、閉じるところはとじており、あいていることがわかる。

 

・不明瞭な発音

レベル的にみても音が切れていないので、口をあまり開かずに「おはようございます」と言っていることがわかる。その場合、フォルマントがはっきり出ないので、音韻を認識しにくい。口の開け方が小さいとボツボツと聞こえてしまうのは、低い周波数成分しか出てこずに、何を言っているのかがわからないという状態である。

 

〇基本は母音のトレーニング

 

単音のうち、ア、イ、ウ、エ、オが、母音です。母音は、声帯からの声が共鳴器官を通って鼻や口から外へ出るまでに、どこにも閉鎖などの妨げを受けることなく発せられたものです。つまり、舌や唇などの調音の器官で加工されずに発せられる音です。

そのほかの単音を子音と呼びます。子音は、鼻や口から音が出るまで、歯や唇、口蓋などで妨げられることで発せられる音です。

 

〇母音の区別 アとエ、アとオ、イとエ

 

「ア」と「エ」の区別がはっきりしない場合は、「ア」の口の開きを大きくし、舌先を上げすぎないことです。「ア」と「オ」が区別しにくいときは、舌の奥を上げすぎないようにしましょう。

「イ」と「エ」の場合では、「エ」は「ア」と「イ」の中間音ですから、それがはっきり区別されていないのでしょう。「つらい」が「ツレエ」となるのは、「ア」が「エ」になっているからです。「イ」と「エ」は、なまりやすいので要注意です。

 

[母音の発声トレーニング]

ア アーいい天気だ

イ イーッだ イッヤッダッ

ウ ウーウーウーエ

エ エーそうだったんですか

オ オー ワンダフル

 

[母音の発音トレーニング]

ア 甘い朝の挨拶/明日になれば雨もあがる/

兄も姉も明るい/秋、愛は熱く燃える

イ 胃の痛い犬/イライラしている猪/

一途なる意志とイマジネーション

ウ 海辺でウエを売る/海鳴りを聞きながら腕枕でうたた寝/嬉しい噂は嘘だった

エ 絵描きの鉛筆百円/映画のあと、駅で笑顔で別れる/偉い絵師が選んだ絵

オ おもしろおかしく踊ろうよ/おいしいお菓子をお裾分け/お金を落として怒る男

「よい声になれるヴォイストレーニング~声の科学」 Vol.14

〇ハミング

 

ハミングは口を閉じることで障害物をつくり、高い周波数が出てきません。「hun」「hu」は鼻から空気が抜ける音で、「n」は口を閉じた音です。声の周波数は出ていません。

ハミングだけでは、何を歌っているのかわからなくとも、基本周波数は出ています。たとえば、音楽のメロディラインのキーがよくわかるということです。基本周波数の変化が、音階の違いです。歌声ではなくとも、メロディはとれるのです。

 

〇ハミングのトレーニング

 

声帯をきちんと合わせ、充分に声の響きとして、コントロールするのに、ハミングは、よく用いられます。長時間続けても、喉を痛める危険が少ないので、調子の悪いときの調整にも使います。

鼻のつけ根に響きがくるようにしてみてください。なめらかに、一音一音をつなげていくことです。口は最初は閉じて、次に少し開いて行なうとよいでしょう。

ハミングが苦手な人は無理にやらなくてもよいでしょう。ナ行、マ行の音を使いましょう。

 

[声を柔らかくする]

次の音で練習しましょう。

ンガングンギンゴング(ガ行は鼻濁音)

ナネニノヌノナノ、ンナンネンニンノンヌ

マメミモメモマモ、ンマンメンミンモンム

 

〇裏声とファルセットについて

 

音声学上では、声区という考えがあります。これは低声区、中声区、高声区と三つに分けます。低声区を胸声区、高声区を頭声区と二つに分けている場合もあります。さらに、仮声区=ファルセットというつくり声を、その上におきます。

ファルセットとは、falsettoで、これはfalse、嘘の、間違った、偽の、といった意味です。ヨーデルとかハワイアンでおなじみの声です。

一般的に、裏声といわれているものも、いくつかあります。

 

