「ヴォーカルトレーニングの全て」 Vol.34
〇ステージ活動へ(音にのせて歌い、表現する)
ライブ・ステージ実習という実践的なレッスンをしています。3ヵ月に1回行なっています。1曲に半年くらいは費やして、充分にトレーニングして欲しいものです。何曲、歌えるかよりも、1曲をいかに深く歌うかということが先にあるべきだからです。
それとともに選曲からライブの終了後まで、ライブそのものを目的とするのでなく、自分の力をいかに最高に発揮できるようにコンディションを整え、本番前までのトレーニングやリハーサルで、何をどう学んだか、それが本番ではどう出たのかをしっかりと反省する契機としての役割もあります。
お客さんの前ですから、視線や態度からはじまって演出面、舞台や歌での計算なども必要となってきます。伴奏者とのコラボレーションも含め、日頃からの取り組みがトータルに問われる場なのです。
〇ステージ・マナーを身につけよう
ステージでは、視線を観客に合わせることです。やや後方のまんなかの人を見るとよいでしょう。きょろきょろしたり、たくさんまばたきするのは、やめましょう。
観客の視線は、恐いほどステージ上のあなたの一挙一動に注がれているものです。意味のない動きは、すべて目立ってしまいます。コードを持ったり、マイクを持つ位置を頻繁に変えたり、マイクを持っていない手をやたらに動かしてはいけません。イントロ、間奏の間もいつも何をやっているのかが伝わるようでなくてはいけません。間奏なのにマイクを口の前においたままでは、歌詞を忘れたのかと思われてしまいます。
撮ってチェックするのが一番よいでしょう。慣れぬ動きをするくらいなら、あまり動かないで歌に専念した方がよいのです。ステージで動きたければ、日頃から動けるように練習しておきましょう。
歌うまでに半分以上は顔つきや姿勢で実力を読まれていると思ってください。つまり、ステージの袖から出てくるときの足取りや、曲を待つ間、MCも含めて、すべて自分で演出します。自分が今、どのようにお客さんに見えていて、どう思われているのかという状況を常に意識して、直ちに次の動きを作り出すことです。
それには、なによりもよいステージをたくさん見ることです。そして、よいところを必ず真似てみることです。ライブのビデオを見ながらでもよいでしょう。急に本番でやろうとしても無理です。友人に注意してもらったり、ビデオによるチェックをしてみてください。
歌い終わった後は、ニッコリとすること、おじぎをすること、ゆったりと誇らしげに袖に引っ込むことを心がけてください。人前に出ている間は絶対に気を抜けないのです。失敗しても、うまくいかなくても、そんな素振りは見せないことです。いそいそと慣れぬ足取りで引っ込んだりしては、台なしです。
〇自信をもって全力投球を
だらだらと歌っているだけでは、誰も魅きつけられません。歌詞とメロディを自分なりに徹底的に理解した上で、ノリを出し、押すところは押し、引くところは引いて抑揚をつけて歌うことです。調子がよかろうが悪かろうが、常に後にひけない芸人根性でやり通すことです。絶対に逃げてはなりません。
気分的に落ち込んでいても、スランプでも、そんなことは観客にはみえなければよいことなのです。常に全力を尽くすことです。これを怠ると、何のためにやるステージかわかりません。ヴォーカリストは孤独なボクサーみたいなものです。
そのためには、絶対の自信をもってやること、これしかありません。自分が世界一、歌がうまいと思ってください。そう思って努めることがわざわざ足を運んで見に来てくれた観客へのマナーなのです。
「この曲は自信ないのですが…」「調子がイマイチなのですが…」そういう言い訳をしないことです。常に勝負するのです。
観客に甘え、観客がそれを許すようなステージからは、何も生まれてきません。足を踏みならされ、どやされ、ブーイングがきて、拍手も来ない。楽屋でもメチャメチャに言われるのなら、ありがたいと思うべきなのです。そこで、奮起して何くそと思った方が、結果として上達するのですから。
常に、今よりも明日に向かって、しかし、今に全力投球して、足らないものを補っていくようにしてください。
〇テンションをハイに保ち、お客を飲み込め
ステージでは、自分が全世界の支配者だと思ってやることです。左手を動かせば世界の半分が、右手を動かせば残りの半分が動くと思ってやることです。
どうしてその人が歌おうと思ったのか、そして歌っているのか見ていてわけがわからないステージほど、つまらないものはありません。そういう人は歌っている最中も、歌い終わった後も、印象が薄く記憶に残りません。存在感がないからです。存在感は、ヴォーカリスト、人前で何かをする人には、一番、大切なものなのです。
