3-2.歌の話

「ヴォーカルトレーニングの全て」 Vol.17

失われた声を取り戻す心を感じ声に表現する 

ヴォイストレーニングメニュー100

31 息の文字

 息で首や口先の方向を少し変え、文字を書く。

他の人の手に書いてあてさせる。(目をつぶってもらう)

32 声文字

 声を出しながら、両手を一本の筆先にしてひらがなを書く。

33 話しかけ

 後ろから、声をかけて話しかけ、その人の名前をあてさせる。

34 かごめかごめ

 昔の遊び方通り、童心にかえり、大きな声で。

35 通りゃんせ

 昔の遊び方通り、童心にかえり、大きな声で。

36 尻とり歌

 昔の遊び方通り、童心にかえり、大きな声で。

37 身体文字

 ひらがなを大きな声でいいながら、一息で、その文字の形を造る。なるべく大きく造る。

38 喉なで

 声を出しながら、喉をなでる。

39 あご押し

 声を出しながら、前からあごを押す。

40 息の柱

 声を出しながら、息の柱のなかにいる自分を意識する。

41 人工呼吸

 鼻をふさぎ、お腹を押して、声を「あー」と出す。

42 あいさつ

 「コンニチワ」「オハヨー」「アリガト」「オッス」と元気よくいう。

43 姿勢の変遷

 四つんばいから少しずつ、身体を起こし、猫背を経てまっすぐ立つ。そこできちんという。力を抜いてだらしなくいう。

44 態度の変容

 怒、悲、哀、喜を表情と態度だけで表わす。

45 声の芝居

 社長、受付、クリーニング屋、おじいさん、奨学生など、いろんなキャストを声で演じわけてみる。

46 声のキャッチボール

 遠くへ声を「ポーン」と飛ばす。声の野球もできる。

47 母音化

 ことばを母音だけにする。

 「とおい はるかな むかし」→「オオイ アウアア ウアイ」

 「遠く伸びていく 広がり」→「オオウオイエイウ イオアイ」

48 朗読劇

 日本語の音のひびきを感じる。

 「みちのくの 山のかなたの みずうみの底に ひとりの 主がすんでいた」

49 火けし

 「フゥ フゥ フゥー」

 片方で「ボウボウ」と火を起こす人がいるとよい。

50 犬の遠吠え

 「ウォーン ウォーン ウォーン」

51 紙ふうせん

 「パンパンパン…」と手ではじきながら。

52 実況中継

 実況のアナウンサーをまねる。

競馬、サッカー、プロレス、野球、相撲。

 

 

53 死体(ゴロリンゴロゴロ)

 

 一人が寝ころがり、一人がころがす。

 

 

54 上体倒し

 

 二人一組(身体を感じる)

 

 

55 尺取り虫

 

 腹ばいで、前進、後進(蠕動)

 

 腕だけで、前進、後進

 

 

56 尻で歩く

 

 いろいろな動きで足を使わず移動してみる。

 

 

57 わかめ運動

 

 足先だけ固定し、ゆらゆらと、波(流れ)を感じてゆれる。

 

 

58 あやつり人形

 

 頭に糸がついていると感じて、ブラブラと手足、身体を動かす。

 

 

59 スイミングの体操

 

 肩を中心に両手を逆方向にまわす。

 

 

60 スリ足

 

 スリ足で、できるだけ早く歩く。

 

 

61 ひざ歩き

 

 ひざで、できるだけ早く歩く。

 

 

62 ぬき足さし足しのび足

 

 こそ泥のように音をたてず歩く(ことばを発しながらでもよい)。

 

 

63 どじょうすくい

 

 名物どじょうすくいの通り。

 

 

64 相撲とり

 

 四股、股わりなどをやる。

 

「どっこいしょ」「オーラ」「こりゃさ」「ごんす」など、ことばをつけて。

 

 

65 天使の声

 

 天井に向けて「ラララ」「ホホホ」と明るく呼びかける、悪魔の声にならぬように。

 

 

66 あくび

 

 空気をすいこみ、吐く。あくびのまま、「あーぁ」とあくびをかみ殺しながら「あふうん」と声を出す。

「ヴォーカルトレーニングの全て」 Vol.16

11.楽器の音色を聞く

 人の心を動かす曲の進行を味わうトレーニングです。

楽器を変えて、聞いてみてください。

 1. ピアノ

 2. ギター

 3. チェンバロ、ハープ

 4. トランペット、サックス

 5. マンドリン、チター

 6. 尺八、フルート、クラリネット

 次にどんなポピュラーの曲でもよいですから、各パート(ギター、ベースなど)に耳を傾けてみてください。

12 リズムとコードを聞く

 ドラムやギター、ベースに耳を傾けて、リズムを聞いてください。自然に身体をのせて、リズムを感じてください。身体を動かしてみてください。

 コード(和音)は、それぞれ独特の響きを持っています。各コードをゆっくりと弾いて、それを感じましょう。コード進行の美しい曲を聞くとよいでしょう。

たとえば、「ドレミソ、ドレミソ♯、ドレミラ、ドレミファ」の違いを感じることから、始めるのもよいと思います。

13 罵倒することばの力

 汚いことばの迫力を学びましょう。

 「死んじまえ、てめえー」など、好きなようにつくって大声でいってみましょう。

 「帰れ、帰れ」

 「倒せ、倒せ」

 「引っ込め!」

 「くたばれ」

14.人に対する呼びかけ

 これは、香具師の口上のようなものをトレーニングするとよいですが、もっと身近なところから、例をとりましょう。好きなTVコマーシャルでもよいです。

 「ちりがみ交換」

  おなじみのちりがみ交換でございます。

  ご家庭でご不用になりました

  古雑誌、古新聞などがございましたら

  多少に関わらず、ご利用ください。

 「笑っていいとも」

  友だちの友だちは皆ともだちだ

  世界に拡げよう 友だちの輪

15.身体を感じる

 力一杯、立ってみます。そこから、力を抜いて立ってみます。

 次に片足で立ってみます。さらに、目をつぶって立ちます。ゆっくりと身体をゆすります。そこで、片足ずつ、力をかけてみましょう。

 今度は少しずつ息を吐きながら、頭を下げます。そして、次に少しずつ息を吸いながら頭を上げます。重力を感じてください。重力とは、自分の身体を下に引っ張る地球の力のことです。

 次に、思いっきり、息を吐きます。口のなかから、肺から口につなげて息を吐きます。お腹から、お尻から、そして最後に足の裏から息を口まで通じて呼吸してみましょう。

 さらに二人で背をあわせ、片方の人がもう一方の人を背負ってゆさぶりながら、共に「アーアーアー」と声を出してみましょう。

※その他、いろんなトレーニングのきっかけとなるコンセプトを掲げておきます。自分なりにイメージをふくらませ、活用してみてください。楽しみながら、身体、息、声を発見し、感受する心と肉体を鍛えていってください。

16.カニ

 ブクブクいいながらガニ股で歩き回る。

17.金魚体操

 足を持ち上げ、左右にゆすりながら、声を出す。

18.ポンプ

 「フー」「シュー」「シュワ」と前屈するとともに声を出す。

19.汽笛

 頭に「ポアー」「ポー」。

20.手裏剣投げ(手裏剣よけ)

 「シュワ」「ハッ」「サッ」。

21.剣道

 「メーン」と踏み込みながら。

22.ため息

 「フゥー」「ハァー」「ア~ア……」。

23.ブリッジ

 腰をもちあげて吐き、おろして吸う。

24.掌を太陽に

 「てのひらを太陽に透かしてごらん」と歌を歌いながら、小さくなった姿勢から「エーイ」と飛びあがる。

(「てのひらを太陽に」詞/やなせたかし 曲/いずみたく

C 1995 by All Staff Music Co., Ltd.)