・響きを頭に逃がし、頭の一部から出ているように聞こえる声

音色はぼやけて、声の方向性も厳密にはコントロールできないものです。強くはできません。とくに、日本人のアマチュア、ママさんコーラスなどによく見られます。

 

・地声と裏声の間のような声

半裏声と言えます。しぜんな呼気だけで小さい音を身体で出せます。身体は、脱力した状態を保ちます。息の支えを乱さないように少しずつ大きな声にしていく練習をしていくとよいでしょう。

 

・裏声をやや強めたような声

シャープな響きとなり、強く出すことができます。高音域と中音域の境もスムーズに、調節できるようになります。

 

〇ファルセットの難しさ

 

よく歌を歌うときに、腹式発声のことをいわれると思いますが、それは声の聞こえがよいということ以外に、音が安定するのです。喉の筋肉だけでもピッチを変えようとすれば、変えられるのですが、逆にちょっとしたことで変わってしまいます。肺からの空気流で音を変える場合は、お腹で支えるので、安定して同じ音を出せるのです。

ファルセットというのは、喉の筋肉を使うので、ふらつくことが多いのです。ファルセットにすると、音が安定しないということは、よくあることだと思います。逆に、ファルセットで歌いこなせるということは、高度なテクニックだといえるのです。

黒人のファルセットがなめらかなのは、黒人の筋肉を見てもわかるとおり、喉の筋肉もしなやかなのではないかと思います。個人差があると思いますが、声帯も強いし、体格、身体の柔軟性の違いもあるでしょう。

 

・ヨーデル、ファルセットの声

地声も出ているが、それよりも高い声が出ている。声帯の筋肉が張っている状態でこういう声を出すと、筋肉が収縮する。

「よい声になれるヴォイストレーニング~声の科学」 Vol.13

〇喉声と鼻声

 

声には、楽器である身体の出口から分けて、喉声と鼻声の2種類があります。鼻声とは、風邪をひいて鼻が詰まっているときの声、鼻をつまんで出したときの声です。要するに、鼻腔を通さずに出した声で、鼻を使わない声が鼻声なのです。喉声とは、鼻と口を使った声全般のことです。

 

〇鼻にかかりことばがはっきりしない

 

鼻にかかるのがあまりにひどい場合、鼻の病気(蓄膿症、アデノイド)かもしれません。耳鼻咽喉科にいってください。

すぐに鼻にかかってしまう人は、鼻にあまり抜けないように意識してください。「ナ」を出した状態のように、軟口蓋が下がっているのです。(開鼻声)

それに対し、鼻づまりのような声(閉鼻声)は、その逆のことが起きているのです。

ことばが言い切れずしどろもどろになっている人は、はっきりとことばを言い切るトレーニングをしましょう。

 

・鼻にかかる声、鼻づまりの声

一般的に鼻声というと、鼻から出てくる声と思うが、日本語では、鼻から出てこない声のことを鼻声という。鼻で共鳴されて出てくるのは、3000ヘルツ以上の成分が出ない。

 

・鼻に抜ける声

高い周波数成分が鼻から出ていることがわかる。ことばのフォルマントというのは、3000ヘルツまでは何を言っているかというのはわかる。「子音」は高周波なので、これがきれいに出るとすっきりと聞こえる。(「さしすせそ」がきれいに出るとさわやかに聞こえる。)

 

〇イキミ声、つめた声を直す

 

イキミ声は、浪曲の浪花節、落語漫才の上方、河内音頭の特長です。出産のときのイキんだ声のように、喉をしめつけ、胸も圧迫します。

トレーニングでは、舌根があがらないように、指やスプーンを入れておさえさせるトレーナーもいます。

しぶい声は、時代劇の侍の「拙者は」という声です。これも、喉、あご、胸に力が入っています。

つめた声というのは、浪曲声、荒れた声、ドスの効いた声を想像してください。口をあまり開かず、喉を押しつける声です。

発声障害なら治療する必要があります。声の使いすぎ、空気の悪いところで声を出すこと、飲みすぎ、たばこの吸いすぎも、原因となります。これらを治すには、喉の力を抜くことからです。口先に声をソフトにもってくるイメージにしてください。

舌が邪魔したり、あごしか動かしていない人、舌が長いことでそうなる人もいます。こういうときは、舌の動きをトレーニングしましょう。「タカラ」ということばを繰り返すとよいでしょう。