ステージは、今まで自分たちのやってきたことのすべてを出し切るところです。考えていること、思っていること、伝えたいこと、そして、言葉で表せない情動を思いっきりぶつけて観客に問うところです。うまいとかへたとかいうまえに、ヴォーカリストの熱意や情熱が伝わらなくてはなりません。
そのためには、原則的には明るく、ノリまくってやることです。観客をノセて、楽しませて帰ってもらうのがヴォーカリストのサービスです。
自分たち仲間うちのバンドだけのノリだけでよいなら、スタジオで演奏していれば充分です。お客はビートのきいた音に、歌声に、演奏に酔いたくて来るのです。すべての人を自分のふところに抱き込むようにしましょう。観客が多かろうが少なかろうが、のみ込まなくてはいけません。
そういうことに慣れるために、日頃から、客席が空っぽでもよいから、大きな会場のステージのまんなかに立ってみるとよいでしょう。だんだん慣れてきます。本当に恐いのは大きな会場よりも、観客の顔がすべて見える小さなステージなのです。お客の少ない小さなステージを大切にしてください。
〇ステージのためのヴォイストレーニングとは
ステージでは自分たちの演奏に集中し、歌では歌うことに専念します。そのために、ヴォイストレーニングという時間を別にとって、声に全神経を傾けるのです。ステージや歌のときに声を考えなくてもすむようにヴォイストレーニングがあるのです。もちろん、ヴォイストレーニングをするから声がパワーアップして、うまく使いこなせるようになり、歌やステージがよりよくなるのです。
ステージでは、ヴォイストレーニングの発声に歌を合わせるのではありません。それでは本末転倒です。自由に歌ったりシャウトしたときに身体から声と息が離れずについていれば、ヴォイストレーニングはそこで、充分に生かされているのです。歌で思い描いた通りの表現をするのに、必要な力をつけるのがヴォーカルトレーニングの役割だからです。
〇ヴォイストレーニングは、ステージやレコーディングにも大切
レコーディングで最も大変なのが歌入れです。歌詞、音程、メリハリ、声質、ノリ、リズムとすべてをチェックしなくてはいけません。
その日のうちに終わらせるつもりでスタンバイして、通常は通して3~4回歌います。最近は、その録音からよい部分を選び、悪い部分をリテイクして1曲を作り上げることが多いようです。
どうしても調子が出ないときには、何度もやり直すことになります。最悪の場合は、翌日の録り直しとなりますが、手間も経費もかさみます。プロモーションの期間も必要なので、何週間も待つわけにはいきません。こういうときに、いつでも自分の実力を最高に発揮するためのヴォイストレーニングのありがたさがよくわかります。
ステージにおいても体調がどうあれ、キャンセルはできません。出番前に声の出やすい状態にもっていくこと、休憩中に喉の疲れを取り、次の日に悪い影響が残らないようにすることは、大変に重要なことなのです。プロとなったら、なおさらヴォイストレーニングは大切となります。より高い目標へ向かうのと同時に、ハードなスケジュールの中で、できる限り最高の歌を歌うためにヴォイストレーニングは欠かせません。
〇録って聞いてみること
自分の歌を録って、何度も聞き返しましょう。自分がどのような声を出したとき、他の人にどのような感情を生じさせるかがわかれば、大したものです。すぐれたヴォーカリストは、すぐれた聞き手なのです。
自分が歌っているときは、内耳から、より大きな声が聴覚に入りますから、客観的な声の判断はできません。他の誰にも聞こえない声を聞いているのです。これを第三者と同じように聞くには、マイクでスピーカーから出力させる方法と、録音再生して聞く方法があります。ともにバンドなどをつけずに、アカペラでやってみることをお薦めします。
最初のうちは、バンドの音量が大きいと、どうしても必要以上の声を出して乱れることが多いのです。ですから、バンドだけのカラオケを作ることも薦めます。譜面の読めない人は、ピアノ・ソロのメロディ・カラオケを作ってもらうとよいでしょう。
自分の声というのは、慣れてくると妙にエコひいきしてしまって、よいところばかりを見つけたくなります。そのため、音程、リズム、発音などの基本的な点で甘くなってしまう人が多いようです。こういうところは、厳しいチェックをして直していかないといけません。
間をあけて聞くと、自分の欠点が客観的に見えてきます。よいステージを見て、自分の音楽の勉強を積み重ねておくことによって、客観的に評価できる力と、一段上のレベルでの音楽の捉え方ができるようになります。