25.ひねり

 身体をひねりながら、声を出す。

26.ダラダラ

 両手を下げ、「ダラダラダラダラ」といいまくる。

27.腕立て

 「1234」と大声でカウントしながら、腕力の続くかぎり。

28.反復飛び

 「1234」と大声でカウントしながら、脚力の続くかぎり。

29.エアロビ

 足あげて吸い、下げて吐く。

30.飛行機

 「ブーン」と両手を拡げ飛びまわる。空中戦もOK。

「バババババン」。

 

「ヴォーカルトレーニングの全て」 Vol.15

失われた声を取り戻す心を感じ声に表現する 

ヴォイストレーニングメニュー100

 ここでは、声のうまく出ない人や初心者、あるいはグループ(劇団・声優など、声をプロとして使っていきたい人たちも含む)でのトレーニングとして、楽しく効果的な材料をご紹介します。うまく工夫して使ってください。

1.赤ちゃん泣きのトレーニング

 仰向けになって、赤ん坊のつもりで、泣き声をあげてください。いきなり、やろうとせず、赤ん坊の気持ちになり切るところから始めます。

嬉しい、笑み、寂しい、誰もいない、ぐすん……そこからべそをかいて、そして……「アーンアーンアーン」泣いて泣いて泣きじゃくって、すっきりとなるまで楽しみます。泣き声に感情移入して、酔ってみます。この感覚を取り出します。

 気が済むまで泣いたら、次の点をチェックしてみましょう。

 □両肩さがる

 □胸は拡げる

 □下腹ひっこむ

 □喉は開く

 この機会に思いっきり若返りましょう。発声については、あなたも赤ん坊なのです。そして、生まれたばかりのときのエネルギーを感じ、元気になりましょう。

 生まれたときから出発しましょう。大声で泣くというのは、訴えること、まさに表現です。横隔膜も活発に動きます。

 疲れを感じたら、静かに休みましょう。赤ん坊の泣き声くらいに、人の心に働きかける声を感じましょう。

2.喃語のトレーニング

 生まれてからしばらくすると、赤ん坊は、見よう見まねで大人のすることをまねし始めます。ことばにならないことばで、声を発し始めます。その時期のことばを喃語といいます。

 それでは、何か思いを伝えるために、どんな音でもよいですから、適当に組み合わせて、力一杯、表現しましょう。でたらめことばをぶつけるのです。仲間とやっても、鏡に向かってやってもよいでしょう。

 例)「フニャームアー」

「タララ」

「マームン」

     「ウー」

3.簡単なことば(母音)のトレーニング

 次のことばを一度、読んでみたあと、似たようなことば(母音中心)で、自分の気持ちを即席に表してください。

 アーアーアー

 エーエーエー

 イーイーイー

 オーオーオー

 ウーウーウー

 アーエーイーオーウ

 アエ アイ アオ アウ

 エア エイ エオ エウ

 イオ イウ イア イエ

 オウ オア オエ オイ

 ウア ウエ ウイ ウオ

 アエイ エイオ イオウ オウア

4.強いことば(子音)での表現トレーニング

 「ダダダーン」「バキュンバババ」「ビシャーン」「バボビン」など、子音を中心に、ことばを組み合わせて、自分の持つ気持ちを強い感情として表現してみましょう。

5.でたらめ外国語のトレーニング

 何語でもよいですから、その国のことばらしく発して、会話をしてみてください。お手本は、タモリ氏の中国語です。難しければYouTubeなどで、よくわからない国のことばを似たように復唱してみるとよいでしょう。

6.ちゃんとした外国語のトレーニング

 NHKなどの外国語放送をかけて、よく聞いてできるだけ大きな声で復唱してみましょう。自分の耳にきれいに聞こえ、まねしやすそうなことばを選ぶとよいでしょう。特にラテン系の言語、イタリア語、スペイン語などは、おすすめです。

7.英語でシャウトのトレーニング

 

 次のことばを格好よくシャウトしましょう。

 

 Yes

 

 No

 

 HeyHeyHey

 

 Yah

 

 Oh

 

 DuDuDuDaDaDa

 

 

ことばにします。

 

 OneTwoThree

 

 Dance

 

 Sing

 

 Laugh

 

 Long

 

 Moon! Maria

 

その他、考えつくままに、発してみましょう。

 

 

8.胸郭を拡げ、息を感じる

 

 動物のように四つんばいになってみましょう。

 

 1)背のなかに向けて息を入れます(吸気)。犬のように「ハッハッハ」あるいは「ハアーハアー」と息を吐いてみましょう。よくわからない人は、そのまま数分間駆けまわるとわかります。

 

 2)脇の下から胸(助間筋)を拡げる

 

 最初は、息を吸う感じがあるかもしれませんが、やがて逆に拡がった分だけ息が入ってきます(上胸部のみで入れるくせをとってください)。

 

 3)背骨のまんなか、腰のうしろに中心を感じられますか。

 

 

9.心を響かす音

 

 ものまねをしてみましょう。感性をとぎすましながら、イメージの風景を拡げてみましょう。太鼓や鐘の音などは、人の心に何ともいえぬ情緒をもたらすものです。人間太鼓、人間鐘になれますか。

 

 次の例にとらわれず、自分の好きな音に変えてみてください。

 

 太鼓のまね「ドーンドーンドーン」

 

 鐘のまね 「キーンコーンカーンコーン」

 

 

10.耳をすます

 

 ジョン・ケージに<433秒>という曲があります。4分半もの時間、演奏者はじっと座っているだけです。その間にザワザワと周囲から聞こえる音が、曲なのです。

 

 耳を澄まし、他の人の咳払い、足の床にすれる音など、いろんな音を感じてみましょう。

 

 いろんな場で、5分近く、沈黙して、耳に神経を集中してください。

 

 さらに、いくつか、普段はゆっくりとあまり聞いたことのない曲をじっくりと味わってみてください。

 

 1)沈黙

 

 2)日本の童謡を聞きましょう

 

 3)ゴスペルを聞きましょう

 

 4)オペラを聞きましょう

 

 5)グレゴリオス聖歌を聞きましょう

 

「ヴォーカルトレーニングの全て」 Vol.14

〇ポピュラーの声の基準 強い声、ハスキーヴォイス

 

 本当のヴォイストレーニングは、声としては完全に統一できるのに近いところまで試みます。ポピュラーのヴォーカリスト(特に、ジャズ、ブルース、ゴスペルなど)は、芯のある声で歌っていることものです。

 高音や声量を獲得していくときに、いわゆる声楽的な美しい声をめざして高音域を獲得するために、響きをとるようなトレーニングをするより、音色でダイナミックに伝わる表現を優先するということです。(声楽は移調できないため、声域を必要とするという条件があります)

 こう考えると、最初は芯のある声を一つの状態としてイメージしつつ、より高い完成に変じることをめざすことが、ポピュラーとしては理にかなっていることがわかるでしょう。

 喉が弱い人ならば、なおさら、声の安定と安全のために、より高い完成度、つまり、無理なく疲れを残さない発声を、求めていけばよいのです。声を発声器官とともに人並みを超えたレベルまで鍛えていきます。

 

 一方、強い声、大きな声の人は、用心してください。せっかくの声を効果的に使いたいなら、完全なコントロールのために基本的なトレーニングをすべきです。(日本では、それだけでステージのテンションがあがり、できているように思うからです。)生じ大きな声が出るだけに、音楽的な部分で学べず、まとめられない人が多いからです。うまく歌うには、統一された声と音楽的感覚が不可欠です。

 ハードな声でステージをして、次の日に喉に影響の残らないヴォーカリストは、日本ではまれです。日頃からの基本づくりのトレーニングが大切なのです。

 ステージ、歌というのは、ヴォーカリストの最終的なレベルの個別問題です。たとえば、「ブルース・スプリングスティーンの声の出し方は正しいのか」という質問は意味がないのです。彼は、音楽の活動ができているのです。音楽や歌は、声を聴かせるわけではないのです。彼はそれで、ステージをもたせられるのですから、彼にとっては、それが正解です。実績があって、ヴォーカリストとして一番大切な魅力があって、大勢の支持してくれる人間がついているからです。

 「あなたが彼のような発声をしたとき喉がつぶれないか?」というのが問題であって、彼にとっての問題ではないということです。

 歌という作品は総合芸術です。喉が強いからよいというものではありません。ひとつのかたちにまとめて、ステージができるのなら問題ないのです。

 

 ハスキー・ヴォイスは喉声と混同されがちですが、一流のヴォーカリストなら、かなり身体を使う深い声のポジションをとった発声法をしています。かなり深いところで強く息(つまり身体)を使うと、あのような声になるのです。声帯が理想的に使われているかどうかは別にして、それなりの表現として動かしやすいのは、確かです。

 日本人で、そういう声をまねて、わざと声を潰している人がいます。声帯を力で押しつけると、マイクにも声が入りにくくなり、音域も狭くなります。声帯は弱いので、使い方を間違えると、壊れます。本当のハスキーヴォイスは、理にかなった使い方をして決して喉声ではないのです。深く統一された声で、やわらかくもしっとりとも出せるのです。

 

[フレーズを統一するトレーニング]