 

・だみ声

日本独自の歌、声明、義太夫、長唄、浪花節などには、ほぼすべてだみ声が使用されている。倍音、すなわち高調波と息の摩擦などによるノイズ音がたくさんのっている声といえる。

だみ声であれば高調波がずっと上のほうまでに伸びていく。

 

〇頭のてっぺんに響かせたキンキン声をやわらかく

 

声も声帯のところだけでは、喉頭原音と呼ばれる、鈍い音にすぎません。この喉頭原音が声道に響いて、話し声や歌う声となるのです。共鳴は、声を伝えるときには、なくてはならないものです。

音は空気中を伝染するのですから、声の響かせ方は、重要な要素となります。声量のコントロールや言葉のメリハリを決めていきます。この響きを邪魔して活かしきっていないなら、もったいないことです。

声がキンキンと響いている人は、大半は頭(顔)の方だけに無理に響かせているからです。自分には快感でも、浅く広がった響きは聞き苦しいし、ことばが聞きとりにくくなります。響きがうるさくない人のは、深い声を柔らかく扱っているからです。

一昔前の日本のおかあさま方が、電話に出たときのようなキンキンする声は、聞いていて疲れるものです。これは、ていねい、上品なイメージの場合もありますが、度を過ぎると不快です。

とはいえ、逆に地声、生声をストレートに響かせて使う人にも、疲れさせる印象になる人がいます。度を超えないように録音を聞いて調整しましょう。

 

・キンキン声

基本周波数が高く250くらい。かん高い声の成分は4000ヘルツくらいのところまで出てくる。通る声以上に、耳に障る声。

「よい声になれるヴォイストレーニング~声の科学」 Vol.12

〇息苦しい声をなめらかな声に

 

相撲を取り終えた力士のインタビューでは、「ハアッハアッ」と息の上がった状態の声です。息が安定しないと、とても聞き苦しくなります。急激な運動をしたあとに、体を曲げ、肩を上下し胸が動くのは、体が酸素を急に取り込もうとしているためです。こういうときに、間に合わないために胸式呼吸が行われるのです。しかし、これは吸気優先であり、吐気でコントロールするには不適切な状態といえます。

しかし、平常でも息苦しく話す人がいます。「息苦しいならもっと吸えばいい」と考えがちですが、そうではありません。この場合はうまく吐くことができていないのです。

息は吐いたら入ってくるのです。ですから、あなたの声が息苦しく聞こえるのならば、問題は呼吸と発声(声立て)です。息が無駄に抜けているときは、口や舌に気をつけることです。息のコントロールカをつけ、長い息を使えるようにしましょう。腹筋や集中力も問われます。

 

・息苦しい、息のつまる、低くこもる声

アタックの部分に異常な成分が出てきている。声道を力でしめているのが原因。力士がいつも息苦しく、しめつけた声を出しているのは、取り組みのとき、異常な力を入れながら掛け声を出すので、それが普通の声の出し方になってしまったという見方ができる。

 

〇日本人はかすれ声が好き

 

日本人は、森進一さんや八代亜紀さんのようなハスキーな声を好みます。

尺八の渋い音色は、竹林をわたる風の音を理想としているそうです。風の音や虫など、しぜんの音は、かすれています。日本人が四季激しく移ろう日本の風土で育んできた感性、木や紙で作った家に聞こえてくる、風や雨の音に敏感に暮らしていたからでしょう。

日本人の好む音色に、サワリといわれるものがあります。これは、琵琶などで、弦の下にある小さな柱(フレット)に弦がかすかにふれ、うなりが生じることです。逆に日本人の浅い声の歌がどうして一つの音色でそろっていないのに、日本人には通じてしまうのかという理由にもなりそうです。

肉食の欧米人は立体的な顔であごが発達し、厚みのある体をしているため、体全体に共鳴させて発声します。日本人は、薄い小さい体のため、喉で絞って出していったのかもしれません。日本人の声は、喉の奥から上の方へあがっていくようで、カン高いのです。

 

〇息のもれる声、かすれる声

 