1)「ラ」で(「ドシラソファ」で高いところから低いところ)

2)「ラ」で(「ドシシ♭ララ♭」で高いところから低いところ)

3)「ラ」で(「ミレドレミ」で高いところから低いところ)

4)「ラ」で(「ドソファミレド」で高いところから低いところ)

5)「ラ」で(「ソソソファミ」で高いところから低いところ)

 

[フレーズを動かすトレーニング]

1)あまいゆめを(「ドシラソファ」で高いところから低いところ)

2)あーいしていた(「ドシシ♭ララ♭」で高いところから低いところ)

3)きみーだけーに(「ミレドレミ」で高いところから低いところ)

4)もう二度とーは(「ドソファミレド」で高いところから低いところ)

5)ふたーりだけ(「ソソソファミ」で高いところから低いところ)

「ヴォーカルトレーニングの全て」 Vol.13

〇頭声と胸声

 

 高い声が出る人や、女性にありがちなのは頭声の方にすべての声を集め、胸声をまったく使っていない状態です。

 逆に、胸声だけでキープして出している場合があります。そうすると、あまり頭部に響かないのです。

 日本人のトレーナーは、頭声を早くから要求しがちです。後者よりは前者をめざしているのです。しかし、結局、頭声、胸声は区別して覚えていくものではなく、歌のなかでの声のひびきのバランスで考えるべきことなのです。

 世界各国をまわると、後者タイプのヴォーカリストが少なくないことに驚かされます。上に響きをもってこなくとも、胸で、かなり高い音まで出しているのです。これには強靭な身体と息の力を必要とします。

 

 高いところで、胸声をキープしていると、身体が強くなってきます。この歌い方は、シャウトもでき、ことばが響きに流れずにしっかりと伝わりますから、迫力ある歌を歌うときには欠かせません。

 しかもトレーニングにとっても最も大切なこと、声を出すことで身体が鍛えられていき、声と身体とを1つにすることができるのです。

実際のトレーニングの場では、一時的に音がこもったり、フラットしがちで、暗い音色となることもあります。しかし、それは胸を開くための準備であり、深いポジションを獲得することがねらいなのです。つまり、時間がかかるので、多くの日本人は音程や発音という目先の問題の解決に走ります。

 一流のヴォーカリストの声の音色は日本人がめざすほど明るくはありません。表情や響きで輝きをつけていることを知っておいてください。最終的に、歌にまとめるときは、胸に押しつけずに解放させることが必要です。

 たとえ、一時、音域も音量もとれなくなり、響きもことばも不明瞭になっても、ただ1つ、声そのものの持つ表現に耳を傾けてみることです。そこに重みが加わり、魂が身体が入り込んでいるなら、最初の段階としてはよいのです。(この見極めは難しく、個人差もあります。感覚が伴わないこと、声を壊す方向にやりがちです。常に「バランスのチェック」をすべきです。)

 さて、一番、困るのは、すべての声域にわたって、一見、声は統一されているものの、気持ちをのせられる声になっていない場合です。日本人のヴォーカリスト志願者のほとんどがこれを無視して声域を獲得し(たつもり)、音響技術で補っています。それではいくら、先に述べた部分的なトレーニング(発声器官、呼吸法、共鳴のトレーニング)をしても、根本的な解決になりません。本人がそのことにまったく気づかず、上達していると信じてやっていることが、問題なのです。

 

[胸声をキープするトレーニング]

なるべく声を変えないでやってみましょう。

 ことばは何でもよいでしょう(「ラ」)

1)ドレミファミファソラ

  ファソラシ ソラシド

2)ドミソ レファラ ミソシ ファラド

3)ドド♯レレ♯(半音ずつ4つ)で1オクターブ上まで

4)同じく半音ずつ5つで1オクターブ上まで

5)ドレミ、ド♯、レ♯ファ(全音で3つの音)で1オクターブ上まで

 

〇音域別のトレーニング

 

低い音は、人によっては比較的、共鳴をつかみやすいといえます。喉に緊張感を与えないなら、初心者のトレーニングに最適です。ポイントは、声が自然と深く出るポジション(私は「声の芯」と呼んでいます)をつかむことです。  

話している声よりも低い音域はほとんど使ってきていません。だから、悪いくせがついていないといえます(そこでの息で声をみつけることです)。  

普段高めの声を使っている人は、最初はやりにくいので、やや低目から始めます。続けていくに従い、しっかりとした声が出るようになります。そのときに、太くて男みたいな声と思わず、本当にしっかりした声を出している魅力的な女性の声をめざしてください。(世界の女性ヴォーカリストや女優の声の質感を何度も聞いて、捉えておくことが不可欠です)。   

最も低いところで自然に出る声を私は「最下音」と呼んでいます。これ以上、低い声を出そうとすると喉で無理に出すことになります。そこは、深い息だけになるのがよいのです。 

 

[中音域でのトレーニング]

低音で始まり、中音域で橋渡しをしてサビの高音に入るというのが多くの歌です。特に声の差がつくのは、中音域です。中音域は、簡単に出せるだけにしっかりと出すのは、なかなか難しいところなのです。中音域でのメリハリ、声の厚み、ヴォリューム。そこで実力は判断できるのです。  特にソラシドあたりで、声をそろえようとするとかなりの実力が必要となります。多くの人は、ここでヴォリューム・ダウンします。

私のヴォイストレーニングは、しっかりとこれらの音をそろえて出せるようにした上で高音域に入るので、ここでは一時的には、あまり響かせないようにしています。  

中音域なのに、安易に頭声に移行すると、すでにそこで明るく薄っぺらい響きとなり、それなりに盛り上がってしまいます。すると、次にくるサビが冴えなくなり、パンチが効きません。  

曲の構成からいうと、中音域は橋渡しのところで、メロディよりもことばの占める要素がまだ大きいところです。つまり、盛り上げるまえの抑えの部分、ことばにたくさんの息吹、感情を送り込んで、メリハリをつけるべきところなのです。いわばパンチの効いた声が柔らかく深いものであれば、どんな歌にも充分に対応できます。この中音域には安定感とヴォリューム感が不可欠です。  

 

[音域移行のトレーニング]

 高音へ移行するトレーニングは、高音をとりにいくためではなく、すでにとれている高音をより使いやすく、感情表現ができるようにするために行なうことです。つまり、高音域を作っていくのではなく、すでに作られた高音域をより自然に使えるようにしていくために行なうのです。    高音の獲得は目的ではなく、結果なのです。人によって違います。

仮に私がマライア・キャリーの高音が欲しいとして、そこでトレーニングをするのは、最初から無理とわかります。しかし人は、自分にないものを欲しがり、あこがれの人、そっくりになりたいのです。私がみて、それで成功した人はいません。自分の資質や可能性を知ることです。もう一つの理由は、すでに10代で楽に出る人がたくさんいるということで、こういう人は100人に1人で、私も高音からトレーニングします。日本の高音域ヴォーカリストの大半は、努力せずにすでに出せていたのです。確実なところをより確実にしていくことによってのみ、声はヴォリュームを増し、そのなかで音域も獲得していきます。  

ですから自信の持てるところの声域で、メリハリをつけるトレーニング、より確実に深く声をつかまえ、身体の力でそれをコントロールすることを繰り返すことです。そのことによって、自然と声が導き出てくるようになり、気づいたら、声域、声量とも拡がっているというものなのです。   

何ごとも、「早くやりたい」「まだできないか」とがんばっているときには目的は達成できず、そんなことを考えることもなくなるほど量をこなしたとき、目的のものは手中に入っているのです。気づいてみれば、すべては気の遠くなるようなトレーニングをやってしまった後だったということです。  

ですから、中音域で、声を動かすトレーニングを徹底させることをお勧めします。  

1)弱くから強くする  

2)強くから弱くする  

3)弱くから強くして弱くする  

4)強くから弱くして強くする  

 

このとき、発声器官での調整は絶対にしないこと、喉を楽にして、負担をかけないことです。  

胸声と頭声のバランスは、ポピュラーの場合、歌のスタイルによってかなり異なってきます。

 まずは、1オクターブ(たとえば、下のドから上のドまで)は、胸声でキープしておくことをしっかりと行います。これをもう23音(レ、ミまで)、胸声のまま伸ばそうとする方向でのトレーニングがあります。ただし、無理をして声をつぶす危険があるようならやめます。  

逆に、23音上から(レかミ)、頭声でとり、そこから下へ降りてくるトレーニングもよいでしょう。特に高い音が出やすい人には、有効です。ヴォリュームをつけ、胸の響きをも感じてください。  

声楽では、バランスを上に持っていきます。頭声での響きを加え、声楽特有の美しい響きの発声とします。  

しかし、ポピュラーでは、このバランスは自由に決めていくべきだと思います。声楽の人からは理解できず、否定されるべき発声で、素晴らしい個性的な歌の世界を築き得たヴォーカリストばかりいるのがポピュラーの世界でしょう。美しい声よりも優先すべきものを捉えて、声はそれを自由に伝えられるように、身体と一体化すべきなのです。ただし、その根本には、口や舌に余計な力を加えたり、喉声にしないなどという共通の条件があります。つまり、声を統一することに関しての基本は同じことなのです。

 

〇高音域発声のチェック

 

  高音域の発声については、次のポイントでチェックしてみてください。そして正しい発声のできる範囲内でトレーニングをすることです。   

 

正しい発声については、次のような特長があります。

□力強さがあり、共鳴する(響く)

□ヴォリューム感があり、低音から高音まで音色が統一である

□しなやかさがあり、ムラがない

□美しさを感じる

□劇的(ドラマチック)である

□透明感がある、遠くから聞こえる

□均質で無理がない

□柔軟である

□軽快であってリズムが感じられる

□何度も、同じことを繰り返せる

 

間違った発声については次のようになります。

□喉を酷使しているように感じられる

□鼻声や不自然なかすれ声になる

□強弱のメリハリにムラがある   

□ヴォリュームが出ない

□キンキン響くか、かすれたり、喉声になる

□重々しくこもっている

□ひずんでいる、無理を感じる

□音を低くすると極端にヴォリュームがダウンする

□長時間、同じことを繰り返せない

□音色にムラがある 

 

〇裏声とファルセット

 

 日本人の女性の場合は、地声を使わないように教えられて、裏声だけで歌っている人も少なくありません。しかし、裏声で人を感動させるためには、なかなかの素質が必要です。私は、地声で可能性を追究することを勧めています(地声を喉声という意味で使っている人もいますが、ここでは、裏声、ファルセットに対する声として使います)。ホイットニー・ヒューストンやセリーヌ・ディオンなど(ベルディングというものです※)。声によほど恵まれていない限り、使い方でみせていく、そこで裏声よりは地声の方が可能性が大きいからです。

 トレーニングで確実に大きく変えられるのは、身体と息です。その線上にのる声は、いくらでも発展できますが、裏声ではすぐに限界がきます。というのも、響きの調整のトレーニングくらいしかできないからです。

 ただし、自分の作詞や作曲の才能を中心にして世界を切り開いていこうという人には、その限りではないと言っておきましょう(私自身は決してよいとは思いませんが、こういう歌い方をめざす人が多いからです)。

 声自体の魅力からいうと、薄っぺらい声で声域も狭く、声量も絶望的です。特に低中音域はエコーなしでは聴くに絶えないレベルを出られないでしょう。

 男性の場合も、小さく浅い声をやわらかく高音にあてて歌うヴォーカリストが、特にニューミュージックやロックの若手に多く見られるようになりました。ヴォーカリストにはいろいろなスタイルがあり、このタイプは主流になりつつあります。それでもプロになった人は、何らかの世界(ヴォーカリストの魅力は声だけではなく、多くの要素があります)が開けたので、よいのでしょうが、これからトレーニングをしていこうとする人は、お勧めできません。高齢になるにつれ、喉の耐久性に難が出やすくなるからです。

 

1オクターブの上下降のトレーニング]

 1オクターブをとるのは音程のトレーニングでなく、声の統一の調整のトレーニングとして行なうとよいでしょう。 

上から1オクターブ下へいくトレーニング  

完全に声をとらえて、そこから胸声のバランスを増やします。 下から1オクターブ上へいくトレーニング  胸声をとらえつつ、予め、上でのイメージを明確にして、一気に高い音に移りましょう。結果として上にバランスが移ります。 

音が下がるときに注意する  特に音が下がっていくときには音高(ピッチ)に注意します。かなり意識しないと、息の支えが抜けてしまいます。  

「ヴォーカルトレーニングの全て」 Vol.12

〇声は表現から定まる

 

 単に声量の変化だけでは歌は聞かせられません。ヴォーカリストは歌の案内役です。少なくとも、聞いている人に先を越されぬようリードし、どの一瞬も、ことば、メロディ、フレージング、リズム、センスなどで聞きごたえを与え続けなくてはなりません。

 一本調子の歌は、何も生み出せません。もたないから、きき手にヴォーカリストの歌うところの先にいかれます。結末までの流れまでをすべて見抜かれてしまうのです。それでは、聞くところがありません。

退屈な時間を与えるのは罪です。ヴォーカリストは、演奏中、ずっとその流れを引っぱり、楽しませてあげなくてはならないのです。

 そのために、声量の変化とともに、音色の変化が欠かせません。(※統一した音色をもって、自由に変じる。つまり、変じるために統一したものが必要で、それがベースだったのです。もちろん、歌い手には、変化させずに歌う人も少なくありません。)

 音色はつくるのではありません。正しい発声であれば、それぞれの声域、声量にあわせて、色つや、響きが出てきます。

発声は統一しているのですが、その表現によって、音色は、ことばやリズム、センスに伴って微妙に変わるものです。喜怒哀楽を中心とした感情や歌の背景にあるものを表現できるようになっていきます。

 

○ステージの環境

 

 バンドでやるときには、ドラムやギタリストなどと音量を張り合わないこと、各パートのバランスをしっかりととることが大切です。日本のヴォーカリストは声量がないので、バンドのヴォリュームを絞るべきでしょう。

 声域、声量によって、それぞれにでてくる音色をミックスさせたり、違うレンジで自由自在に使うのが、声の技術です。

そのためのトレーニングがあるのではなく、歌のなかでの表現から音色が決まってくるのです。強く激しい、柔らかく甘い、おっとりとおだやか、などと、伝えたい内容を最も効果的に表現できるベースの声でどのレンジも統一して、歌いわけていきます。

ですから、プロは曲の組み合わせをいろいろと変えながら、お客を飽きさせずに1曲のなかでもみせ、さらに何曲も聞かせ続けられるのでしょう。その表現が音色を選び全体を構成し統一していくのが、ヴォーカリストの世界です。

 高いところは輝き、スリリングで、中間は説得力があり、低いところはしびれるような声区別の発声でパターン化させただけでは、ワンパターンです。さらに音楽に結びつけて、深めていく必要があります。

 常にステージに立っているイメージでトレーニングすることをお勧めします。できるかぎり、大きな空間を意識して、しっかりと歌いましょう。

 最初からマイクに頼らないことです。マイクに頼らずに仕上げておけば、本番はマイクが助けてくれます。もちろん、マイクの性質は知っておきましょう。

 リハーサルと本番も、音そのものの響きや聞こえ方は違うので、自分の身体の感覚で覚えておくことです。観客がいると音が吸い込まれる分、音も変わります。モニターがよく聞こえる位置に立ったり、マイクの特性を観客席に行なって確認するくらいのチェックはしたいものです。

 

[メロディを表現するトレーニング]

ことばでしっかりと感情を込めて読んでから、低いところでメロディをつけてみましょう。

ここで使う声域は、ラシドレミファソの1オクターブです。(ラ、シは、ドより低い音で)

1)あなたを愛することを(レミファレドレミドミレラ)

2)よあけのひかりに(ドソソソファミファ)

3)はじめて知った(レミファレシドレ)

4)ゆめはすべて くだけちった(ファミファミレド ファミファミファソ)

 

次に少し高いところでやってみてください。

さらに高いところでやってみてください。

 

〇ヴィブラート

 

 歌声を聞いてプロだと感じさせる要素の1つは、心地よいヴィブラートです。わずか1フレーズでも、プロだとわかるのは、ヴィブラートのもたらす明瞭で活き活きした、自然で躍動感のある声の動きです。その声の動きに、メリハリ、ヴォリュームがついているので、一本調子にはなりません。

 ヴィブラートは、しばしば間違って解釈されます。混同されているのが、トレモロや声の揺れです。これは、いけないものです。それをヴィブラートといって、教える人もいます。

 ヴィブラートは直接にコントロールできるものではなく、声の動きのなかで生じてくるものです。無理につけようとしないことです。

 すぐれたヴォーカリストは、ヴィブラートによって流れをつくり出します。よいヴィブラートであれば、スムーズにレガートで音程やことばのつなぎなどに荒れが感じられるはずです。変にかけると、不自然な声となります(これを難なく聞かせてしまうため、ヴォーカリストが上達しない原因の一つがエコー(リヴァーブ)装置です。カラオケは、これが苦手な日本人を助ける魔法の装置です。)。