典型的なのは、明石家さんまさんや久本雅美さんの声です。職業上、喉に炎症を起こし、それが慢性化しています。声がガサガサしているときは、大体、喉の粘膜も荒れている。ノイズが出ている。これは、喉に炎症を起こし摩擦音が発生している状態である。粘膜にも異常がある。カラオケポリープというのは、声帯が炎症し、そこが腫れてポリープができてしまうこと。無理に喉を使いすぎるために起こる。日頃から、声をあまり使っていないのに、カラオケなどでいきなり声を張り上げたり、大声を出したりすると、炎症を起こしやすい。一曲歌ったら、喉を休ませたり、喉飴などで喉の粘膜を保護することが大切です。

 

〇かすれない声にしよう

 

息が効率よく声になっていないと、無駄に息もれしてしまいます。早く息がなくなって声が続かないということになります。呼気消費量が多いのです。これは声立て(息から声へ変換する)の問題です。

まずは体から大きな流れをもって、息を出すイメージにし、すべて効率的に声にすることです。いくら大きな声でも、かすれたり喉に詰まったりしていては、声は伸びやかに聞こえません。そういうときは、小さな声でことばを言うところから始めてみてください。少しずつ、大きな声にしていきます。かすれたら、やめて戻してください。

 

〇年をとるとノイズが出る

 

声にノイズが出ると、実年齢より上に見られがちです。声道の中の凹凸によって気流が渦を巻き、顔のしわと同じで、あればあるほど、高齢の声になってしまいます。

声の年齢を計る場合は、同じ音を続けて長く出してもらいます。口の形を同じにして、声を一定に伸ばしたときに、同じような一つの波形が出てくると、声が若いということになります。

年をとると、神経の伝達系や筋肉が衰え、口の形が一定でなかったり、空気の流れが一定ではなくなってくるので、 一つの波長と次の波長のところで、全く波形が変わってきます。その差を見ていくのが、年齢を調べるときのポイントです。つまり、声のノイズ成分が多くなると、年寄りの声に近づくということです。

また、こういう声の波形から、どういう職業の人かということがわかってきます。いつも大きな声を出していたりすると、セリの仲買人や八百屋の人とか、喉の炎症があれば、煙草を吸う人とか、そういう予測がつけられます。

 

・ハスキーな声

喉をしめがちである。データからもノイズが出ている。若干、高い周波数が少ない傾向があるが、一般的にハスキーな声というと、日頃から喉でしめた声を出しているといえる。

 

〇声の老化を止める

 

自分の声の中には、年齢が若い成分が出ている部分が必ずあるので、その声を重点的に使うようにします。どういうしゃべり方であれば、若く聞こえるか。何をしゃべっているところが、一番若いのか、そして、なぜそこがよかったのか、ということを追求していって、そこを使うようにすることです。一人ひとりによって違ってくるのです。

明石家さんまさんの声は、60代半ばくらいの声です。ノイズ成分が多く、慢性的な炎症が起きています。さんまさんの場合、引き笑いのときが、一番ノイズ成分が少なくて若いのです。ですから、そこを使うようにと、おもしろおかしく言っていたわけですが、さんまさんは、いわゆる声の使いすぎなのです。一番よいことは休ませることです。

人間というのは、一度引っかいたところを、引っかき、また同じところを何度も何度も引っかくということをやります。するとそこが慢性化してしまうのです。いわゆる痔と同じです。また同じところが切れてしまう。結果的に切れている同じところを切って、また新しい組織を生み出さなくてはいけないのです。

声の場合も、声の炎症を抑えるしかありません。そのためには、漢方薬や花梨のエキス、のど飴などもよいでしょう。

 

〇細い声や弱々しい声も個性になる

 

声は個人差の大きいものです。使う声量や声域、声質もさまざまです。声が太いと力強く、声が細いとどうしても弱々しく聞こえるものです。しかし、声が細い人は、それが自分の声が本来もっている個性なのですから、そこに磨きをかけるつもりでトレーニングをしてみることです。

トレーニングでは、声が大きくなる人もあまり変わらない人もいます。もともと声の小さい人は、無理に大きくするよりも大切なことがあります。細くてもよく通り、張りのある声であれば、充分に通用します。