 ヴィブラートと大げさに言わずとも、しっかりしたトレーニングでは、常に発声に伴っています。

声を伸ばしていくと、しっかりした芯が一本通っていて、声そのもののヴォリュームのキープが確実にできるようになります。その上でゆらぎが生じるのです(1秒間に6回くらいの規則正しい周期をもったものといわれます)。揺れ幅は、音量が増したり、高音になると大きくなります。

 これがヴォリューム感であり、情感をゆすぶる表現と直接に結びついています。高音の方が感情表現しやすいのも、揺れ幅が大きくなるからです(ピッチのゆらぎが大きくなります)。

 ヴィブラートがついていないと、喉が緊張して、柔軟性のない重く固定された薄っぺらい声か、がさつく声となります。これでは素早い音程の変化やことばの変化に、うまくついていけません。(ノンヴィブラート唱法とか言う人もいますが、程度問題です。)

 声量や声域を伸ばしていくのは、ヴィブラートによるフレージングともいえます。

 喉声で力まかせに歌う人は、生声になり、不規則な周期の揺れとなります。もっと悪いのは、息の支えなしに歌っている人です。こういう人は、喉声であることさえ、気づいていないのです。

(ところが、それでうまいと勘違いするのが多くのカラオケ愛好家たちです。)高音や声量を上げたとき、あごや舌、喉が緊張するのは、そのためです。

逆に声を胸に押しつけたような発声では、音程などが狂いやすく、高いところや低いところで声が出にくくなります。本当は、息の支えの上で“浮いている”ような、声をとらなくてはいけないのです。

 

[ヴィブラートのための準備練習]

声を伸ばして、ことばをいってみましょう。

1)オーイ ハァーイ

2)ヤーイ エーイ

3)ラララーララー

4)イーチニィーノサァーン

5)マママーマーマー

 

しっかりとお腹から声を出して、やや早めにいってみましょう。

1)レロレロレロレロ

2)ラレラリラルラロ

3)ラレリロルレラロ

4)ランラララララン

5)タッタッタッンタンタタ

 

ドレミレドの音階で低いところから、半音ずつ高いところへ移行しましょう。

1)ガーゲーギーゴーグー

2)ゲーゲーゲーゲーゲー

3)ガーガーガーガーガー

4)ラーラーラーラーラー

5)アーオーイーアーオー

 

〇ことばの響きの統一

 

 響きに流れてことばが何を言っているのかよく聞きとれない。部分的にキンキン響いたり、かすれ声となる。このように、いくら声が響いても、ことばそのものが壊れてしまっては仕方ありません。

 高音で「アエイオウ」と言おうとすると、どうしても、ことばが流れがちになります。しかし、そこで、ことばを捉えなくてはならないのです。そのためには、喉が開いていて、深いところで声をキャッチしていることが必要なのです。この点では、一流の声楽家と一流のポピュラー・ヴォーカリストは共通しています。

 ことばを区別するより、ことばをつなげるトレーニングが優先します。自分のなかで最も、深く出しやすい母音を選び、そこから各音に展開したり、その逆を行ないます。さらに、その応用パターンを行なってみましょう。

 これは、できたら、メッサ・ディ・ヴォーチェ(弱-強-弱)で膨らませるように行なうと効果的です。徹底して低音で声のきっかけ(声たて)と息とのミックスをマスターした上で、中音域に入っていくことです。

 そこで問題なければ、中音域から高音域にかけて、これをトレーニングしてみます。芯がついた声に自然と頭声の響きがのっていくことで、感情表現に自在に対応できる声となってきます。

 声をとりにいく力は、声となったところで抜きます☆。決して、力で押しつけてはなりません。脱力によってのみ、胸声、頭声のバランスは自然に保たれ、理想的な声がそこで発見できるのです。一本、縦に線が通り、声が自由にそこを移動できる感覚です。その声のみ、確実に私たちがキープし、歌に自由自在に使えるものです。

 

[ことばをつなげるトレーニング]

(アを中心とする例)

アーイ アーウ アーエ アーオ

イーア ウーア エーア オーア

 

アーイーア アーウーア

アーエーア アーオーア

イーアーイ ウーアーウ

エーアーエ オーアーオ

(以下、イ、ウ、エ、オを中心にやってみましょう)

「ヴォーカルトレーニングの全て」 Vol.11 

〇声量について

 

 フレージングのなかで用いられる音の強弱について、もう少し詳しく説明します。

 音量の大小は、fmfpmpppなどで表されます。f(フォルテ)がついていたら大きく歌い、p(ピアノ)では小さくします。クレッシェンド、デクレッシェンドも使います。

 しかし、これらは声量の大小でなく、表現の強弱といった方がよいのです。これが、何デシベル(db)というように単純な音圧ではないのです。

 声の大小は、表現の強弱にそのままつながりません。声の大小は、出す側の感じで、表現の強弱はお客の方での受け止め方だからです。むしろ、p…緻密 f…ひろがり、と捉えるとよいでしょう。

 つまり、音量、声量というのは、聞く人には相対的なものです。ある音に対してそれまでより少しでも大きくなれば、それは大きく聞こえます。何デシベルだから、大きいとか小さいということではありません(もちろん、どなり声なら100デシベルで大きいなどと、いえなくもありませんが…)。

 大きな声が出てもまったく表現力がない人もいれば、小さな声しか出なくても驚くべき表現力をもっている人も少なくありません。

特にポピュラーではマイクを使うので、発声のよしあし、特に声やひびきのコントロールがシビアに問われます。

 しかし、そのことが、大きなスケールのヴォーカリストを生みにくくしているのも確かでしょう。

 大きな声で歌えるようにトレーニングすると、身体がついてきます。身体が鍛えられ、呼吸のコントロールも自由になります。当然のことながら、声も自然に出るようになってきます。

 ところが多くの人は、早くからマイクを使って歌い、それをフィードバックするので、口先だけでの音量調節、せいぜい不器用に響きの方向を変えるくらいのことしかしなくなるのです。カラオケのようにエコーがついていると、身体から鍛えることは不要であり、本当の声量を出すことが不可能となります。

 マイクで歌うとうまく聞こえるという人は、要注意です。カラオケでのトレーニングは、よほどキャリアがしっかりとしていない場合は、大して伸びないことが多いようです。特に声に関しては、です。

 

[感情を表現する]

強く感情を込めて表現してみましょう。最初は大きな声で、次に小さな声で。

1)あなたと離れてくらした日々

2)いつしれず変わってしまったのは

3)ときの流れゆくままに

4)雨はやんで、あなたは去った

5)遠くで希望をみつめながら

 

前のことばに次の感情を込めて表現してみましょう。

1)あまい

2)さびしい

3)悲しい

4)せつない

5)腹立たしい

 

〇フレージングとメリハリ

 

 f(フォルテ)は、「感情を強く」、p(ピアノ)は「感情を弱く」です。表現の度合としては、弱い声でも感情が強く伝わるということもありますから、ややこしいのですが、とにかく、歌の場合、1曲を通して、何かを伝え続けるための起伏、波であると捉えてください。

 声はその内容に関心のある人は大きく聞こえ、関心がない人には聞こえにくくなります。聞く人の注意、集中力にかかっています。そのため、聞き手を引き込み、驚かせたり、心地よくしたりするようにみせなくてはなりません。

 一本調子だと、聞く方は慣れて飽きて、聞かなくなってしまいます。声を張り上げても、単にうるさいだけのノイズになります。マイクのヴォリュームを絞られ、終わりです。

 声量の使い方は、発声や歌い方の問題と直結します。が、表現内容との一致、さらにパフォーマンスやステージとも大きく結びついているだけに、わかりにくいのです。

 

 発声では、自分の声がどう出ていて、それが聞いている人にどのような効果を生じているかまで、感じなくてはなりません。変化のない声量、単調な音色は、お客を飽きさせます。

 

○ヴォリューム感の変化

 

 ヴォーカリストはリラックスして歌いますが、歌のなかでは、表現にたるみは許されません。それをさけるため、前打ちにしたり、シンコペーションをつけるときもあります。音量、音色での調整もできます。だらだらとなってしまうことは最大のタブーです。

 そのための驚きと意外性は、メリハリやff(フォルテッシモ)とpp(ピアニッシモ)クレッシェンドとデクレッシェンドなどでの組み合わせです。しかし、身体が充分に使えていなくては、その変化が表現と一致しません。すると、聞いている人にうまく伝わりません。

 

○構成、コントラストでみせる

 

 強く、あるいは弱く表現をしたいときの、一番、簡単な方法は、その表現の前でセーブしておくことです。つまり、PPの前はやや強く、ffの前はやや弱くしておくのです。すると、コントラストをより明確にできます。

普通は、盛り上げるときには、506070と考えます。しかし多くの人が実際にそうしているつもりでも、声では、505560くらい、表現としては、505255くらいとしか伝わっていません。

もし、506070と伝えたければ、身体としては、5070100くらいに使っていかなくてはならないからです。しかも、しぜんに。

 しかし、504070とすると、同じ70でも、100も使わず、まさに70のままで70を伝えられます。これは、60に対して70より、40に対して70を使った方が、大きく強く聞こえるからです。逆に弱くしていくときも同じです。

 

○声量より、メモリ幅

 

 私が思うに、プロのヴォーカリストは、050100幅の声量のレンジをもちます。アマチュアは、それに対して304050くらいです。一声だけでも、そのくらい違います。その上に、それをコントロールする繊細な力までいれると無限の差がついてきます。それは、5051の間に10のメモリが刻めるかというようなものです。

 

 プロのヴォーカリストの声量を聞いてあんな声はでないというまえに、最少の声量、感情表記のp(ピアノ)やpp(ピアニッシモ)にも注目してください。

あなたよりも、小さな声が出る、いえ、使っているのです。これは、小さな声にもきちんと身体がついているからです。

 

○小さな声、弱い声とテンション

 

 多くの人は、あるレベル以上に小さな声になると、ことばもピッチも狂いがちになり、表現ものってきません。0というのは息です。息から息をほんの少し声にしたところでさえ、彼らは歌えるのです。

 リラックスをして、少し大きな声を出してみましょう。これを40くらいとしましょう。これは、一番歌いやすい声で、最もあなたの声の音色がうまくでる声です。

これを強くしていくと、少しずつ身体に負担がきます。そして、50を超え、6070となり、80くらいのff(フォルテッシモ)では、全身(むしろ、全霊、身体でなくテンションの問題です)を使う感覚となります。

逆に弱くしていくと、30くらいまでは何とか同じ状態を保てる人でも、さらに、2010pp(ピアニッシモ)にすると、やはり身体に相当の負荷がかかってきます。息との結びつきだけで出る声になってくるからです。息との結びつきだけで出る声になってくるからです(ここで述べた声量と身体の関係は、そのまま声域(ff-高音、pp-低音)とおきかえられます)。

 私の声は小さく出しても、かなり広い範囲で多くの人に聞こえます。普通の人の声では、かなり集中してもらわないと、聞きとってもらえないでしょう。

その代わり、多くの人は、まったく感じない負荷を私は身体に感じます。

 ポップスのヴォーカリストなら日常会話の声がそのままリズムかメロディを伴うと歌になるくらいのレベルをめざして欲しいものです。シャンソン歌手のエディット・ピアフは、「電話帳を読んでも歌になる」と言われました。

 

[ヴォリュームをコントロールする]

強くから弱くしてみましょう。

1)あなた あなた あなた

2)おーい おーい おーい

 

弱くから強くしてみましょう。

1)あなたの あなたの あなたの

2)えーい えーい えーい

 

強くから弱くして強くしてみましょう。

1)ハイ ハイ ハイ

2)ライ ライ ライ

 

次のことばを、強弱をいろいろと変えて言ってみましょう。

1)いのち かけて いつまでも

2)いまは もう 戻れない 

3)ハイ あおい ラララ

 

小さな声で身体から表現してみましょう。

1)小さい夢をみつけた 心の片隅に

2)愛の甘いゆめ、熱く燃える心

 

「ヴォーカルトレーニングの全て」 Vol.10 

〇フレージングのポイント 声の密度と統一感

 

 フレージングの中心のポイントをどこにおくかということを考えてみましょう。

 多くは、小節の第1拍目におきます。4拍子なら、3拍目も強くできます。歌詞の強弱の強におくときもあります(日本語は前述したように高低アクセントの高のところに強拍が一致せず困りますが)。4拍目から出る音(アウフタクト)を強くとるのは、間違いです。

 さらに、速度が速くなるところや遅くなるところ、ブレイクがかかったところなど、があります。フレージングのなかで音を動かし、盛り上げたり、前後につめて処理する、どこかの音を強調のために伸ばすためには、後ろでつめてテンポに遅れないようにしなくてはなりません(前につめるときもあります)。その逆もできます。さらにシンコペーションになることもあります。

 前打ちや後打ちというのも、1つのフレーズのとり方に入るかもしれません。

 

 なかには、リピート部分(特にサビやテーマの部分)を3度から1オクターブあげて歌うときもよくあります。高くなると、ピッチのゆれ幅が大きくなり、ヴィブラートが強調されて、高揚感があおられるからです。

 熟練したヴォーカリストは、ヴォリューム感を高い音でなくとも、どのフレーズのなかにも充分に盛り込むことができます。いわば思いのままに声の密度、緊迫感を高めることができるのです。そして声と身体と感情とをギリギリに一致させて表現していきます。全身全霊で表現して初めて、聞く人にも大きなものが伝わります。(そのために、声をつかまえ動かすのがフレージングです。)

 楽譜上ではまったく同じ繰り返しでも、歌うときには何らかの変化をつけるべきでしょう。

 繰り返しや転調で、高くなれば張るし、低くなれば抑えるのは、いうまでもありません。

 多くの人は、長い音符のところを強くして、短い音符を弱くしがちですが、歌では必ずしもそうではありません。伴奏の強弱とも、必ずしも一致させません。そこに、どういうズレを創造するかが、センスなのです。

 

 フレーズができてくると、ブレス(息つぎ)の位置も、明確になってきます。ブレスも、間も、また大切な表現です。ブレストレーニングは、それゆえとても大切です。ボールにグローブが吸いつく、いやすべてのボールがグローブに入ってしまうように、身体の動きがこなれなくてはなりません。

 フレーズのとり方によって、ことばの意味も表情もはっきりしてきます。フレージングにおぼれてしまってはなりません。ヴィブラートのなかで、声の響きだけをとっていっても、表現はでてきません。(でも日本人は、過度なヴィブラートというか、揺れ声に弱いのです。)伝えようとする意志や精神の統一が声をまとめ、表情をつけて初めて聴き手の胸に入り込み、感動を導き出すのです。

<ブレスヴォイストレーニングでは、最初はことばや響きの切れと息のフレーズとをわけて考えています。ことばは言い換えなくてはならないし、たとえことばや響きは切れても、息はフレージングのなかで、きちんと保たれなくてはならないからです。>

 

[フレージングのトレーニング]

・頭にポイント(強拍)をおいてみましょう。

1)あなたと来た日を思い出して

2)飛んで火に入る夏の虫

3)こわれてしまったラジオ

 

・前半を強く伸ばし、後半を短くいってみましょう。

1)ひたすらあるいた

2)とおくはなれても

3)ララララーラララ

 

・次の音を自由な長さでフレーズにしましょう。

1)ひたすらあるいた(シドレレミシレド)

2)とおくはなれても(ラドシラドミレレ)

3)ララララーラララ(ドレミファファミファ)

 

・同じフレーズを2回目にキーを上げて歌ってみましょう。

1)いまはただ(ファミミレレ)

  いまはただ(ドシシララ)

2)あなたになら(ラシドラミレ)

  あなたになら(レミファレラソ)

3)あいする(ドレミーミ)

  あいする(ファソラーラ)

 

〇歌の装飾について

 

 歌には、楽譜に指示された装飾記号でのルールがあります。

 

・アクセント(>)(∧)

 ∧は>と併用されるときは、>より強くなります。

 アクセントとは、ディミニュエンドの1拍分のようなものです。前の音より、大きく入り、前と同じに戻ると考えましょう。

 強調ということなら、強める、長めにする、やや早く(遅く)入る、少し強めるのを遅らせるなどという方法もあります。ズダーンズダーを強くするようにします。

・スタッカート(・)

 各音を切り離し、区別します。

 スタッカートで音をできる限り短くとっている人をみかけます。しかし、どちらかというと、スタッカートは各音が区別されるように表現することです。ヴォーカリストは、この表現上の区別を口先で行なうときと、お腹から切るときとがあるように思います。響かせてから、フレーズのなかで切っておくのであり、ピッとはねあがらせて切るのではありません。