もちろん、あまり声を出してこなかった人は、目一杯チャレンジしてみてください。いくら太い声で声量があっても、無理して出しているうちはよくありません。大きな声の人は、大きさに頼って雑なままになりがちです。

「やってみて、大きく変わることも、あまり変わらないこともある」のです。やってから考えたらよいでしょう。それも自分の声の個性を知ることになります。

 

〇タカタのトークの秘密

 

TVを見ている人の購買欲を高め、思わず買わせてしまうという、ジャパネットたかたの高田明社長のトーク術には、どんな秘密が隠されているのでしょうか。

彼の声を分析してみると、低い声から高い声まで、周波数成分が幅広く出ていて、表現力が豊かといえます。しかも、人間の耳の感度のいい周波数が強く出ているのが特徴的です。主婦が掃除機をかけていても聞こえるくらいに、よく通る質のよい声なのです。

加えて、売り文句のキーワードをゆっくり印象づけて繰り返す方法は、振り込め詐欺の手法にも共通しています。

「よい声になれるヴォイストレーニング~声の科学」 Vol.11

〇大きな声を出すために喉は鍛えられるのか

 

日本人ほどカラオケやスポーツの応援、演説などで、すぐに喉が痛くなるような声の弱い国民はあまりいません。ふだん大きな声を出したことがないのに、無理をして限度をわきまえずに、声を出し続けるために障害が起こるのです。この頃は少なくなりましたが、カラオケでの喉の異変は、国民病のようなものでした。(急性声帯炎などのはれ)

理想的な発声は、喉への負担を最小限にします。「喉がすぐに痛むのは、よい発声ができていない」ということになります。「再現性こそが上達の前提」です。

声帯(喉)ではなく、お腹から声を出す感覚で発声することです。実際に、声帯に息を送り出し、声をコントロールしているのは、お腹です。喉をリラックスさせようと思っても、喉そのものをコントロールすることはできないからです。

喉が痛くなったから、せりふや歌も伝わらないとは必ずしもいえません。ひずんだ声でこそ、伝わるものもあります。でも、その痛さゆえ伝わる気がするというのは、よくありません。痛みや不快感は、発声への警告なのです。

 

・つぶした声(圧迫起声)

かつては、選挙戦後の政治家の声は、炎症を起こし、つぶしたような声になりました。声道内の空気流が渦を巻いている。声帯の周りが炎症を起こしてざらざらになり、ノイズ成分や摩擦音が出てくるのです。

 

〇かすれた声は喉に悪い

 

悪い状態で声を出しすぎると、喉に炎症をおこしたり、ポリープができたりしやすくなります。この場合は、声(声帯)を休めて、治るのを待たねばなりません。そのまま使い続けると、さらに悪化してしまう場合もあるので注意してください。声がかすれるという場合、声帯が発声障害を起こしているという可能性も考えられます。

つぶした声の方が感情が伝わりやすいし、声もコントロールしやすいという人もいますが、決して勧められません。つぶした声は、声質が悪く、声量、声域も狭くなり、不しぜんで細かなコントロールができにくいものです。しかも、長く休めると、もとの細い声に戻ります。つまり、何ら身についていないのです。楽器を壊しているなら、不利になるばかりです。将来の不安も大きくなるでしょう。

ですから、喉をつぶそうとしたり、無理にからした声を出そうとしたりしないことです。充分に声を休めたあとに、ファルセット(裏声)や低い声、小さな声やハミングができるかどうかでチェックするとよいでしょう。

声は喉だけでコントロールできるものではありません。

私は、声がよくても悪くても「鍛えられていて再現性があればよい」と判断しています。しかし、一般的なヴォイストレーニングでは、調整中心ばかりで、そういう鍛え方をするのは稀です。

「声は声そのもので勝負するわけではない」のですが、「持って生まれたものを充分に活かすこと」です。「自分のやりたいこと、好きなことと、できることは(高いレベルでは)違う」ということを、知ってください。

声の使い方がよいとは、楽器(身体)の機能の活かし方から問われるべきでしょう。喉という楽器を、その原理にそって使わなくては、発声も本当にはよくなっていかないのです。