・テヌート(-)

 各音の上にダッシュをつけます。

 その音を保ちます。強く出ずに、なめらかに入り、ディミニュエンドはしません。テンポをためるような場合もあります。少し押しがちの感じといってよいでしょう。

・フェルマータ()

 音を保持する。

 この記号が曲の最後の手前についていれば、かなり自由に長く伸ばしてエンディングにおとし込めます。多くの場合、フェルマータを予期させるためにも、そのまえで少しテンポがゆっくりになります。リズムとテンポのブレイク部分です。

 ですから、次にまだ曲が続くときは収拾をうまく、本当にピッタリとした呼吸をもってやらなくてはなりません。たっぷり聴かせるか、もう1つというところで急に元のペースに戻して締めるかを決めましょう、だらだら何音にもわたってテンポをくずすのは避けるべきです。

 曲中にあるときは、1つの間を作りあげ、聴き手の期待が整ったところで、次の進行におとし込むのです。おとし込むという表現が適切かどうかは別としても、1曲のなかの聴かせどころ、お客との最も近いコミュニケーションのとれる勝負どころ(だめ押し)には違いありません。

〇テンポについて

 テンポの感覚は、いくつかの曲で覚えておくとよいでしょう。ステージでは前の人の曲が、違うテンポ(スロー・テンポやアップ・テンポ)だったときには特に注意しましょう。知らずと引きずられる人がいます。いつもと同じテンポで歌っていても、速く感じたり、遅く感じるとやりにくいものです(本当にテンポが間違っている場合もあります)。

 歌っていても盛り上がらず、よくないと思ったときは、バンドのリーダーにテンポ・アップを、曲の途中でも伝えるとよいでしょう。

 トレーニングにおいては、テンポを変えたり、ピアニストに弾き方を変えてもらうのもよいでしょう。伴奏者のなかでもリズムを強く弾く人とメロディをきれいに強く弾く人とは、歌う場合の感じも違います。テンポは、最も歌いたいところ、テーマやサビのところにあわせて決めるべきでしょう。

 テンポの指示について

・リタルダンド

 センテンスの区切りをきわ立たせられます。

・リタルダンドにフェルマータ

 音楽性にもとづいて伸ばしましょう。

・リタルダンド a tempo

 1拍目をリタルダンドするかもう1拍、続いた

 ときにくる位置におく(もう1拍のリタルダンド

 分、休みを入れる)ということです。

[スタッカートのトレーニング]

 スタッカートとは、声を短く切ることです。お腹の動きで息を吐き、それを声として出します。身体と声とが一瞬結びつき、強い声が瞬間的に出ます。深い息を深い声にすること、それを柔軟にコントロールできる直前の状態に保ちます。喉で切らず、お腹でしっかりと切ることです。逆に、身体(胸)に押しつけがちになりやすいので、注意しましょう。決して、力でやるのではありません。

 スタッカートのイメージは、呼吸をまわし、そこで声を捉える感じです。

[レガートのトレーニング]

 レガートとは、音をつなげて歌うことです。多くの人は、音と音との間に切れ目が見られます。音高や発音の違いが、音質を変えてはよくありません。レガートは、歌の基本です。声に厚みを加え、重ねるようにしていくと、つながります。フレーズのなかで共鳴もシャウトもできるようになってきます。(つまり、声を深く握っていて、吐く息で自由に動かせる)。

 

 音程の移動もスムーズにします。音によって、声の出し方を変えないことです。ずり上げ、ずり下げは厳禁です。身体と息だけをイメージでコントロールします。

 

 ことばをそろえることは言うまでもありません。響きだけでとるのが簡単ですが、トレーニングとしては、あえて声を、息を送って、レガートにするのです。

「ヴォーカルトレーニングの全て」 Vol.9

〇声域と声量を確実に拡げる考え方

 

高音を出したいとか声量が欲しいというのが、ヴォイストレーニングをする直接の動機の人が多いようです。高音がうまく出ないのを高音部での発声の方法がわからないからと考えてしまうのでしょうが、そんなことで無理なトレーニングをやっても、結局、いつまでも身につかないのです。問題は、そこにあるのではないからです。なぜなら充分にトレーニングされた身体にとって、高音域や声量を出すときに間違いは生じません。出るか出ないかだけであり、声域や声量は、大した問題ではなくなってしまうからです。

 身体を充分に使い、高い音をとろうとしたら、正しくなくては一声にもならないからです。悪いくせをつけて、発声すると喉をつぶしかねません。しかし器用に中途半端にできてしまうと、気づかずにそのまま直らないし、鍛えられないのです。

 なぜできないのかというと、そこまでの発声(中音域、低音域)がよくないからです。適当に出しているから、身体も息もついていないのです。そこまで間違ってくせをつけて出してきたから、高音域になるとそのくせがさらに拡大され、限界になるのです。こういう声そのものの判断がまったくできていないことが問題なのです(残念なことに、日本のヴォーカリストの大半も、ここに当てはまります)。

 そもそも、日本人が考えている発声が、大して身体も息も使わないから、仕方ないのです。単に、音を届かせたり、力でがなるだけです。これではノイズは生じても、声を音楽的にひびかせ、歌にすることはできません。それを音響技術が、カバーしてくれているのです。

 ピアニストを考えてみればわかるでしょう。聞きたいのは、感性からくるタッチに秘められた表現なのです。音に届いているとか音程がとれているとかいう次元のことではないのです。

 基本トレーニングを続けることによって、誰でも歌うのに充分な声域と声量は、獲得できます。しかし、鍛えるところは、身体と感覚しかないのです。正しく使われる声は、身体のあるかぎり、声、そして声がもたらす音楽の可能性を追究できるのです。少なくとも、トレーニングは確実に伸びるところ、つまり身体に土台をおいてやるべきだというのが、私の基本的な考えです。

 

〇フレージングの概念

 

 フレージングとは、聞き手にしぜんに、かつ最大の表現力をもって、歌を伝えるためになくてはならないものです。

 その目的は、ヴォーカリストが1つのフレーズを何度も繰り返して、「決まった」という表現を求めて発見し、決定していくことだといえます。曲や詞の解釈、さらにヴォーカリストの個性までを、そこに凝縮させていくことです。フレーズの繰り返しと変化が歌を構成するのですから、フレージングは単一でなく、一曲のなかの構成からも考えられるべきでしょう。

 

「あなたゆえのわたし、わたしゆえのあなた」という文を、1)あなた 2)ゆえの 3)わたし 4)わたし 5)ゆえの 6)あなた とわけてみて、それぞれを順に強調して読んでみましょう。

 身体の使われ方、言いやすさ、ノリ、伝えやすさ、伝わりやすさとかなりの変化が生じるでしょう。

 もう少し具体的に意味をもたせるため、次の文でやってみましょう。意味というのは、思い入れとなってくるものです。

「あなた、そんなことを、どうして、わたしにおっしゃるのですか」順番もいろいろと組みかえてやってみましょう。

 

 フレージングは、ことばでなく音で組み立てていくものです。一番わかりやすいのは、音の組み立て(構造)の専門家である作曲家、つまり、楽譜から聞かせどころを見つけ出していくのです。

 そこには、ピッチ、テンポ、各種の音楽記号(クレッシェンド、リタルダンドなど)がついています。さらに、演奏上の原則(4拍子なら、強、弱、中強弱、3拍子なら、強、弱、弱といったもの)もあります。分散和音なら、つなげてはいけないとか、テヌートなら、ひびきをおいていくとか、2拍3連なら、心持ちゆっくりなど、感覚的からくるルールもあります。

 そういうものをすべて総合し、歌の見せ方は、ヴォーカリストのフレージングの組み立てを中心に決まってきます。誰もが耳に心地よいと感じ、そこにハマると浮き浮きする、その感じの出し方などです。これは、プレーヤーに直接、学ぶことをお勧めします。

 

[プロミナンス(強調)のトレーニング]

強調するところを変えて言ってみましょう。

1)あなたゆえのわたし わたしゆえのあなた

2)あなた、そんなことを、どうして、わたしにおっしゃるのですか

3)夢を見ていた、遠い日、誰も知らない僕は

4)まっ白な雲、青い空、光る窓ガラス

 

ことばのなかでの強調([ ]を強調しましょう)

1)[あ]なた[ゆ]えの[わ]たし

2)あ[な]たゆ[え]のわ[た]し

3)あな[た]ゆえ[の]わた[し]

 

リズムをとりながらいってみましょう。

  あなたゆえのわたしわたしゆえのあなた

1)123123123123123123

2)123412341234123412

3)1--2--3--1--2--3--

4)1-----2--3-----4--

 

〇呼吸とフレージング

 

 歌は聞き手ののぞむように、気持ちよく聞かせ、さらに、ときたまそれを裏切るようにして新鮮な驚きを与えることが望まれます。期待よりも音を長くしたり、強くしたりするのも、快感をもたらします。その人の新解釈、フレーズ上でのアレンジを加えることにより、さらに魅力を増し、感動を呼ぶのです。

 いわば、それこそがオリジナリティ、個性であり、表現です。その人の歌い方や声と結びついたところで唯一できることだから、価値があることなのです。もちろん、お客の方にも好き嫌いは生じるかもしれませんが、それを超えて納得させるところに大きな意味と喜びがあるのです。

 このフレージングの妙は、同じ歌を違うヴォーカリストが、ほぼ同じテンポ、構成で歌うときに大きな差として現れます(たとえば、「愛の讃歌」、「枯葉」、「オール・オブ・ミー」、「サマータイム」など、ジャズ、シャンソン等には、多くの人が歌っているスタンダード・ナンバーがたくさんあるので聞き比べてみるとよいでしょう)。ヴォーカリストのみならず、他のパートの演奏も比べてみるとよくわかります(特にサックス、トランペット)。

 その感覚は、まさに呼吸そのものです。はまったときにはアウンの呼吸、それを超えて感動したときは、まさにアー、ウンウンとうなるしかなくなり、そのプレーヤーに息をつめられたり、解放させられたりしてしまいます。

 フレージングを考えるときには、呼吸、つまり、吐くこと、そして吸ってまた吐くことの動きから、感じていくとよいでしょう。次に、声で実感していきます。

 歌詞を読むのもそのためです。同じ歌詞が繰り返されるとしたら、そこに何らかに意図や意味を見い出し、変化を表現しなくてはなりません。すると、息の吐き方が違ってきます。(ブレスの違いが、次のフレーズを決めます。)

 一般的に曲の構成は、ピークを中心に、そこまでは盛り上がらせて、そのあとは、それを収縮していきます。

 メッサ・ディ・ヴォーチェ(ディクレッシェンドから、クレシェンドして、さらにディクレッシェンドしていく)などは、フレージングの基本トレーニングです。強いということを高いということにおきかえると、音を上げていって下げるトレーニング(ド-レ-ミ-レ-ド)でも、これと同じことをやっているといえます<ブレスヴォイストレーニングでは、このように低中音域※を声量におきかえてマスターしていきます>。

 

[呼吸のコントロール]

次のことばを読んでみましょう。

1)あなたの腕で私を強く抱きしめて

2)遠い思い出、やがて消えゆく面かげに

 

息で、自分の好きな歌詞を読んでみましょう。

 

息を多く吐いて身体から読んだあと(息よみ)、同じように身体を使って強く太く言ってみましょう。それからメロディをつけて歌いましょう。

1)アオイアオ(ドレミレド)

2)しろいくも(ドレミレド)

3)とんでもない(ドレミファミレ)

4)いなかのお地蔵(ドレミファソファミ)

 メロディやことばを変えてやってみましょう。

 

 

「ヴォーカルトレーニングの全て」 Vol.8

○子音のトレーニング

 

 アーティキュレーションとは、明瞭な発声と、発音、音声の形成、継ぎ目をつなぎ合わすことです。母音はアタックせず、舌、唇を使いません。なめらか(スラー)に流れるので、レガートを中心とする歌唱の基本トレーニングに使うのです。

 それに対し、アタックするのが、子音です。これは、舌、歯や唇を使います。

 舌は、子音を作るとともに、母音につなげる準備をしています。正しく舌を使うとともに、必要なとき以外は舌を平らに保ち、力を抜いておきましょう。舌が邪魔してはいけません。

 参考までに、主な発音もあげておきます。

 

「ラ」

lよりも縮こまり、やや後方につき、舌根が固くふくらみます。したがって、喉の奥の開きが狭められ、声は奥に入ってこもってしまいます。「ダ」に近いです。下あごが固くなり、ガクガクと動きがちです。

 

l

舌をやわらかく薄く扱い、先端(舌の先の裏側)を軽く上の前歯の先(軟口蓋)につけます。舌根は固くなりません。下あごは動きません。

 

r

巻き舌で舌の先を軟口蓋を利用して震わせます。

 

(参考)gli(リ)イタリア語

軟口蓋に舌の表面(lと逆側)をつけ、舌の両側から息を出しながら舌の上の歯の根元をずらすように前に移動して発音します。

 

f」、「v

日本人は、hbになりがちです。下唇の上に軽く、上の歯を押しあて(かんで)息を押し出すのです。やわらかく唇を使います。水戸黄門のように「ファッファッファッファッ」と笑ってみましょう。「フ」は唇を閉じない、上下の摩擦音です。

 

「∫」(シュ)

上下の歯の間に少し隙間ができて、唇は柔らかく膨らませ、つき出して息を押し出します。唇やアゴの力が抜けているのです。日本語のシュは、唇を少しとがらし、上下の歯もほとんど閉じています。

 

n

これも、外国語では上あごに舌の先がついて、瞬間的に鼻に抜け、音となりません。

 

[アタックの強さを変えるトレーニング]

 次の5つを、強、中強、中、中弱、弱の順に発音してください。

sa、sesisosu

ga、gegigogu

ta、tetitotu

da、dedidodu

ka、kekikoku

ba、bebibobu

 

[アタックからレガ-トにするトレ-ニング]

ka-akeekiikookuu

ga-ageegiigooguu

ba-abeebiiboobuu

ta-ateetiitootuu

da-adeediidooduu

pa-apeepiipoopuu

ba-abeebiiboobuu

 

○日本語のトレーニング

 

 あまり速いテンポでトレーニングすることはよくありません。早口ことばのように速いスピードで声を使おうとして、いくら間違えずにスラスラと速く言えたとしても、不自然になるだけです。本当に伝えたいときに、そんなことはしないからです。

 声の響きのトレーニングでも、あまりよいトレーニングになりません。

 100キロの球がまともに打てぬバッターに、150キロの投球マシーンでトレーニングさせるでしょうか。結果としてフォームがくずれるだけです。フォームさえ身につきません。こういうときは、確実にミートできる球でしっかりとフォームを整えつつ、感触を身体で覚えていくものでしょう。つまり、目的が、あたればよいというものではないからです。

 充分に息と身体を使いましょう。ことばを発し、その分、空気が入るのを待って、こなしていくことです。

 最近の曲は速くなっていますから、リズムにのせて早口で、歌えることも必要です。しかし、口だけが速く動いても伝わりません(それでよしとしているのが、J-POPにもたくさんあるのは残念ですが)。ピアノでも速弾き競争はありません。そういうトレーニングは、つけ焼き刃にすぎず、いつまでも、速くうまく言えないことになります。速く言えるようになっても、意味や情感を伝えられなければ何にもなりません。時間と競って速く言うトレーニングは、最初は無用です。悪いくせを助長する原因となります。

 声がしっかりしていくと、1曲3分という時間はとても長くなるのです。そういう時間感覚が身につけば、歌詞を伝えるのは簡単です。しぜんと人が驚くほど多くのことばを短い時間に盛り込めるようになってきます。

 口でなく、感覚が働き出すからです。正しい発声は、おのずと機敏性をもたらしてくれます。その結果、自分で速く感じず、聞いている人にも速く感じさせず速く言えてしまうようになります。ことばのトレーニングは、まず相手に伝わるようにゆっくり、しっかりと読むところから、始めましょう。

 

50音のトレーニング]

 カ行からラ行までを読んでみましょう。

 読むパターンとしては、

アエイオウ

イウエアオ

アエイウエオアオ

アエイオウオアオ

などがあります。

 

○ことばのトレーニング

 

 一息で5音くらいまでをひとくくりで一拍のつもりで読んでみましょう。

 

○詩を読むトレーニング

 

 心に思い浮かべ、その情感や風景が伝わるように読んでみましょう。呼吸、間あい、声の大きさ、スピード、すべてに注意して構成してみましょう。

 

○歌詞を読むトレーニング

 

 歌詞をよく読んで、自分なりの解釈、さらにストーリーをつくり、オリジナルといえる読み方(歌い方でもよい)にまで高めてみましょう。

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