声量を増やすために、喉を無理に鳴らそうとしている人をよくみかけます。しかし、声量は共鳴のさせ方で変わってくるもので、喉をいかに強く鳴らすことができるかではないのです。

 

〇聞きやすい声、通る声

 

通る声とはいったいどのようなものでしょうか。まず、イメージが湧きやすいようにいくつか例を挙げてみましょう。

日本でいえば、たとえば戦国時代などの武将やお坊さんの声が挙げられるでしょう。もちろん、当時の声が録音されて残っているわけではないのですが、文献などから、彼らがいかに大勢の人を前に大きな声を使っていたかがわかります。

当時は、マイクや拡声器といった代物が存在しないので、より遠くへ、より多くの人に情報を伝えるために、通る声を会得していたと考えられます。そうでなければ、一人前にはなれなかったでしょう。

通る声は、人間の耳の感度のいちばんいいところにその周波数が集まっています。2500ヘルツ〜4000ヘルツのところです。

通る声には欠かせない要素があります。まず、腹式呼吸での発声ができていること、すると声の周波数は、25003000ヘルツあたりに集まってきます。腹式呼吸での発声の場合、肺からの空気を一定にコントロールして声帯を振動させるので、スムーズに発声するため、周波数が安定してくるからです。

この周波数帯は人間の耳がもっとも感知しやすいところです。これを腹式呼吸ではなく発声した場合では、空気の流れが乱れ、声帯の振動が一定にならず、周波数も不規則に乱れるのです。

この聞きやすい周波数の声と50ヘルツくらいの声とを比べると、人間の耳の感度では聞こえ方が300倍くらい違ってくるのです。

つまり、ウグイスの鳴き声は300分の1のヴォリュームでも、50ヘルツの声と同じくらい聞きやすい音になります。聞きやすい声というのは、それだけで遠くまで響かせることができるのです。

 

〇小さくても通る声

 

小さい声なのでエネルギー量は小さくても、成分をはっきりとわかるようにします。「あ」を「あ」と聞かせる声の周波数成分(フォルマント)がきれいに出ていると、暗い声のときのように、わかりにくい感じにはなりません。レベルとしては同じくらいでも、よりはっきりと聞こえる。いわゆる通る声です。

重要なのは、声が高周波まで伸びていることです。高周波の成分を含んだ子音をきれいに発声しましょう。言葉の音節を発しているリズムで、音節のひとつひとつを一定のリズムに乗って発していけば、テンポよく聞こえます。

二つめは、周波数のリズムです。声の高低のリズムと言い換えることもできます。ビートという意味でのリズムに乗って言葉を発していたとしても、発せられた言葉の周波数に変化がなければリズミカルな話し方には聞こえません。基本周波数の上がり下がりにリズムが必要なのです。これによって、聞く側に適度な刺激を与えられるからです。

三つめは、音量、声のヴォリュームのリズムです。言葉を発するうえでの強弱です。強調するところでは音量を上げ、あまり強調する必要のないところでは少し小さな声で喋るという変化をつけることです。こうすると、聞き手に声や話し方が魅力的なものに感じられるようになります。

 

〇振り込め詐欺にだまされるのは、なぜ

 

通常、人が話すスピードは1分間に400語ですが、振り込め詐欺は1分間に530語と速いです。この早口に、被害者は、まずパニックに陥ってしまいます。

530語というのは、人間が緊張したときの心拍数と同じです。早口を耳にすると、心拍数もそれに同調して上昇しがちなので、交感神経が高まり、身体が興奮し、脳も混乱してしまうのです。

「事故」「100万円」など、キーワードとなる言葉で声が高くなります。同じ言葉を繰り返すのも、この手の犯罪の特徴です。

 

〇声で嘘を見抜く

 

嘘をついている場合、緊張したり、動揺すると、声帯から発する基本周波数に変化が表われます。言いにくいことをごまかそうとすると、基本周波数が乱れます。興奮してくるとさらに変化が表われ、基本周波数は倍くらいの数値で上下することもあります。

人間は、一精神状態が興奮していくと、身体の筋肉も緊張します。それに伴って、声帯の振動音も高くなっていくため、振動数の変化、つまり声帯の張り具合から、いつ緊張したのかもわかるのです。つまり、嘘の発見などにも使えます。

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